平和な村と魔物の出所
タマキが村に到着すると、どうやって知ったのか、カレンが迎えに来ていた。
「お帰りなさい」
「ただいま。村のほうはどうだった?」
「大したことはありません。魔物は多少でましたが、対応できないほどではありませんでしたから」
「そっか」
そこに村の子供が数人走ってきて、カレンの手や足に抱きついた。
「お姉ちゃん、一緒に遊ぼうよ」
「それより縫い物を教えて」
「それはまたあとでお願いしますね」
カレンも微笑を浮かべて子供に応対していた。タマキはその光景を見て頭をかいているだけ。
「すっかり人気者みたいだな。おいお前ら、遊びなら俺が付き合ってやるよ」
タマキはそう言うと子供を二人抱えあげた。
「どこに行きたい?」
子供は少し戸惑ったが、すぐに気を取り直した。
「じゃあ、丘のほうに行こう!」
「よしきた! じゃあカレン、また後でな」
それだけ言ってタマキは子供と一緒に走っていった。カレンはそれを見送りながら、優しげな笑みを浮かべていた。
そして夕方。借りている家でタマキとカレンはのんびりした雰囲気で向かい合って座っていた。
「それで、首都のほうはどうだったんですか?」
「けっこう収穫はあったよ。狼男に会ったりしたし」
「ウェアウルフですか、また変わったものが出ましたね。それでどうしたんですか」
「まあ、とりあえず狼になっても本人の意思で動けるようにしてきたよ。おかげで貴重な協力者も確保できたし」
「どのような人なのでしょうか」
「家具屋の経営者のおっさんだよ。けっこう羽振りはよくて、話もわかる感じの。勘もいいみたいで、俺の正体にも感づいたようだけど」
「それは、大丈夫でしょうか」
「平気だと思うけどな、狼化の呪いなんて他では話せないだろうしさ。あとは勘だ」
「またそんなことを」
カレンは眼鏡の位置を直してため息をついた。
「でも俺の勘はよく当たるだろ」
「そうですね、他にあてもありませんし。ところで目当ての人は見つかったんですか?」
「何人か候補はいるけど、まだなんとも。それで、こっちの村のほうの見通しはどうかな」
「魔物がどこから現れているのかをつきとめる必要があります。これは何者かが仕掛けていることだとしか思えませんから」
「そうか、こっちのほうを先に片付けないと思うようには動けないよな。その場所の見当はついてるのか?」
「それが、どうやら魔物の発生地点は移動しているようなんです」
「それはやっかいだな。いっそのこと、ここらへん全部焼き払うか」
「やめてください」
カレンの鋭い一言にタマキは頭をかいて笑った。
「いや、冗談だよ。でもどうしようか、カレンにも首都のほうを見に行って欲しいと思ってたんだけどな」
「先にこちらの問題に集中すべきだと思います」
「そうだな、そうしよう」
そう言ってタマキは立ち上がると、首をぐるっとまわした。
「俺は先に寝させてもらうよ」
「はい、おやすみなさい」
「おやすみ」
そして翌朝。
「タマキさん、朝ですよ」
「ん? ああ」
「もう朝食の用意はできています」
「そうか、悪いな」
タマキとカレンは食卓について、パンと焼いたベーコンの軽い朝食を始めた。
「で、どこから手をつけようか」
「魔物が出るまで待ったほうがいいのではないでしょうか。魔物が出てくれば、その方向に発生源があることが推測できますから」
「そうだな。じゃあ、俺はその発生源のほうに集中するよ」
「はい。魔物は私が対応しますから、そちらのほうはお願いします」
「ああ、任せろ」
朝食を終えた二人は、まず村のはずれに向かった。タマキは周囲を見回してから、アミュレットをつかんだ。
「おい、起きてるか」
「当然だ。何か用か?」
「魔物の発生源を見つけるから、ちょっと力を貸せよ」
「ああ、好きにしろ」
タマキは目をつぶってマントに手をかけた。すると、その体を中心として闇の波動が生じて、マントが深い闇に染まっていった。
タマキの目が開かれると同時に、その波動はおさまったが、マントは闇に染まり、闇そのものともいえる状態のままだった。カレンはそれを見ると魔物を見つけるために歩き出した。
数十分後、巨大なオーガが三体現れると、カレンとタマキは目配せをして、タマキは一気に上空に飛び上がっていった。
一方、カレンは眼鏡を外してから腰の剣を抜き、オーガ達と対峙した。
「すみませんが、今回はすぐに終わらせてもらいますよ」
剣とカレンの髪、そして瞳が白銀に輝く。そして、その足が地面を蹴り、目視できないほどのスピードでオーガ達の間を切り裂き、気がついたときにはその後ろに立って剣を鞘に収めていた。
オーガはどこを切られたかもわからず、まるで何もなかったかのように塵となって消滅した。それからカレンは上空を見上げた。
「頼みます」
頼まれた上空のタマキは、早速魔物の発生源らしきものを見つけていた。
「あれは転移門だな」
「それはお前の力で使えるやつと同じなのか?」
「いや、それよりも大きい。お前がもっとしっかりしてればあれくらいは簡単に使えるはずだがな」
「うるさいな、少し黙ってろ。行くぞ!」
サモンの小言を遮ったタマキは一気にその転移門目がけて降下する。近くで見ると、それはなんというか、空間が歪んでいるとしか形容できないものだった。
「これはまた妙なものだな」
サモンの言葉にタマキは不思議そうな表情になった。
「お前が知らないものなのか?」
「ああ、出来が悪くてな」
「そうかい。まあさっさと閉じようと思うんだが、方法はわかるか?」
「魔力をぶつければ消滅するはずだ」
「じゃ、やってみるか」
タマキは片足を一歩引いて構えると、拳に自分の魔力を集中させて、その歪みに突きを叩き込んだ。
歪みはあっさりとそれに打ち砕かれ、その場所はまるで何もなかったかのように正常な状態に戻っていた。