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背負った力

 時間は経過して数ヵ月後。ノーデルシア王国では目立った襲撃もなく、平和と言える時間が過ぎていた。


 ロベイル王国とは正式に同盟が結ばれる流れになり、今はまだ本格的な交流はないが、徐々に公私両方の動きが出てきていた。


 また、ヨウコは無事に子を産み、エバンスの戴冠式の準備も平行して行われていたが、エバンス本人の意向で今回の件が落ち着くまでは延長されることになる予定となった。


「それにしても、タマキ師匠からの連絡も全然ないし、何がどうなってんだか」


 ミラは自室でベッドに横になりながらぼやいていた。窓から外を見ていたソラも振り向いてそれにうなずく。


「カレン師匠もどこかに出かけてることが多いし、兄さんは閉じこもってばかりだし、本当にどうなってるんだろうね」

「全く、このままじゃ退屈で干からびそう。訓練場行ってこようかな」

「もう今日は決めたぶんはやったんだし、無理しないほうがいいよ。それより、そろそろミニックが戻ってくるらしいし、何か面白い話が聞けるかもよ」

「あー、私はパス。戻ってきたらあんたが相手しておいてよ」

「わかったよ。じゃあ、ちょっと散歩してくるから」


 ソラが部屋を出て適当に歩いていると、廊下の向こうからカレンが歩いてきた。ソラは急いでそこに駆け寄る。


「カレン師匠、どこに行っていたんですか?」

「少し見回りですよ」

「タマキ師匠から連絡はあったりしたんですか?」

「いいえ、それはありません。しかし、魔物が妙に減っていますね。もしかしたら悪魔が動いている影響の可能性もあります」

「悪魔、っていうことはタマキ師匠は」


 少し不安そうな表情になったソラだったが、カレンは特に表情を変えない。


「相手が相手ですから、タマキさんでも簡単にはいかないでしょう。慌てずに信じて待つべきですね。それより、城内のことは頼みますよ、私はこれからまた出かけますから」

「わかりました。気をつけてください」

「ええ、あなた達もできるだけエミ様の近くにいるようにしてください」


 そう言ってカレンは足早に立ち去っていった。ソラは本当はもっと聞きたいこと、聞くべきことがあるはずだったが、なんとなくそれが許されそうな雰囲気でもなかった。それからソラはバーンズに会うために兵舎に足を向ける。


 バーンズはちょうど兵士達の訓練を見ているところだった。ソラはとりあえず黙ってバーンズの隣に立って訓練を見ることにする。


 しばらくすると、バーンズは訓練を中断させて、ソラのほうに向き直った。


「今日はどうしたんだ?」

「いえ、ちょっと散歩してるだけですけど、さっきカレン師匠に会いました」

「カレン殿に?」

「はい。またすぐに出かけてしまいましたけど。魔物が妙に減っているということで、悪魔の影響かもしれないと言っていました」

「なるほど、カレン殿がそう言うのなら何かあるのだろうな。他には何かなかったのか?」

「できるだけエミさんの近くにいるようにということでした」

「そうか。そういうことなら、他のことは我々に任せて、お前達はエミ殿の警護に集中してくれ」

「わかりました」


 それからソラはバーンズと別れて、エミがいるはずのヨウコの部屋に向かうことにした。警備の兵士に用件を告げて室内に入ると、ちょうどヨウコと恵美が向かい合って座り、お茶を飲んでいるところだった。


「いらっしゃい。どうしたの?」


 ヨウコは笑顔でソラを迎えた。恵美も振り返って頭を軽く下げる。


「先ほどカレン師匠に会ったのですけど、最近妙なことが起きているようなので、エミさんの近くにいろと言われたので」

「そうだったの。私も用心しないとね。じゃあ、ソラ君にはあの子のことを見ておいてもらおうかしら」


 ヨウコはそれから振り返り、仕切りの向こうに向かって手を叩いた。すると、仕切りの向こうから一人の侍女が出てきて頭を下げた。


「アランはどう?」

「今はお休みになっております」


 それを聞いてヨウコはうなずくと、ソラのほうに再び顔を向けた。


「ソラ君、しばらくの間、子守を頼まれてくれる?」

「はい、わかりました」

「あの子は精霊にも好かれているせいか、あなたが近くにいると落ち着くみたいなのよ。恵美ちゃんは大体この部屋にいるし、日中はアランと一緒にいてくれればいいんだけど、大丈夫?」

「大丈夫ですよ。夜は姉さんに来てもらうことにしましょう」

「それがいいわね。恵美ちゃんもいい?」

「はい。心強いです」

「それじゃ、早速今からお願いね」


 ソラはうなずいて仕切りの向こうに行き、赤ん坊、アランが寝ているベッドを覗き込んだ。


 親から受け継いだのか、水と大地の精霊の加護を受けた子ども。王族ということに加え、自分と同じように二種の精霊の力を使えるということを考えると、かなり大きなものを背負うのだろうということは予想ができた。


 そこまで考えて、ソラは手を伸ばしてその額に軽く触れる。立場も何もかも違うが、なんとなく自分にとって近い存在のような気がした。

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