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戦いの始まり

 バーンズがエバンスに上申したことは認められ、あの丘の近くの村はすぐに避難の準備が始められた。さらに、その周囲には簡易的なバリケードがすぐに作られ始めた。そしてその中心には、小さな砦とも言えそうな、いかにも頑丈そうな家があっという間に建てられた。


 そこには家財道具やらなにやらが運び込まれ、恵美がミラとソラと一緒にそこに住み込むことになった。危険な囮としての役割だったが、恵美は自らの意志でそれをこなすことを了承したのだった。


 ミラは早速室内を見て回って、色々とチェックしていた。ソラは結界を張るべき場所を探し、恵美はなんとなくベッドを整えていた。


 一通りのことが終わると、三人は集まって座り、恵美が準備したお茶を飲んでいた。


「ざっと見たところ、不具合はないみたい。こんだけ短期間でよくこんなもん作れたね」


 まずミラが感心したように言い、ソラはそれにうなずく。


「ヨウコさんが土の精霊の力を使って作ったんだからね。見た目よりもずっと頑丈で頼りになるよ」

「それもそうか。ま、そういうことなら本格的に攻められなきゃのんびりできそうじゃない。それじゃエミ、なんかゲームでもしようよ」


 ミラはカードをテーブルの上に置いた。それから三人で簡単なカードゲームをして時間をつぶし始めた。結局その日は何も起こらず、夜はミラとソラが交代で警戒をした。


 翌朝、目を覚ました恵美の目の前には椅子で寝ているミラの姿があった。恵美は起き上がると、ミラの肩に手を置いて声をかける。


「ミラ、ミラ」


 ミラはその声に反応してゆっくり目を開けて恵美の顔を見た。


「ああ、エミおはよう」

「眠そうだけど、大丈夫?」

「平気平気。ちょっとさっきまで起きてただけだから」

「ごめん。それじゃ、起こしたのはまずかったかな」

「まあ朝食済ませてから軽く寝させてもらうよ」


 それから恵美とミラは居間に向かう。そこではソラが朝食の準備をしていた。


「二人ともおはよう」

「はいはい、おはよう」


 ミラは頭をかきながら椅子に座る。


「ところで、何も変わったことはなかったの?」

「何もなかったよ」

「何もねえ。早いとこ来てくれたほうが楽でいいけど、できれば昼に」

「それもそうだね。はいどうぞ」


 ソラはそう言いながら、朝食の配膳を終えた。そしてそれを食べ始めてすぐ、ドアをノックする音が響いた。


「緊急事態です!」


 ミラがため息をついてからその対応に出て、すぐに戻ってきた。


「魔物が出たみたいだから、あんたちょっと行ってきて」


 ソラはうなずくと立ち上がった。


「じゃあ、姉さんはこっちをよろしく」

「わかってるって、早く行ってきな」

「気をつけて」


 ソラは二人に見送られて外に出て行った。ミラは急いで朝食を詰め込むと立ち上がった。


「それじゃ、こっちも備えておかないとね。さ、早いところ食べて」


 ミラはそう言ったが、恵美は急な事態に食欲が無くなってしまったようだった。そういうわけで、食事はそのまま寝室に持ち込み、二人はそこに立てこもることになった。


 外に出たソラは兵士に連れられて魔物が出たという地点まで急いだ。現地に着いてみると、そこには数名の兵士とが一体の魔物を必死に食い止めている情景があった。


「炎よ!」


 ソラは駆け出しながら、魔物の前に炎の壁を作り出した。魔物は炎に遮られその動きを止める。ソラはその間に兵士と魔物の間に割って入った。


「魔物はこの一体だけですか!」

「いえ! あと二体いましたが取り逃がしました!」

「それなら早く倒さないと駄目ですね」


 ソラは杖を構え、その先に炎を集中させる。変わりに炎の壁の勢いが弱まり、魔物はそれを一気に乗り越えてくる。


 だが、ソラは動じずにそれを引きつけると、杖の先端を魔物に向け爆発的に炎を噴出させる。魔物の巨体はその爆発に跳ね返された。


 今度は指先に風の精霊の力を凝縮させ、魔物の頭に狙いを定める。


「風よ!」


 凝縮された風が弾丸のように魔物の頭を正確に撃ち抜いた。魔物は踏ん張ることもなく、爆発に押された勢いのまま後方に倒れ、動かなくなった。


 ソラは魔物に止めをさしたのを確認すると、すぐに兵士達のほうに振り返った。


「すぐに残りの魔物を追いましょう」

「はっ!」


 兵士達は勢いよく返事をし、歩き出したソラの後に続いた。しかし、数歩もいかないうちに禍々しい咆哮が一行の背後から響いた。


 振り返ると、数百メートル先には魔物が十体ほど、忽然と姿を現していた。ソラは驚きながらも前に出て杖を構える。


「すぐに増援を呼んできてください。ここは僕がなんとかします!」

「了解しました! ご無事で!」


 兵士達が走っていくのを背中で感じながら、ソラは魔物達をじっと見据えた。

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