10月4日 Day.6-2
「全員整列!」
ザッ!
「これから各自の任務を言い渡す!心して聞け!」
『Sir.yes sir!』
「ホカゾノ!」
「はい!」
「お前は俺と一緒に料理や飲み物の準備だ、日頃の成果を遺憾なく発揮せよ!」
「了解!」
「キヨシとヒロト!」
『はい!』
「お前たちは店内の清掃及び装飾を担当してもらう、センスの見せ所だ、期待するぞ!」
「お任せ下さい隊長!ヒロトを上手く使います!」
「テメェもやれよ!」
「俺はしっかりキヨシの手綱を握って上手く使います。」
「譲り合いの精神が素敵!凄く不安になってきた!……では各自の健闘を祈る、解散!」
「よし、二度寝だな。」
「俺はスロット打ちに行こう。」
「俺はゲームでもしようかな。」
「おい!何でソッコーサボろうとしてんのお前ら!?」
「だって解散って言ったじゃん。」
「違うわボケ!作業に取り掛かれって意味だよ!」
「なら最初からそう言えば良いじゃん、回りくどいよお兄さん。」
「確かにちょっと軍隊仕様でテンション上がってたよ、悪かったよ!」
「やれやれ兄さんはこれだから、実は一番ふざけてるよね、こっちは真剣なのに。」
「悪かったスミマセンもうしませんごめんなさい!」
「あれ~?謝り方が足りないんじゃない?こっちは随分とモチベーション下がったけど~。」
……ウザい、やっちまいたい。
でも今人数を減らすのは得策ではない、もう昼を過ぎている。
「つかそもそもお前らが揃いも揃って寝坊したからこんなに急いでんだろうが!」
「仕方ないさ、僕らは目覚ましに嫌われた悲しい子。」
「妖精さんにも見放され、昼まで目覚められない悲しい子。」
「あの酒は美味かったなと余韻に浸る悲しい子。」
『ヒロトー!何ばらしてんのー!?』
「結局テメェらが原因じゃねえか!」
「兄さん、悪いのはヒロトです!」
「あんな美味しい酒を不敵な笑みで出すのが悪いんだ!」
「ヒロイさん、こいつら俺より先に封を開けるんですよ。」
「何て計画性のない馬鹿なのお前ら……。」
学習できないのか、もうダメダメ。
「もういい、とっとと作業を始めろ。」
「ならキヨシ、色紙とか買いに行こうぜ。」
「任せろ、荷物は持つぜ。」
「ならウチは仕込んでおいた鶏肉とか味見しないと。」
「節操なく色々用意したからな、味とか不安だ。さ、始めるか馬鹿。」
二人ともカウンターに掛けてあるエプロンを着けると、厨房に入る。
すると何故か俺たちより先に、本日の主賓であるカオリが待ち構えていた、既にエプロンも装着済みだ。
「あれ?何でカオリさんがここに居るの?」
「いちゃ悪いの?」
「いや全然いいッスけど。」
「カオリ、部屋で待つんじゃなかったのか?」
「上達したあたしの腕前を見せにきた。」
「ほほぅ、では期待させてもらおう。自分の誕生日の料理を自分で作るってのも面白いが……因みに何を作るんだ?」
「炒飯!」
「………。」
「兄さん!黙ったら駄目だよ!」
「炒飯だと、凄いじゃないか!」
「なんか反応が微妙じゃない?」
「ウチも料理しないと!」
「さて、俺は白身のカルパッチョでも作るか。」
「ちょっと二人ともこっちを見なさい!」
いやいや、俺たちの作る物の中に炒飯って……シュール通り越して恐怖だよ、何かの罰ゲームかと思うわ。
洋風の料理が殆どの中で唯一の中華、もう罠にしか見えない。
結構カオリが練習してるのは知ってたが、まさかまだ炒飯の段階だったとは。
当のカオリさんは早速卵を割っている、しかも10個ほど、全員もれなく炒飯を丼でご堪能あれって感じだ、俺たち作らなくても満腹じゃないか。
ホカゾノも同じ事を思っているらしい、カオリをチラチラ見ながら苦笑してる、気持ちは判るぞ。
さて、となると俺たちの求められるのは質だ、量に関してはカオリさんが一人で無双してるし。
まぁカルパッチョは良いだろう、元々がっつりしてないし。
だけど鶏肉とかは止めよう、胃袋がトラウマを抱えそうだ。
ホカゾノに上手く目配せして、伝わったのか鶏肉を仕込んでいたボウルを冷蔵庫に戻す、すまないな、今度の夕飯にでも食べよう、今日は炒飯だ。
ホカゾノは冷蔵庫をがさごそ探して、海老の剥き身を取り出した、まさかエビチリ?
