ただいま
「いきます」
カレンは剣を地面に突き立て、その手をオメガデーモンに向ける。タマキも黙って空いている手を同じようにした。
タマキの体からは漆黒のオーラ、カレンの体からは白い光が発生し、それが二人の手に集中していく。そしてそれは手の間で一つにまとまった。
そして、それが一気に光線として放たれた。オメガデーモンはそれを手を伸ばして止めたが、じりじりと押されていく。
「こんなもんじゃ、ないぜ!」
タマキが気合を入れると光線はさらに勢いを増し、オメガデーモンの体は光線に飲み込まれた。
数秒後、光が収まるとそこには何の姿もなくなっていた。だが、圧力のある気配と、低く、頭に直接響いてくるような声が聞こえてきた。
「これほどの力だったか。体も失ったことだし、今回は退くことにしよう」
そして、気配は一気に消え去った。それを感じたミラはタマキとカレンに駆け寄った。
「師匠! 終わったんですか?」
「いいや」
タマキは首を横に振ってから、握っていたカレンの手を放した。
「あいつのとりあえずの体を消しただけだし、これからが本番だ。でもまずは」
タマキは恵美に視線を移し、歩み寄った。
「さて、帰る準備は?」
そう聞かれた恵美は戸惑いながらもうなずいた。そこにカレンがドラゴンオーブを差し出す。
「エミ様、帰るのに必要なものです」
「あ、はい」
恵美はそれを両手で受け取って、胸に抱いた。そこにソラが不思議そうに口をはさむ。
「帰るっていうのは、一体どうするんですか?」
タマキはまだ開いている空間の歪みをあごで差した。
「あれを使うんだよ」
「じゃあ、まさかあれのためにあいつと戦ってたんですか?」
「そうだよ。あれを開くのは俺もカレンもできなかったからな。だからあいつにやってもらう必要があったんだよ」
「って、つまり手加減してたわけですか」
ミラは多少あきれたような表情をしていた。タマキは頭をかいて苦笑いを浮かべる。
「そうだと言えればいいんだけど、そうでもなかったな。それよりも、早くやることをやらないと」
カレンがうなずき、恵美の手を取った。
「ではエミ様、これからあの中に入っていただきます。私達も途中まではご一緒しますので、ご安心ください」
「はい。それで、私はどうすればいいんですか?」
「そのオーブを離さないようにしっかり持っていてくれりゃいいよ。そうすればそのオーブが元の世界まで案内してくれるはずだから」
「わかりました。それで、あの! 何か持っていくものとかありませんか?」
「ああ、そういえばこれがあったんだった」
そう言ってタマキは一枚の紙切れを恵美に差し出した。
「俺とヨウコさんの向こうでの住所が書いてある。探してみると楽しいかもよ」
恵美はそれを受け取ると大事そうにポケットにしまった。
「さて、それじゃあそろそろ行きますか」
そうして全員が空間の歪みの前に移動した。タマキは振り返り、後ろの三人に笑顔を向ける。
「じゃあ、俺とカレンはしばらくは戻らないと思うから。その間はよろしく頼むよ」
「え? ちょっと、それはどういうことですか」
ミラが足を踏み出すと、カレンがそれに答える。
「オメガデーモンの本体はほぼ無傷ですから、それをなんとかしてくるんです。そのためにはこの世界から離れる必要がありますからね」
「そういうこと。どれくらいになるかはわからないけど、戻ってくるからな。じゃ、行くぞ!」
ミラが次の質問をする前に、タマキ達三人は歪みに入って姿を消してしまった。その数秒後、歪みは徐々に正常に戻り、その姿を消した。
ミラはそこに近づき、しばらく何かを探すようにしていたが、しばらくして大きくため息をついた。
「なんか、いつも置いてけぼりにされてる感じじゃない?」
「そうではないだろう」
バーンズがミラの隣に並んで口を開く。
「戻ってくるという言葉を信じよう。そして、それまでは我々がなんとかするんだ」
「そうですね。姉さん、今はとにかくノーデルシア王国に戻って、これからのことを考えるのはそれからにしようよ」
「まあ、そうするしかないか」
三人はその場から立ち去り、撤収の準備を開始した。
一方、一連のことを見ていたファスマイドは満足気な表情で体を伸ばしていた。
「とりあえずは、タマキ君の完勝って感じだったね。いいもの見せてもらったし、僕は僕で適当に色々やっておくとしようか」
ファスマイドは姿を消した。
それから数日後、ノーデルシア王国ではエバンスの戴冠式が行われた。世界中から様々な人々が集まっていたが、その中でミラとソラは里帰りの準備を進めていた。
「もう少しゆっくりしていってもいいんじゃないの?」
ヨウコがそう聞くが、ソラは首を横に振った。
「いえ、今回は元々あまり長居する気はありませんでしたし、一度帰ってからまた来るつもりですよ。僕としてはご子息が気になるので」
「そういうことなら、また近いうちにアランの顔を見に来てね」
「もちろん! そうさせてもらえるなら喜んで来ますよ!」
ミラは自分の胸を勢いよく叩いた。ヨウコはそれを見て微笑み、それから窓の外を見た。
「恵美ちゃんは今頃無事に帰っているのかしら? それに、タマキ君とカレンは。いや、あの二人なら何があっても大丈夫よね」