それぞれの切札
カレンは魔物と遭遇しないように慎重に足を進めていた。魔物をこのあたりに送り込んでいる存在を探すためには、派手なことはできない。幸いミラやソラ、バーンズ達が派手に動いているおかげで、魔物はそちらに引きつけられているようだった。
それは知らずに、魔物と戦っている者達は目の前のことに集中している。
「全員下がって魔法で援護しろ!」
バーンズの指示に兵士達は後方に下がって一斉に火の玉を放つ。三体の魔物は爆発に包まれて動きが止まる。その隙にバーンズは右の魔物の頭部を叩き潰し、さらに真ん中の魔物に炎の刃を飛ばした。
狙い通り、炎の刃は魔物の頭部を直撃し、それを吹き飛ばす。そのまま三体目に向かって走り、相手が攻撃するよりも速く、その喉元に剣を突き立てた。
「バーンズ様! 新手です!」
バーンズが顔を上げると今度は五体の魔物が現れたのが目に入った。そして、すぐに剣のカードを入れ替えてそれを構える。すると、剣が激しい雷を帯びた。
「ライトニングスラッシュ!」
剣から発した雷が伸び巨大な剣のように魔物を薙ぎ払った。直撃を受けた魔物達は黒焦げになり、その場に崩れ落ちた。バーンズは再びカードを入れ替え、魔物がいないのを確認してから、兵士達に手で指示を出して先に進んだ。
一方、ソラはまだバリケードの前で魔物を食い止めていた。魔物を焼いたり貫いたりして、確実に止めを刺しているが、それでも次々に現れてくるので、押し返すこともできない。
「少し派手にいきます! 伏せていてください!」
大声で宣言してから、ソラは杖を地面に突き立てて両手を広げた。右手には炎、左手には風が集まりだし、それはさらに杖を中心としてソラの目の前で球状に混ざり合い始めた。
その間にも魔物達は近づいてくるが、ソラはそれを見ていないかのような落ち着きで力を溜めている。
「風と火の精霊よ、今こそその力を解放するんだ」
小さいつぶやきのすぐ後、杖を中心として混ざり合っていた精霊の力が爆発的に勢いを増した。ソラは広げていた手をその力を包み込むような形に変え、溢れ出そうとする力を制御する。
だが、その間にも魔物達は迫り、ソラとの距離が数十歩のところまで来た瞬間、ソラは両手でそっと力の塊の球体を押し出した。
球体は魔物達の目の前までに到達すると、炸裂した。それは魔物を粉砕する程度の範囲にしか広がらなかったが、後方にも強烈な衝撃波が発生した。
ソラは膝をついてそれに耐えてから、後ろを振り向く。幸いバリケードは大したダメージを受けずに、無事な様子だった。安心したように息を吐き出してから、ソラは立ち上がって口を開く。
「これで少しは余裕ができそうです。今のうちにバリケードを直しましょう」
「了解!」
兵士達は勢いよく返事をして、バリケードの補修を再開した。
そして、ミラは遭遇する魔物を片付けながら歩きまわっていた。今のところ魔物は単体でしか出現せず、ミラはなんとなく物足りない気分だった。
しかし数分後、ミラは戦闘の音を聞きつけ、その方角に走りだした。すぐに魔物五体と戦う兵士達が見え、ミラはスピードを上げる。
「おらおらおらあ!」
叫びを上げてその場の全員の意識を自分に引きつける。ミラはそれを確認してから、剣を抜いて低い姿勢になって駆ける。
「そこ! なんでもいいから攻撃をして!」
その声に兵士達はそれぞれ武器や魔法で魔物に攻撃を再開する。そうして魔物が牽制されている間にミラは兵士の前方にすべりこみ、魔物の前に立ちはだかった。
「これで全員なの!?」
「いえ、近くで別の小隊も交戦中です!」
「じゃあ、さっさと済まさないとね、ちょうどこれを試すいい機会だし」
ミラはベルトの袋から小さなブロックのようなものを取り出し、それを真上に放り投げた。
「大地の精霊の力よ!」
声と共に剣を突き上げてそれを砕くと、それはそのまま剣に吸い込まれるようにして消えた。ミラは何かを確認するように腕を軽く振る。
「なるほどね。生の力ほどじゃないけど、こいつら相手なら十分すぎるほどか」
そうつぶやいたミラが足を踏みしめると、その足は地面に沈み込んだ。そして、その体からは想像できないような力強さで地面を蹴った。
まず一番近くの魔物を胴を切り裂き、そこに振り下ろされた腕は自分の腕で簡単に受け止めと、それを弾き返した。そこで重低音を響かせ地面を蹴って跳び上がると、よろめいた魔物の頭を剣で切る、というより粉々に砕いた。
そのままの勢いで、ミラは地面を陥没させながら、魔物を次々に粉砕していく。そうしてあっという間に五体の魔物を始末すると、ミラは剣を収めて兵士達のほうを向く。
「近くの小隊のほうにも案内してもらえる?」
「はい、直ちに!」
ミラは兵士に先導されて歩き出した。