悪魔の力
カレンは先手をとってオメガデーモンに向かって踏み込んだ。オメガデーモンはそれを引きつけると、急上昇してそれをかわす。カレンも地面を蹴ってすぐにそれを追った。
それに向かってオメガデーモンが軽く腕を振ると、三日月形のエネルギーの塊がカレンに襲いかかった。カレンはそれを剣で両断しようとしたが、剣はエネルギーの塊と拮抗する。しかし、そこで押し負けずに剣がエネルギーの塊を弾き返した。
カレンはそこで上昇を止め、空中でオメガデーモンと対峙した。
「あれを弾くとは、さすがの力だ」
「そちらこそ」
それだけ言葉をかわすと、二人は激突した。その瞬間衝撃波が発生し、オメガデーモンの腕とカレンの剣が激しく競り合う。
力はオメガデーモンのほうが上のようで、カレンは押し込まれそうになったが、それをいなして横に回りこむ。そしてそのまま体をひねってオメガデーモンの後頭部に蹴りを叩き込もうとした。
だが、オメガデーモンはわずかに体を沈ませてそれを空振りさせる。そのままオメガデーモンは体を反転させてカレンを見上げる形になると、腕を振ってエネルギーの塊を放った。
カレンは一瞬だけそれに手をつき、その勢いで体を回転させながらそれをかわす。間髪入れずにオメガデーモンは急上昇してカレンの頭上に出る。そこから足を振り上げ、それをカレンの頭上に振り下ろした。
カレンは片手でそれを受け止めようとしたが、衝撃に耐えられずに頭から勢いよく落下し始める。オメガデーモンは急降下しながらカレンの頭を狙って足を突き出し、さらに追い討ちをかけようとした。
しかし、カレンはそれを身をそらせてかわすと、目の前の足をつかんだ。そこから膝をオメガデーモンの背中に突き刺し、その勢いでオメガデーモンが下になるように体を入れ替える。そのまま二人は地面に激突した。
土煙が立ち昇り、その中から二つの影が互いに反対方向に飛び出した。カレンは小屋とバーンズ達を背後に立ち、オメガデーモンはその反対側に立った。
「これは受けられるか?」
オメガデーモンは両手をカレンに向ける。それにたいしてカレンが剣を強く握ると、剣は巨大な闇の塊をまとった。そして、それを待っていたかのようにオメガデーモンの構えた手から巨大な熱線が発射される。
カレンはその熱線に上段から闇の塊を叩きつけた。熱線は闇に激突すると、小さく分散して周囲に撒き散らされる。バーンズや兵士達はそれを伏せてやりすごし、カレンも熱線を受け止めるのに精一杯だった。
そして熱線がおさまると、オメガデーモンの姿はその場から消えていた。カレンが振り返ると、すでにその姿は頭上を越え、小屋に迫っている。
「風よ!」
そこに烈風が襲いかかり、オメガデーモンの足が止められる。
「そこまでだ!」
さらにミラが大声をあげて注意をひく。オメガデーモンはとりあえずといった様子で地面に降りると、ミラとソラのことを見た。
「邪魔者が増えたか」
オメガデーモンはそうつぶやいてから腕を組んで見せた。それを余裕と見たミラは表情を険しくする。
「ソラ! 両方よろしく!」
「わかった。火と風の精霊よ!」
ミラの剣が炎と風をまとった。
「おおおおおおおおおおおお!」
気合と共にそれが吸収されると、その体の周囲に円状に炎と風が発生する。カレンはそれを見てから、剣の闇の塊を消し、白銀の輝きに戻してミラに目配せをした。
返事は待たずに、カレンはジャンプをして上からオメガデーモンに斬りかかった。それからわずかに遅れて、ミラも風をまとって反対側から低い姿勢で走る。
オメガデーモンは慌てずに組んでいた手をほどくと、左右の手から同時に三日月形のエネルギーの塊を放った。
カレンはそれを剣で受け止め、ミラは飛び越える。そしてそのまま剣をオメガデーモンに振り下ろすが、それは軽くバックステップでかわされる。しかし、ミラは慌てた様子もなく剣を握る手に力を込めた。
「くらえ!」
剣が激しい炎と風をまとい、同時にそれが下から振り上げられる。激しい風と炎がオメガデーモンの体を飲み込み、そのまま天をつくような勢いで燃え盛った。
だが、その炎の中からオメガデーモンが真上に飛び出した。エネルギーの塊を弾いていたカレンはすぐにその後を追う。しかし、その差は縮まらないどころか引き離されていく。
あるところまで上昇すると、オメガデーモンはいきなり静止し、片腕を上げた。一瞬でその手の上にエネルギーの球体が形成され、腕が振り下ろされると同時に、上昇してくるカレンに向かってそれが放たれる。
カレンはそれを正面から剣で受け、一瞬だけ止めたが、すぐに押され始める。
「これはおまけだ」
オメガデーモンはさらにそこに向けてエネルギーの塊を放った。それは球体に着弾し、その勢いを受けた球体はカレンごと一気に地面に向けて落下する。
そして、地面に着弾すると、球体はその場にいた者達を飲み込むには十分な爆発を起こした。
だが、爆発が収まったそこにあったのは、倒れたカレン達ではなく大きく広がった漆黒の布、のようなものだった。それは見る間に収縮していき、カレンの傍らに立ち、その手を握っている一人の男の手にまとまっていった。
「ちょっと遅くなったけど、はじめましてだな、オメガさんよ」
タマキはその場にそぐわない、なにげない笑顔を浮かべていた。