いや、確かにそれなら上手く炒飯に合わせることが出来る、でかしたぞホカゾノ!
心の中でガッツポーズ、お互い目が合ってハイタッチ。
さて当のカオリは何だか馬鹿デカい中華鍋を取り出して、何故かご飯から炒め始めた、そんな鍋この厨房にあったかな?
ご飯を炒めたらその中に解いた卵をブチ込む、あおり炒めなのですね、流石はカオリさんだ。
だけどカオリさん、ご飯一升はやり過ぎだよ、誰かの胃袋が風船に針を刺したみたいに破裂するよ。
ホカゾノを見たら一心不乱に無駄な動きをしながらエビチリ作ってた……腹を空かす作戦か!?
今日ほどお前に共感できる日はないよ、泣くな。
しかし、善意100%の嫌がらせってこんなに辛いんだ、悪夢だな。
二人して踊ったりしながら料理してるから、厨房は今だけリオデジャネイロ。
さぁここでカオリさん、卵まみれのご飯に追加しますは炒飯の素、本当に練習したんですか?
昨日までの景色が嘘に思える、実はカップ麺にお湯を注いでただけだったのかな。
ホカゾノは狂気の踊りに勤しんでる、もうエビチリ作成は進まない、塩の代わりに涙を入れてる。
「お兄さ~ん、壁にテープ直接貼っても……やっぱいいや。」
弟くんが一瞬顔を見せてすぐに戻って行った、だよね、何があったのか想像つかない光景だもの。
厨房に入ったらオッサン二人がリオのカーニバルもびっくりなダンスしながら料理してる光景、正直自分でもおぞましい。
もう最初の目的すら怪しくなってきた、何で俺は踊ってるのか。
気が付けば完成しているカルパッチョにラップして、冷蔵庫にしまう。
さて、客席の様子でも見に行こうかな。
チラッとカオリの方を見ると、なんとあんかけにチャレンジしようとしている。
ホカゾノはそれを見て絶句し、目の前に完成したエビチリを見やる。
そうだよな、炒飯の味のバリエーションを増やす目的で作ったもんな、これじゃ単に胃袋へ更なる負荷を掛けるだけだよな。
俺がさっぱりした物を作ったから別の方向性で攻めたのに、あれじゃエビチリをあんかけ代わりにできもしない。
ホカゾノが遂に崩れ落ちた、殉職したホカゾノに敬礼。
客席に出てくると、そこにはなんと!……俺の眉間へと飛んでくる紙飛行機。
咄嗟に避けると、紙飛行機は厨房の方へ、良く飛ぶなぁ。
「あ、踊りは終わったの?」
「あれ?ホカは?」
「彼は全力を出して敵と戦いましたが、奮戦実らずグリストへと還っていきました。ホカゾノに敬礼!」
三人で再敬礼、君との日々はまぁまぁ楽しかったぞ。
フロアを見渡すと、結構作業は進んでいるようで、特に手伝う事もなさそうだ。
「珍しく真面目に作業してんじゃんか。」
「ふっふっふ、伊達に料理役立たずコンビじゃないぜ!」
「いや、俺は多少料理できるし。」
「早々に裏切り!?」
「ま、まぁちゃんとやったなら良いんだ。」
弟くんが泣きそうだがとりあえず放置しよう、彼らには話し合いが必要だ。
厨房に戻ると、俯せに倒れたホカゾノの頭に紙飛行機が突き刺さっていた、上手く飛んだなぁ~。
「カズくん、そろそろ出来上がるよ!」
「おぉ…ってうぉっ!?」
でっかい丼に山と盛られた炒飯は、我らが日本の象徴富士山が如く、あんかけが雪のようにかけられていた。
ただし、所々片栗粉がそのまま残ってるのが気になるが。
