脅威の影
数日後、部屋の全員が寝た後で、ミラは立ち上がって窓から外を見ていた。幸い今日はファスマイドが姿を見せないので、ミラの機嫌は悪くなかった。
しばらく外を見てから室内に戻ると、力を抜いてそれを構えた。それからゆっくりと形の動作を始める。
集中していたので、どれくらいの時間が経ったかわからなかったが、ミラがおかしな雰囲気を感じると同時に、何かが窓から飛び込んでこようとした。だが、それはヨウコの力によって強化された窓に弾かれた。
ミラはすぐに窓に駆け寄り外を確認した。だが、何が飛んできたのかはわからない。とりあえずミラは恵美とヨウコを起こすことにした。
「何があったの?」
ヨウコはアランを抱いてミラに尋ねる。
「何かが飛んできたみたいなんですが、窓を破れなかったようで、弾かれたみたいです」
「そうなの。土の精霊の力で弾かれたということは、大したものが来たわけではないのね」
「でも、油断はできませんよ」
「それもそうね」
ヨウコはうなずいてから、恵美にアランを預けた。
「下手に動くよりも、ここで守りを固めたほうがよさそうだから、二人とも少し待ってて」
そう言ってヨウコは部屋を出ていった。残されたミラはとりあえずアランを抱えた恵美をベッドに座らせ、自分はその前に立った。
しばらくして、バーンズと兵士二人を伴ってヨウコが戻ってきた。
「お待たせ。これでミラちゃんは恵美ちゃんを守るのに集中できるわね。じゃあ、三人とも、窓のほうはよろしくね」
「わかりました」
バーンズはそう言ってから兵士二名を窓の脇に立たせ、自分は窓の正面に陣取った。そして剣を抜いてカードをそのスロットに入れた。
だが、結局その後は何も起こらなかった。とりあえずその場は兵士に任せ、ミラが自分の部屋に戻ってみると、朝食を食べているソラとカレンがそこにいた。
「あれ、いつ戻ってきたんですか?」
ミラはそう言いながら、空いてる椅子に座った。
「ついさっきですよ」
「それより、昨夜はなんかが来て大変だったんですよ。まあ実害はなかったんですけど」
「そのことなら先ほど聞きました。話を聞く限り、偵察かもしれませんね」
「じゃあ、近いうちに本格的に攻めてくるってことですか?」
「その可能性はありますね。魔物の数は減っていますが、転移門を使えばそれも問題ではありませんし、備えは必要ですね」
「それなら、カレン師匠もここに残ってくれるんですか?」
ソラの質問に、カレンは首を横に振った。
「いえ、こちらはあなた達に任せます」
それだけ言うと、カレンは立ち上がった。ミラもすぐに立ち上がり、その行く手を遮るようにする。
「ちょっと待ってください。そろそろ何をやってるのか教えてくれてもいいんじゃないですか?」
「大したことではありません。少し広範囲に警戒をしているだけですよ」
「それなら一人でやらなくてもいいじゃありませんか」
「ここの守りを少しでもおろそかにするわけにはいきません。私ならばすぐに戻ってくることができますから、心配いりませんよ」
カレンはミラの肩を軽く叩くと、返事は待たずにさっさと出て行ってしまった。ミラはその後を追おうとしたが、ソラに止められる。
「姉さん、僕達はここでできることをやろう。それに徹夜の後なんだし、今は休んだほうがいいよ」
「ああ、それもそうか」
ミラは頭を押さえてベッドに向かった。
「それじゃ、僕はいってくるから。おやすみ」
「はいはい、おやすみ」
それからソラが部屋を出ると、ドアの脇にファスマイドが立っていた。
「やあおはよう」
軽い挨拶をするファスマイドに、ソラは立ち止まった。
「朝からどうしたんですか?」
「いや、まあ歩きながら話そうか」
二人は並んでゆっくりと歩き出した。
「ところで、夜になにかあったらしいね。せっかくいい機会だから、結界を使ってみないかい?」
「結界ですか」
「そう、あの部屋はすでに精霊の力で守られているようだけど、結界を使えばそれを二重にできるからね」
「確かにそれはよさそうな考えですね。でも、僕はまだあの小さな基本しかできませんよ」
「大丈夫さ、あの部屋の窓一面にやるだけだから、そんなに難しくはないよ」
話しているうちに二人はヨウコの部屋に到着した。そして、ちょうどいいタイミングで中からバーンズが出てくる。
「ソラか。変わったことはないが、何が起こるかわからない。注意してくれ」
バーンズはソラにそう言ってから、ファスマイドに鋭い視線を向けた。
「おかしな真似はしないでもらおう」
「いやいや、そんなことはしませんよ。その剣で切られちゃたまらないし」
「それならかまわない」
バーンズはその場から去り、それを見送ったソラとファスマイドはヨウコの部屋に入った。