包囲
三人の目の前には、スライム状のもの達に囲まれたキアン達が目に入った。
「ハァッ!」
ミラは考えるよりも先に剣を抜いてそのスライムに切りかかった。一見柔らかそうだが、妙に手ごたえがあり、簡単には両断できず、ミラはとりあえず剣を引いた。
「こいつ結構固いよ!」
エバンスも剣を抜いて構える。
「ソラ! 奴等を牽制するんだ」
「わかりました! 風の精霊よ!」
キアン達の周囲を突風が吹き、スライムにはいくらかのダメージが与えられたようで、弾き飛ばされると囲みが解ける。
その隙にキアン達はスライムの包囲から脱出して、エバンス達のほうに走り寄る。
「あれは一体どういうことだ」
エバンスが聞くと、息を上がらせながらも、キアンはしっかりしとした様子で口を開く。
「あいつら、突然壁から現れたんだ。見たこともない魔物だが」
「そうか、とにかく今は避難だ。ミラ、ソラ、ここは頼むぞ」
エバンスとキアン達は急いで外に出て行った。残されたミラとソラはそれぞれの武器を構える。
「姉さん、あれは必要かい」
「この程度の相手なら大丈夫。あんたも攻撃に集中して」
「わかった。火と風の精霊よ!」
集中した炎がスライムの一体に襲いかかり、それを包み込んだ。数秒炎に巻かれると、スライムは蒸発したのか、跡形もなくなっている。
「そっちは効くんだ。じゃあ、頼むよソラ」
「了解」
そこからはミラが牽制し、ソラが止めを刺すということで順調にスライムを片付けていった。
一方その頃、外では砦を囲むように大量の魔物が発生していた。戦闘力ではタマキが圧倒していたが、さすがに相手の数が多すぎて、簡単に撃退するというわけにもいかないようだった。
タマキはある程度の魔物を撃退してから、砦の上空から周囲を見回した。
「全く、これだけの数をどっから連れてきたんだかな」
「どうやら、以前にあったあの歪み、転移門が使われているな」
「気づかなかったのか?」
「突然大量発生したのだ。気づいても対応はできん」
「で、これはやっぱりあの悪魔の仕業なんだろうな」
「そうだろうな。魔族程度にここまでのことはできんだろ」
「じゃあ、とりあえず魔物をある程度減らして、元を潰しにいかないとな。お、あそこにエバンスがいるじゃないか」
タマキは砦に向かって降下し、外に出ていたエバンス達の前に降り立った。キアンやその護衛は驚いたようだったが、エバンスは全く動じない。
「全員無事か?」
タマキの質問にエバンスはうなずく。
「ああ、砦の中にも魔物らしきものが出てきたが、今はミラとソラが対応している。外の状況はどうなんだ?」
「もうこの周りは魔物だらけだよ。とりあえず食い止めてるけど、元を断たないと面倒くさいことになりそうだ」
「そうか。どれくらいかかりそうだ?」
「とにかく一個ずつ潰していくしかないから、それなりにかかるな。少し持ちこたえられるか」
「この砦を使えばある程度はできるだろう。だが、あまり長い時間は無理だな」
「たぶんそれで十分だ。じゃ、これも使ってくれ」
タマキはカードホルダーをエバンスに手渡すと、上空に飛び上がっていった。エバンスはそれを見送ってから、キアンのほうを向く。
「では、守備を固めましょうか。南北にわけて、それぞれ指揮をとることにすればいいでしょう」
「わかった。では南はそちらに任せよう」
「ご武運を祈る」
それから二人は襲撃に備え、南北に別れた。タマキはその様子を上空から確認して、一番近くの転移門に向かった。
そして、その真上に来ると、急降下してその勢いのまま足に魔力をまとわせると、一気にそれを周囲の魔物もろとも破壊した。
「まずは一つ、と。あと何個ありそうだ?」
「三十くらいはあるだろうな。放っておくと大きくなるかもしれんから急いだほうがいいぞ」
「そうだな、ちょっと力入れていくか」
タマキは全身に魔力を溢れさせると、次の転移門に向かって地面を蹴った。
そんな調子で、特別に手ごわい敵も出てこなかったので、数時間後には全ての転移門を閉じることができ、魔物もほとんど掃討できていた。
タマキは多少疲れた様子で砦に戻り、エバンスの近くに降りた。それに気づいたミラとソラがすぐに駆け寄ってくる。
「師匠、終わったんですか?」
ミラの問いにタマキはうなずく。
「ああ、まあほとんど片付いたはずだ。こっちのほうは被害とかなかったか?」
「はい、僕達のほうも、ロベイル王国のほうも軽い怪我人くらいです」
「そりゃ上出来だ。回復させるから、怪我人のところに案内してくれ」
「はい、わかりました。こっちです」
ソラがタマキを案内して、怪我人を収容している場所に向かった。二人を見送ったエバンスは兵士達を見回す。
「皆、今日はできるだけ休め、明日になったら残った魔物の掃討を開始する」