「カオリ、誕生日おめでとう!」
「おめでと~!」
「ひゃっほぅー!」
「うひゃぁい!」
「お前ら、少しは日本語喋る努力をしなさい。」
「二人ともありがとう!」
「俺たちは無視ですよキヨシさん。」
「えぇ、おかしいですね、今日は俺の扱いがみんなして酷い。」
「さて、お待ちかねのご飯を食べましょう。」
「おっとその前に、カオリ、プレゼントだよ。誕生日おめでとう。」
俺はポケットから小さい箱を取り出した、中身は有名ブランドのネックレス。
「ありがとう!大事に使います。」
「ならウチも、おめでとうございます。」
ホカゾノが何かを取り出した、袋自体は薄い。
カオリが開けてみると、出てきたのは意外におしゃれなエプロンだった。
「ホカゾノにしては上出来すぎるだろこれ。」
「うん、かなり意外な感じ。でもありがとうホカゾノ、たまにはやるじゃん。」
「たまにはって…。」
「さて、真打ちは最後に登場ってね!」
「さて、ご飯にしよう!」
「HEY!HEY!HEY!お兄さん、それはちょいとおかしな流れじゃねぇですかい?」
「えぇい五月蝿い、いちいち発音良くするな。それと、ゴミ箱はあっちだぞ。」
「さぁカオリさん、これをどうぞ!」
「おい、シカトかコラ。」
「何だろう……うわ。」
箱から出てきたのは案の定と言うか、ピンクのバイブ、ついでにローション。
カオリはちょいと引き気味、そうだよな、こんな馬鹿腐ればいい。
「あれ、反応が薄いな?」
当然だ馬鹿者、脳ミソに蛆でも湧いてるのか。
さて、残りはヒロト。
だがこいつも下らない物を買ってるはずだよな。
ヒロトはちょっと悩んだあと、手に持っていた包みを脇に置き、新しい箱を取り出した。
「何それヒロト!?自分だけ代わりの物を用意してるとかズルくない!?」
「キヨシ……もっと賢く生きなきゃ。」
「裏切り者ー!」
キヨシ、崩れ落ちる。
誰も気に留めず、ヒロトのプレゼントが手渡された。
中身はマグカップが二つ、どうやらペアになってるようだ。
「ホカゾノに続きヒロトもセンスを感じるな…それに比べてこの愚弟は。」
「止めて~、見ないで~!」
「せめてまともな物とセットだったらまだマシだったろうに。」
「おふざけは程々に。」
「ヒロトだって直前までふざける気満々だったじゃん!」
「黙れよ。」
「はい。」
「まぁまぁとりあえず、今度はあたしからプレゼントって訳でもないけど、ご飯だよ。」
カオリが厨房に行き、デカい丼を四つ持ってくる。
俺とホカゾノもそれぞれ持ってきて、テーブルに並べた。
テーブルには白身のカルパッチョとエビチリと、大食いチャレンジかと思うような炒飯の山脈。
正直に言おう、不味そうだ。
このあんかけが台無しにしている、何もなければまだ食えた、量は馬鹿としか言えないが。
他の二人は初見だからな、唖然とするのも無理はない、もう食い切らなきゃならない流れだしな。
これから終わりなき戦いに従事する胃袋戦士諸君。
明日は無情にも仕事だ、そして恐らくカオリはこの炒飯を味見していない。
己の限界に打ち勝て。
カオリを除く全員の意識が、生き残るという言葉に収束した。
「それじゃあ皆様……ご武運を!」
「?……乾杯!」
『乾杯!』
第一次炒飯事件は、グラスを打ち鳴らす音によって始まってしまった。




