開かれた門
ミラとソラは立ち直って、タマキ達を見ながら会話を交わしていた。
「さっきのあれ、おかしいと思わない?」
「そうだね。ただのインスタントスペルカードなら、あんな威力は無理だよ」
「じゃあ、ひょっとするとあれがエミの力?」
「力の増幅というわけだね」
そこに兵士達を退避させたバーンズが戻ってきた。
「二人ともここから離れたほうがいい。すでに我々の介入できる戦いではないぞ」
ミラはうなずいたが、動く気配はない。
「まあそうだと思いますけど、でも最後まで見届けたいんですよ。それにエミのことも守らないと」
「そうか。ソラ、お前も同じか?」
バーンズが聞くと、ソラは黙ってうなずく。
「そういうことなら私も付き合おう」
それから三人は恵美の側に移動した。恵美はそれに気がついているようだが、振り返らずにタマキ達をじっと見ている。
ミラは恵美の手をとって移動させようとしたが、ソラがそれを止めた。
「エミさんはこれを見届けるつもりだよ。僕達もここでそうしよう」
ミラはうなずき、黙って恵美の横に立った。
タマキは後ろをチラッと振り返ってから、オメガデーモンに向かって口を開いた。
「さて、ギャラリーも集まったことだし、そろそろ始めるか」
「いいだろう」
オメガデーモンは一気に力を開放した。それを見たタマキは笑みを浮かべる。
「いよいよですね」
カレンが小さくつぶやき、タマキはそれにうなずく。それとほぼ同時にオメガデーモンの手から熱線が発射された。タマキはそれをマントを広げて受けると、すぐに真上に上昇する。だが、オメガデーモンはさらにその上をとった。
そして腕が振るわれると、三発のエネルギー弾がタマキに向かって放たれた。タマキは再びマントを広げたが、それの直撃をうけると強烈な爆発に巻き込まれた。
その爆発の中をカレンが急上昇してオメガデーモンに迫ったが、それはなにか見えない壁に阻まれる。そこでオメガデーモンの腕が振るわれると、カレンの体は弾き飛ばされた。
そして、オメガデーモンはさらに自分のまわりに十発のエネルギー弾を発生させると、その半分をタマキとカレンに向けて一斉に放つ。
土煙の柱が立ったが、その中をカレンが上昇してくる。そこにオメガデーモンは三発のエネルギー弾を撃ち込み、カレンを地面に叩き落した。
それからすぐに振り返ると、背後に現れていたタマキに残りの二発を放つ。それは両方直撃し、タマキは地面に落ちていく。そうしてできた隙に、オメガデーモンはタマキの腰からドラゴンオーブの入った袋を奪い取った。
そして恵美の前に降りると、一瞬の動きで攻撃をしてきた三人に膝をつかせた。恵美はとっさにカードを取り出したが、オメガデーモンはそれを指で貫いて発動を止める。すぐにその手で恵美の腕をつかむと、その体を引き寄せた。
「時間があまりない。今すぐ来てもらおう」
それだけ言うと、オメガデーモンは体の横で軽く腕を振る。するとそこの空間が歪み、虚無としか言えないものが現れた。それは徐々に広がっていき、人が二人通れるほどのサイズになった。
オメガデーモンが恵美をその中に突き飛ばすと、恵美の体はゆっくりと落ちるようにその虚無に飲まれていく。オメガデーモンもそれに続いてそこに入っていった。
だが、そこに漆黒のロープのようなものが伸び、その二人を絡め取った。オメガデーモンが驚いたように首を回すと、そこにはそのロープを握った晴れやかな笑顔のタマキがいた。
「待ってたぜ、あんたが門を開くのをな」
オメガデーモンは動じずに、余裕の表情を浮かべる。
「それがどうした? これを閉じてしまえばお前の攻撃など届きはしなくなる」
それから空間の歪みは徐々に小さくなり始める。しかし、そこにカレンがゆっくりと近づく。髪と瞳の色は元に戻っていて、傷ついた鎧を見ると、すでに力が残っているようには見えなかったが、その目は鋭い。
そして、タマキの横に並ぶとゆっくりと剣を片手で振り上げた。
「正直、あまりこの技の名前は好きではないんですが。せっかくタマキさんがつけてくれたものですから、使わせてもらいます」
オメガデーモンは余裕の表情を崩さないが、カレンは軽く息を吐き出してから自らの全てを研ぎ澄まし、鋭く剣を真下に振り下ろした。
すぐには何も起こらなかったが、数秒後、空間の歪みに剣の軌道と同じ亀裂が走った。
「次元斬」
カレンがつぶやくと空間の歪みが亀裂にそって一気に拡大する。同時にタマキはロープを思い切り引っ張って二人を歪みから引っ張り出した。
そこからすぐにタマキはロープを放し、高速で移動して一瞬で恵美とオーブを奪い返し歪みの後ろにまわると、すぐ横についてきていたカレンに一人と一つを渡す。
そしてすぐに振り返ると、すでにロープから逃れたオメガデーモンと向かい合って口を開く。
「さて、今のあんたの後ろになら、いくらでも強烈なものをぶちかませるよな」
カレンは恵美を自分の背後に守るように隠し、タマキの手を握った。




