決戦の場?
カレンの話から数日後、バーンズは数名の兵士を伴って町の外に出ていた。今のところ特に変わったことはなく、平和であることが確認できているだけだった。
それからしばらく歩き、駐在所の近くまで来ると、一人の兵士が走ってきてバーンズの前でひざまずいた。
「なにがあったのだ?」
「はっ! 近くの村の者から魔物が出現したという報告を受けまして、今報告に上がろうとしていたところです」
「魔物か。すぐに案内してくれ」
「了解しました!」
それからバーンズ一行は駐在の兵士一人と村人一人を加え、魔物が出現したという場所に向かう。到着したのは草原を見渡せる小高い丘。村人がそこから小さな藪を指差す。
「若い者があのあたりで魔物を見たっていうんです」
今は魔物の姿は見えなかったが、バーンズは剣を抜いて振り返った。
「全員散開して魔物の捜索にあたれ。魔物を発見したら交戦せずにすぐに報告するように。くれぐれも一人で戦おうとするな、わかったな」
「了解!」
兵士達は勢いよく返事をして散っていった。バーンズも用心深く足を進める。捜索が数十分経った頃、突然叫び声がして一人の兵士が藪の中から吹っ飛ばされた。
バーンズはすぐにそこに向かって走る。その間に魔物が藪の中から姿を現した。それはカレンが戦ったものと同じ魔物で、初めて見るバーンズも、すぐにその危険性が理解できた。
「全員下がれ!」
叫びながらバーンズは剣のスペルカードを入れ替え、その力を発動させる。
「アイスソード!」
連続で振られた剣から氷の刃が飛び、魔物に直撃する。だが、よろめく程度で大きなダメージは与えられない。しかし、それで作られた隙をついて、バーンズは倒れた兵士と魔物の間に駆け込む。
「動けるか!」
「は、はい」
「ここは私に任せて、他に魔物がいないか警戒をしろ!」
返事は聞かずに、バーンズは魔物と一対一で対峙する。魔物は姿勢を低くし、次の瞬間にはバーンズに向かって飛びかかってきた。
バーンズはそれを横に転がってかわすと、すぐに膝をついて体制を立て直すと剣のカードを入れ替える。そこに最初の突進よりは勢いが落ちるが、十分な速度で魔物が突っ込んでくる。
それを十分にひきつけてから、バーンズは剣を跳ね上げる。同時に大きな爆発が起こり、魔物の巨体を跳ね返した。バーンズはそれから立ち上がると前に走り出す。
魔物はなんとか立ち上がり、バーンズを迎え撃とうと腕を振り上げる。そしてそれが振り下ろされるが、バーンズはそれに向けて剣を叩き込む。
腕と剣が接触すると同時に爆発が起こり、魔物の腕が吹き飛ぶとその巨体がよろめく。バーンズはそこで素早くカードを入れ替えた。
「止めだ! トルネードスラッシュ!」
剣が竜巻状の風をまとい、それが振るわれると魔物に向かって凄まじい竜巻が襲いかかった。魔物は空中に巻き上げられると同時に、風の力で体中を切り裂かれる。バーンズが剣を振り下ろすと、勢いよく魔物は地面に叩きつけられ、動かなくなった。
結局、現れた魔物はその一体だけで、バーンズ達は魔物の死体を運ぶ準備をしていた。すると、そこにカレンがどこからともなく、ふらっと現れた。
「これはカレン殿、どうされたのです?」
「こちらで妙な気配を感じて来たのですが、私は遅かったようですね。それに、魔物の体を手に入れるとは、さすがですね」
「いえ、運が良かったのですよ。それでも一人負傷者がでてしまいましたが。それよりカレン殿、手が空いているならば、手伝っていただけますか」
「はい。ところで、バーンズ様はここをどう思われますか? この近くには転移門もないようですし、魔物を迎撃するにはいい場所かもしれません」
「しかし、ここは村が近すぎます。何か手立てを講じないことには」
「その通りですが、魔物がここに現れたということは、おそらくこの場所には何かがあるのではないでしょうか。それならば、どちらにせよここには魔物が集まる可能性があります」
「なるほど。そういうことなら、いっそここを戦場にしてしまうべきかもしれませんね」
カレンはバーンズの言葉にうなずく。
「では、この死体を運んでから詳しい話をつめることにしましょう」
それからカレンも手伝いをして、近くの村から持ってきた荷台に魔物の死体をくくりつけると、交代でそれを引いて城への道を戻り始めた。
しかし、その途中でカレンは突然足を止める。バーンズもそれに気づいて立ち止まる。
「どうしました?」
「どうやら、また魔物が現れたようです。すみませんが、行かねばなりません」
「了解しました。迎撃地点のことに関しては、私からエバンス様に申し上げておきます」
それからカレンはバーンズの一行と別れた。