異常な魔物達
ソラが魔物との戦いを開始した頃、別の場所でも一つの小隊が魔物と遭遇していた。
「ファイアボール!」
火の玉が魔物の脇腹に直撃し、体をぐらつかせる。だが、魔物はすぐに立ち直ると雄叫びを上げると、脇腹の傷もあっという間に塞がっていく。
「クソッ! なんて奴だ!」
魔法を使った兵士は悪態をついて剣と盾を構える。だが、小隊の中で隊長と思われる女性がそれを抑えるように一歩前に出る。
「落ち着け、敵は一体だ。攻撃を集中させて一気に押し込むぞ」
「了解。で、どうします」
「私が奴を食い止める。その間に魔法で一斉に全方位から攻撃する準備を整えるんだ」
「はい!」
返事と同時に小隊員は分散し、魔物を包囲する配置についた。隊長は剣も抜かずに魔物の前に立つ。
「さあ、来い!」
魔物はそこに突進、ではなく口を開けるとそこから炎を吐き出した。
「プロテクション!」
突き出した手から魔法の盾が発生し、その炎を遮る。だが、炎の勢いはその盾を徐々に侵食していく。兵士は動こうとするが、隊長は目でそれを制する。
「まだ動くな!」
隊長はぎりぎりまで耐えてから、一瞬で身をかがめる。
「バースト!」
地面に手をつけ爆発を放ち、隊長はその勢いで炎をかわしながら一気に上空に跳び上がる。
「ライトニングボルト!」
雷の矢が魔物の足を射抜き、その膝を折らせた。
「今だ!」
合図と同時に、魔物を包囲していた兵士達が氷の牙を一斉に放った。魔物はそれを避ける間もなく、四方から串刺しにされ、その場に倒れた。だが、全身に氷の牙を突き立てられながらも、魔物は再び動き出す。
「これでも駄目なのか」
隊長はそうつぶやいてから剣を抜いた。魔物は跳ね起きると全身に力を込め、刺さった氷の牙を砕くと、一瞬で加速した。隊長はなんとか横っ飛びにそれをかわそうとしたが、わずかにかすり、その勢いで派手に転がった。
魔物はすぐに反転して、もう一度突進しようと足を踏みしめる。しかし、その背中に雷の刃が直撃し、魔物の体がぐらつく。
そうしてできた隙に、再び小隊の魔法、今度は火の玉が魔物に襲いかかった。火の玉は次々に魔物に着弾し、その巨体はもう一度倒れた。
倒れていた隊長が起き上がると、魔物の向こう側にバーンズの姿が見えた。バーンズはまず倒れた魔物に走り寄ると、その首を切り落とし、止めを刺した。
バーンズはそれから剣を収めて隊長に近づき、起き上がるのに手を貸した。
「大丈夫か?」
「はい、隊の者に負傷者も出ていません。まだ戦えます」
「そうか、それなら私と一緒に来てくれ。魔物は他にも出ているようだから、援護に向かう必要がある」
「了解です! 全員大丈夫だな?」
「もちろんです、隊長!」
隊員達の力強い返事を聞き、バーンズはうなずく。
「では行くぞ」
バーンズを先頭にして一行が移動を始めようとすると、他の兵士達が走ってくるのが見えた。
「どうした!」
「十体ほどの魔物が現れまして、現在ソラ殿が交戦中です。救援をお願いします」
「十体だと? いくらソラでもそれは厳しいだろう。すぐに向かう、案内してくれ」
「はっ! 直ちに!」
兵士達に案内され、ソラのところに着いてみると、そこには倒れた魔物達の中で一人立っているソラがいた。兵士達はその光景に圧倒されて動けなかったが、バーンズだけは動じることなくソラに近づいていく。
「よくこれだけの数を一人で相手にしたな」
「ちょっと大変でしたけど、なんとかなりました。他の場所はどうなってるんでしょうか?」
「魔物は出現しているが、ここほどではない。お前はあの小屋に一旦戻ってくれ、もしかしたら陽動の可能性もあるしな」
「それもそうですね。じゃあ、僕は戻らせてもらいます」
バーンズはソラの返事にうなずき、小隊のほうに顔を向けた。
「お前達小隊はソラと共に小屋に戻れ。残りの者は私についてこい」
「了解!」
それから二手に分かれ、ソラは小屋に戻ってきた。幸い、小屋の周囲に魔物の姿はなかったが、ソラにはそれがかえって不気味なものに感じられた。
だが、その心配をよそに、ソラが小屋のドアを叩くといつも通りの表情のミラが顔を出した。
「思ったより早かったじゃない」
「まあね。魔物が十体以上出てきて大変だったけど、とりあえずはなんとかなったよ」
「そう。じゃ、あんたとそっちの兵隊さん達はしばらく休んでて。外はあたしが面倒見ておくから」
「わかったよ、気をつけて姉さん」
「大丈夫だって。ま、危なくなったらすぐ呼ぶから寝るんじゃないよ」
ミラはそう言うと、その場にいる全員の肩を叩きながら、外に出て行った。兵士達はそれに戸惑いを見せたが、ソラはとりあえず全員を小屋の中に入れる。
だが、隊長だけは一人で歩くミラを見て、少し声を落としてソラに問いかけた。
「ソラ殿、ミラ殿を一人で行かせてよいのですか?」
「大丈夫ですよ。姉さんならあの魔物に負けるようなことはありません。僕達は少しでも休んでおきましょう」