足止め
「お客さんはまだか」
そうつぶやきながら、外に出たミラは小屋のバリケードの周囲を見回っていた。今のところ魔物の姿も、変わったこともなかった。
だが、ちょうど一回りして入口に戻って来ると、そこにはボロボロになっている兵士五人と、カレンがいた。ミラはすぐにそこに走る。
「カレン師匠、これはどうしたんですか?」
「魔物に奇襲を受けていたんです。幸い全員重傷ではありませんが治療は必要ですね」
「それなら多分、中にいる連中ができますよ」
「それなら、ここはお願いしますね」
「はい、任せといてください」
ミラの返事にカレンはうなずき、兵士を一人ずつバリケード内に運んでいった。それが済んでからカレンはミラに歩み寄る。
「さて、これからの話ですが」
「いえ、その前に聞きたいことがあるんですけど」
「なんですか」
「カレン師匠なら魔物がどの程度出てるのかわかってるんじゃないですか?」
「全て把握はできていませんが三桁はいるでしょう。ただ、これでもだいぶ減らした結果です。それと、私以外の者も動いている気配はありますね」
「それってまさか、あのいけすかない野郎のですか」
「そうかもしれません。信用はできませんが敵ではないでしょうし、今は人手があって困ることもありません。あの男の今までの行動からすると、直接的に手を出すようなことはないでしょうが」
「まったく使えない。それより、これからどうするんですか? さっさと魔物を片付けるとか」
「いえ、魔物はあなたに任せます。私はまだやることがありますから、それが終わるまで負傷者が出ないようにうまく立ち回ってください」
「それだけでいいんですか」
「ええ、本番はこれからですから、無理はしないでおいてください」
「わかりました。じゃ、適当に頑張ってきます」
「頼みました」
それからカレンはその場から立ち去り、ミラはソラに一声かけてから小屋を離れた。適当に歩いていると、早速一体の魔物と遭遇した。
「まさかこんなすぐに遭遇できるとはね」
ミラはつぶやいてから笑みを浮かべ、剣を抜いた。そこに間髪入れずに魔物が飛びかかってきたが、すれ違いざまに輝く剣が振るわれ、魔物の首が落ちた。倒れた巨体が動かないのを確認してから、ミラは剣を鞘に収めて再び歩き出す。
一方その頃、ソラは小隊と一緒にバリケードの外に出ていた。怪我人はバリケード内や小屋の中で休んでいる。
「ソラ殿、我々はこれからどうするのですか?」
「外の魔物は姉さん達がどうにかしますから、僕達はここで時間稼ぎですね。戻ってくる人たちもいるでしょうし」
それから、小隊から二人ほどがバリケード周囲の見回りをして警戒していたが、魔物の姿は見当たらなかった。
しかし、それから数十分後、正面から走って戻ってくる、兵士達の姿があった。その背後には数十体に及ぶ大量の魔物。ソラはその光景を見てすぐに反応する。
「僕が牽制します! その間にあの人たちを!」
「了解!」
ソラと小隊員は一斉に動き出した。
「伏せて!」
まずソラが叫ぶと、兵士達はとにかく一斉に身を投げ出した。
「炎と風よ!」
ソラは強烈な熱風を作り出し、魔物達の足元を薙ぎ払った。魔物は一斉によろめき、そのできた隙に小隊員は走りだし、伏せた兵士達を抱え起こして一気に小屋を目指した。
その間にも魔物は体勢を立て直して再び走り出そうとする。だが、その真ん中の魔物の首がいきなり飛んだ。
「姉さん!」
「出し惜しみしないで、あんたも思いっきりやんな!」
「わかったよ! 真ん中はよろしく!」
「はいよ!」
ミラがまず魔物の中心で大暴れし始めた。鋭く振るわれる剣に、さすがの魔物達も動きを乱されて、兵士達を追うどころではなくなる。さらに、ソラが放った炎の竜巻が両端から迫り、魔物をじわじわと追い詰めていく。
だが、そこに見回りをしていた兵士が慌てた様子で戻ってくる。
「大変です! 後方から魔物の集団が現れました!」
ソラはそれを聞いて歯をくいしばってから声を張り上げる。
「姉さん! ここは頼んだよ!」
「わかんないけどわかった! こっちは任せな!」
「それじゃあ、隊長さんとそこの二人は僕と一緒に来てください。後の人は怪我人の収容と姉さんの援護をお願いします!」
ソラの言葉に兵士達は素早く反応して、ソラについて行く者とその場に残るものにわかれた。ミラは戦いながらもそれを横目で見て口を開く。
「とにかく怪我人を運ぶのを最優先で! それが終わったら魔法で足止め!」
鬼気迫るミラの指示に兵士達の動きはいっそう早くなる。
そして、バリケードの後方に走ったソラは、六体の魔物がバリケードを破壊しようとしているところになんとか間に合った。
「風よ!」
とにかく強烈な風で魔物を吹き飛ばし、ソラと二人の兵士はバリケードの前に立ちはだかる。
「バリケードをなんとかもたせてください!」
「了解!」
兵士は半分崩れたバリケードを乗り越え、なんとかそれを立て直し始める。それを背中で感じながら、ソラはわずかに口を動かした。
「カレン師匠、まだなんですか」