手段
「いよいよ大詰めって感じだね」
離れた場所から戦いを眺めていたファスマイドは楽しそうにつぶやく。
「どうなるか、じっくり見させてもらうよ」
その視線の先では、タマキとカレンがオメガデーモンを挟むような位置で立っている。恵美はミラ、ソラ、バーンズに守られるようにして離れた位置にいた。
オメガデーモンはゆっくりとタマキに向かって歩き出した。タマキもカレンも動かず、じっとそれを見る。そのままオメガデーモンはタマキの目の前まで到達し、ゆっくりと右手を上げた。タマキも黙って左手を上げて、片手で組み合った。
二人が同時に手に力を込めると、力の波動が発生して二人の周囲の地面が沈みこむ。力はオメガデーモンが上でタマキを押し始めるが、そこでタマキはマントを巻きつけた右手を突き出す。オメガデーモンはそれを左手でつかみ、さらに力を込めた。
「これがあんたの本気か!?」
タマキの言葉にオメガデーモンは笑う。
「まだまだだ」
そして、より力が込められる。タマキは一気に押されて膝をついた。だが、そこに上空からカレンの剣が振り下ろされる。だが、オメガデーモンはタマキを持ち上げて、それに向かって振り回した。
カレンは剣を止めるが勢いで体勢を整えることができず、さらにオメガデーモンはタマキを放し、放られたその体はカレンが受け止めることになった。
そこにオメガデーモンの腕が振るわれ、球状のエネルギーの塊が二人を襲う。タマキはなんとかマントを広げてそれを防いだが、衝撃で二人は飛ばされた。
カレンがタマキを抱えたまま着地すると、そこにもエネルギーの塊が襲いかかってきた。カレンがタマキを地面に下ろすのと同時に、二人は左右に別れてそれを避ける。だが、そのエネルギー弾は二つに分裂してそれぞれ二人を追った。
「色々やってくれるな!」
タマキはマントをドリル状にして腕に装着すると、それを貫き、霧散させた。一方カレンは剣でそれを真っ二つにしていた。
オメガデーモンはタマキに狙いを定めたようで、加速してタマキの真上に出ると、そこから軌道を変えて急降下をする。タマキは右手のドリルを横向きにしてその蹴りを受けたが、勢いは殺せずにそのまま地面に激突し、地面を削った。
そこにカレンの放った光の刃が三発飛来するが、オメガデーモンはそれを予期していたかのように、上空に飛んでそれをかわした。邪魔がいなくなったタマキは立ち上がり、ドリルを元のマントに戻して右肩にかけた。
「まったく強い強い。どうしたもんかな」
タマキは頭をかいてオメガデーモンを見上げる。それに返ってきたのは冷ややかな表情だった。
「ならば、すぐにあの娘とそのオーブを置いて立ち去るのだな」
「そんなことしたらあんたが完全に実体化するんだろ? 俺はこの世界に住んでるんだし、そういうのは困るんだよ。魔族二体ぶんの体とは言っても、仮の姿でその力だ。あんたの世界の力そのままでこっちに来られたら、さすがに手がかかりそうだからな」
「ならばそこで見ているがいい」
オメガデーモンが右手を軽く横に動かすと、タマキの周囲から、あの魔物が数十体地面を突き破って姿を現した。
それが一斉に飛びかかり、タマキの姿が見えなくなる。オメガデーモンはすでに恵美目指して動いていたが、その前にカレンが立ちふさがり、白銀に輝く剣が袈裟切りに振るわれる。オメガデーモンをそれを受けることなく、急激に軌道を変えてかわす。
そのままオメガデーモンは恵美に向かってさらに加速していく。ミラ達は迎え撃つ間もなく、その勢いに吹き飛ばされた。
そしてオメガデーモンは恵美の数歩前で急停止すると、歩いて近づく。恵美は一歩後ろに下がるが、すでに相手は目の前に到達していた。
「さて、お前の力、使わせてもらおうか」
オメガデーモン腕が恵美をつかもうと伸びた。しかし、そこで恵美は素早く背中に手をまわすと、何かをつかんでそれをオメガデーモンに突きつける。
「発動!」
恵美の手に握られたカードが光り、オメガデーモンにむかって凄まじい爆発が起き、その体を後ろに押しやった。そして、その隙にカレンは闇をまとった剣をそこに振り下ろす。
爆発の影響を受けていたオメガデーモンは避けきれず、背中にその一撃を受けた。だが、二撃目は大きく前方に跳躍してなんとかかわす。そして空中で静止したが、そこにも雷の矢と氷の牙が襲いかかる。
それは腕で振り払われたが、さらに横殴りの竜巻が現れ、オメガデーモンの体はそれに巻き込まれた。しかし数秒後、その竜巻は打ち破られ、オメガデーモンは空中に静止する。
「こいつはお返しだ!」
さらに上空からタマキの強烈な急降下キックが炸裂した。タマキは反動で宙返りをして恵美の背後に降りる。
数秒後、オメガデーモンは叩きつけられた場所からゆっくり起き上がった。だが、それは明らかに傷つき、かなりのダメージを負っているのがわかった。それでも、オメガデーモンの表情に焦りのようなものはうかがえない。
「さて、ここからが気の抜けないところだぞ」
「はい。わかっています」
タマキとカレンも油断なく構えた。




