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10月29日 Day.8


寒さが身に染みる、本格的に秋が到来してきた。

そんななか俺たちは、ビニールシートと弁当を持ってとある公園に来ている。

紅や黄、橙が織り成す鮮やかな風景。

日本ならではの季節に感動しつつお猪口を傾ける、う~ん、最高です。


パァン!


………。


パァンパァン!


……………。


「食らえ、我が奥義を!旋風槍!」

「まだまだ!ウチの技の冴えを見よ!無双連斬!」

「ふん、貴様の剣には決定的に誇りが欠けている!」

「は、お前の体には残念なくらい身長が欠けている!」

「図に乗るなよマウンテンゴリラがー!」

「貴様らには憐れなほどに知能が足りておらんわー!」


容赦ない俺の一撃が、馬鹿共を吹き飛ばす。

地に伏した馬鹿共が動かないのを確認すると、俺は再びお猪口を傾けた。

そう、今日は近くの自然公園に来ている。

紅葉を見るために今日は閉店、まぁずっと休みなく開店していたからな。

たまにはゆったりと休日を満喫したかったのだが、どうやらこいつらは大人しくするという言葉に疎いらしい。

何処からか調達した竹刀と木槍で派手にチャンバラを始めたのだ、じっとしていられない病気なんだろうな。

隣ではヒロトが暖かい日差しの中で昼寝をしている、確かにうたた寝したくなるくらいの陽気だ、これこそ正しい平日の公園の風景ではなかろうか。

少なくとも来て早々に手伝いもせずチャンバラと洒落込むには適さない環境だ、何人か遠巻きに憐れむ目で見ていたぞ。

ひらひらと舞い散る紅葉を、穏やかな気分で眺める。

するとホカゾノが起き上がり、俺に竹刀を向けると突然言い放った。


「テメェがセイバーか?」

「そういう貴様は判りやすいな、その図体……どう見てもマウンテンゴリラだ。」

「ふふん、まぁ年寄りな兄さんはそこで酒でも飲みながら余生を過ごせば良いさ。なぁキヨシ?」

「お兄さんにはもう戦うだけの体力もないのさ、挑発にも乗れない年増だからね。」

「上等だテメェ今すぐ……。」

「へぇ、つまりカズくんより年上のあたしにも喧嘩売ってるんだね?」


隣で俺のお手製弁当を食べていたカオリが、凄く楽しそうな笑みで立ち上がった。


「いやいやカオリさん、全然そんなことないですよ!?」

「そ、そうですとも!カオリさんはずっと若くお美しい。」

「あぁん?今更謝っても遅いんだよ!」

「俺たちを怒らせたらどうなるか、その身をもって思い知れ!」


俺は傍に置いてあった刀袋を掴むと、中からかなり古い刀を取り出した。

初めて手にした刀だ、銘は呂鞘、学生時代からずっと持ってる愛刀だ。

隣ではカオリが俺の鞄からリボルバーを二挺取り出し、弾薬を確認する。


「さてキヨシ、ウチらはあの魔王と戦女神、同時に相手にしなきゃいけないらしいぞ。」

「まったく、悪魔でも失禁しそうな組み合わせだ。でも俺たちは泣いて逃げる訳にはいかないんだ、世界の平和がかかってるからな。」

「あぁ、あれが世に放たれたら大変なことになる、世界が5秒で滅ぶだろうな。」

「な~にファンタジーの主人公気取ってやがる、テメェらはその器じゃねえよ!」

「さぁカズくん、早く片付けてお昼寝しよう。もちろんカズくんの腕枕で。」

「そうだな、手早く済ますか。」

「行くぜキヨシ、最初から全力だ!」

「はっ、俺に指図すんじゃねぇよ!テメェもテメェの身はテメェで守れ!」


戦闘開始。

カオリの精確無比な弾丸が、馬鹿共の額に向かって速射される。

その弾丸の風の中を、俺は迷わずキヨシへと突撃していた。

二人は弾を躱したり弾いたりしつつ、俺の接敵に身構える。

怒濤の如き俺の剣舞が、キヨシの槍を削っていく。


「相変わらずの化け物ぶりだぜお兄さん!」

「ふん。そういう貴様も良く捌く。」


その最中、ホカゾノが少しずつカオリの方へとにじり寄っている。

俺は剣で槍を弾くと、回し蹴りでキヨシを蹴り飛ばした。


「ぐはっ!」

「怯んでる暇はないぜ!行け、カオリ!」

「あたしの本気を見せちゃうよ~!」


カオリはアサルトライフルを構えると、寝そべる姿勢でフルバーストをブチかます。

次々とマガジンを入れ換えて、まさに暴風のように弾が飛んでくる。

