遅れてきた勇者
オメガデーモンはタマキを一瞥すると、とりあえずは何もせずに地面に降りる。それを見たタマキはカレンの手を放して一歩前に出た。
「遅い到着だな、勇者。それにドゥームデーモン」
「そうだな。それより、あんたに会ったら聞きたいことがあったんだけどさ」
タマキはそこで腰の袋からドラゴンオーブを取り出した。
「これって、あんたが欲しいものかな?」
オメガデーモンはわずかに眉を動かしただけで、何も言わない。タマキはその反応を見てから、オーブを元に戻した。
「まあ、どっちでもいいか。どうせ行動でわかるしな」
タマキは手に持っていた布、マントを肩にかけた。それからカレンに目配せをして軽くうなずきあい、タマキは前に出て、カレンは後ろに下がった。
「さて、始めるか」
その言葉と同時にマントをひるがえすと、それは一気にタマキの右腕に巻きついてドリルのような形状になった。そしてタマキは地面を蹴って空に飛び上がる。
「ライトニング!」
稲妻がオメガデーモンを撃ったが、それは指の一本で軽く払われた。そしてオメガデーモンはすぐにタマキに向かって急上昇をする。タマキもそれに応えるように、急降下し始めた。
そして交差する瞬間、互いに右腕を突き出し激突した。タマキのドリルとオメガデーモンの右腕が激しく交錯し、二人は位置を入れ替える。
タマキは着地してすぐに振り返ると、左手に魔力を込めて炎を発生させた。
「三十倍! 濃縮版ファイアボール!」
手のひらサイズの大きさの火の玉が、一瞬でオメガデーモンに到達する。そして、それはその体を飲み込む程度のサイズになり、強烈な熱を発した。だが、それは弾け飛び、中からは無傷のオメガデーモンが姿を現す。
「さすが」
タマキの声がその背後から響くと同時に、風を切る音が響いた。オメガデーモンは振り向かずに腕を上げ、振り下ろされた漆黒のドリルを受け止めた。
「ノーデルシアの勇者の力はこの程度か?」
その言葉にタマキはにやりと笑う。
「どうだろうな」
そこでドリル状だったマントがほどけ、一瞬でオメガデーモンの腕に巻きついた。
「よっしゃあああああ!」
タマキはそれを引っ張り、頭の上で一回転させると、急降下しながら地面に叩きつけた。タマキはすぐにマントを自分の手元に戻すと、前に走り出す。
そこにオメガデーモンの落下地点から熱線が放たれるが、タマキはマントでそれを払う。そして立ち上がっていたオメガデーモンに向けて手を突き出した。
「二十倍! バースト!」
巨大な爆発でオメガデーモンの体が吹っ飛んだ。
「今だ!」
吹っ飛ばされた先にいたミラはすぐに反応して、ソラを見てから剣を構える。
「火と風の精霊よ!」
精霊の力を受けたミラは加速して空中のオメガデーモンとの距離を詰めた。剣が風と炎をまとい、激しく燃え上がる。
「必殺! 精霊剣!」
激しい炎がオメガデーモンを直撃し、その体を地面に押さえつけた。
「こいつ! 消えろおおおお!」
炎がいっそう激しさを増し、地面を削りながらさらに地中にめり込んでいく。だが、その炎の中からオメガデーモンが飛び出した。
「逃がすか!」
そこにタマキが斜め上方から蹴りをくらわし、再びオメガデーモンを地面に叩きつけた。そして、地面を転がるそれにバーンズが剣のカードを入れ替えながら走る。
「三十倍! マシンガンアイスバイト!」
立ち上がろうとしたオメガデーモンにタマキの放った小さな氷の牙が降り注ぎ、動きを封じた。その隙にバーンズは剣の間合いまで近づき、氷の牙が途切れると同時に剣を振り下ろした。
「ファントムクラッシャー!」
剣がオメガデーモンの左肩に食い込む。だが、オメガデーモンは強引に立ち上がると、そのまま後方に跳んで逃れた。
その体は今までの攻撃によりダメージを負っているのが明らかだった。それでもオメガデーモンは余裕を持った表情に見える。
「いい攻撃だったが、それではまだ足りんな。それとも、まだ手があるのか?」
タマキはその言葉にうなずきながら地面に降り、楽な姿勢をとった。
「いいや、本番はこれからだ。ゲストも来たしな」
タマキが小屋の方に目をやると、オメガデーモンもつられて同じ方向を見る。そこにいたのはカレンと、その背後に立つ恵美だった。オメガデーモンは視線をタマキに戻し、目を細める。
「何を考えている?」
「さあ? 少なくともあんただけに都合のいいことじゃないのは確かだよ」
タマキの答えにオメガデーモンは口元を歪めて笑みを浮かべた。
「まあいい。お前達の思惑など力で潰すまでだ」
そこでオメガデーモンの雰囲気が変わる。タマキは力が一気に高まったのを感じ、カレンと一瞬だけ視線を交わした。