俺たちはその中で剣劇を上映する、戦いは苛烈を極め、ふと見ると近所のおじさんたちが観戦に来ていた、何やら賭けまでしてるらしい。


「兄さん随分と攻めが緩いな、もっと来いよ!」

「まだまだ俺らは捌けるぜ!」

「そりゃ悪かった、ちょっと冗談が過ぎたかな?」


俺は刀の動きに格闘術も織り交ぜて、更に攻撃の勢いを強めていく。

優しく手解きするように、しかし確実に実力差を思い知らせるように、より苛烈、より怒濤、暴風の追い風を受けて刀が唸る。


「キヨシ、あれを使うぞ!」

「なにっ、もう使うのか!?」

「兄さん相手に遊んでる余裕がなくなった、今日はカオリさんまで居るんだ、兄さんが本気を出したりしない!」

「大正解だ、戦局の見極めは大事だな。」

「一撃が勝敗を決めるな、このままだと負けるだけだ。」

「よし、いくぞ我らが最終奥義!」

『すいませんでしたー!』


二人が全力で土下座、しばし思考停止。


『馬鹿め、隙だらけだぜー!』

「調子に乗んなよボケがー!」

「舐めた真似してくれたじゃん!」

「もう少し気の効いた技は思いつかねぇのか!」

「いゃあ、これしか思いつかなかった。」

「兄さん相手じゃ隙も作れないし、地味に効くかなって。」

「……覚悟はいいか野郎共。」


刀と銃の和洋コンビネーション、二人は土に還りました。

さて、ヒロトとカオリと俺の三人だけで昼食を済ませると、あとはのんびりした時間が過ぎていった。

馬鹿の体力には底がないのか、ホカゾノはヒロトと一緒にバドミントンを始めた、そういや二人とも部活仲間だったな。

俺は要求通りカオリに腕枕しながら、キヨシとしりとりしてた、当然だが終わらない。

やがて飽きたのかキヨシはバドミントンに行き、俺は片手で本を読んでいた。


「あ、兄さんが官能小説読んでる。」

「死ね。」

「あ、お兄さんが官能小説でハァハァしてる。」

「腐れ。」

「あ、ヒロイさんがラノベ読んでる。」

「黙れ……ってあれ?今の誰だった!?」

「兄さん酷っ、ヒロト向こうで黙っちゃったよ?」

「ヒロトは変なこと言ってないのにね、可哀想だなぁ。」

「ヒロト悪かった、つい流れで。」

「兄さんサイテー!」

「下衆や鬼畜だってここまではしないわ!」

「悪気はないんだ、すまなかった。」

「いや、全然いいんですけど。」

「兄さんの悪魔~、魔王~!」

「女たらし~、守銭奴~!」

「ここぞとばかりにごちゃごちゃうるせえぞ!」

「うわ~、ヒロイくんサイテー。ヒロトくんに謝って!」

「そうよそうよ!謝ってよ!」

「貴様らはめんどくさい女子高生か!?」

「今どき女子高生だってこんなことしません~。」

「だったらやるなよ!」

「てかマジ~、お兄さんの淹れる珈琲ちょべりぐって感じなんだけど~。」

「古いっ!?死語にも程があるぞ!」

「判っちゃうあたり俺らも歳とりましたね。」

「……ヒロトの言葉が一番効いた。」


そうだよな、最近の人に同じこと言っても訳判んないだろうな。

うわ、俺オッサンやん。

本を読む気力も失せて塞ぎ込む。


「勝者ヒロト!」

「俺の実力ならこんなものさ。」

「さぁ勝者にインタビューのお時間です。ヒロトさん、今回の勝敗の決め手は何だったでしょう?」

「年齢に対して容赦なく抉ることでしょうか。」

「流石ですね、さりげなく容赦がないのは味方の時は心強いです。」

「こいつが敵に回ると精神的ダメージがデカい、兄さんは物理的ダメージだけど。」


ボクは心が弱いのです。

さて、そろそろ時間も遅いし、帰り支度をしなくちゃな。


「さぁ、そろそろ撤収!」

「ホカゾノ達は荷物を纏めて、あたしはシート畳んだりするから。」

「了解ッス!」

「よし、俺は監督だな。」

「働けし兄さん。」

「や、俺は年寄りだから。」

「うわ、遂にそれを理由にサボりだした。」

「さ、年寄りは放っておいて片付けよう。」

「確かに俺が悪いが、それはあんまりだよヒロト。」


手早く荷物を片付けると、俺たちは店に向かって歩きだす。

まぁ当たり前のように騒ぐから、随分と時間はかかってしまったが。

ホント、飽きないな。


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