女王と王子
翌日、砦の中の会議室でエバンスとキアンの会談が開始された。タマキは外を警戒しているのでそこにはいない。代わりというわけではないが、そこにはミラとソラ、後はキアンが連れてきた数名がその場にいる全員だった。
「エバンス王子、いや、もう王と言ったほうがよろしいかな」
「今はまだ王子だ。キアン女王陛下」
「そうか」
それから二人の間にしばらく沈黙が流れる。それからエバンスはおもむろに口を開いた。
「さて、今回の会談はそちらからの申し入れによるものだが、どういうことか教えていただこうか」
「率直な男だな」
キアンは愉快そうに笑う。エバンスは特別表情を変えることはしない。
「切れ者と名高い貴殿のことだ。我々がやったことは、すでに勇者から伝わっているのではないか? うらやましいものだな、あのような者を使えるとは」
「タマキは私が命令を出せるような相手ではない。しかし、彼は友人だ。頼みを聞くこともあれば、色々な話を聞くこともある」
「そういうことならば事情は知っていると理解していいのだな」
キアンの問いに、エバンスは首を横に振った。
「わかっていないことも多いが、さしあたってはそちらの話を聞かせてもらおう」
「それよりも、貴殿の望みを聞かせてもらおう」
「望み? そうだな、あのエミという少女は元の世界に帰ることが望みだ。そして、タマキ達もそれを望んでいる。私もそれを望まない理由はないな」
「ほう、それは立派な心がけだ。さすが、約束された英君といったところか」
「何も約束されてなどいない。それに、タマキには借りしかない。それに、我が国にもすでに悪魔の手先が侵入し、昨日はここにも魔族が出現した。貴国が行ったことは、すでに大きな影響を及ぼし始めているということがおわかりか?」
エバンスは相変わらず表情は変えないが、口調はいささか厳しいものになっていた。キアンも表情を厳しくする。
「それがわかっているから、こうして会談を申し込んだのだ」
「では、悪魔と手を切る、ということを決心したと、そういうことですな」
「ノーデルシア王国と手を組んだほうがいいだろう。貴国の力は私の想像よりもはるかに上のようだからな」
「我々にはどんな利益があるのか。それを聞かせてもらいたい」
キアンはエバンスの問いに顔をしかめ、一瞬言葉に詰まった。
「客観的に見たら、貴国にそれほどメリットはないだろうな。だが、平和を奉じる貴国にとっては我が国とここで強いつながりを作るのは悪いことではないだろう」
「それであなたの野心が満たされるのかな?」
キアンはその問いに口元を歪める。
「野心とはどういうことかわからんな。ただ、ノーデルシア王国と手を結ぶことができれば、我が国を富ませることができるのは確かだろう」
「時間をかけて、信頼関係を築ければそれも可能でしょうな」
二人はそこでしばらく黙ったまま向かい合っていたが、エバンスはおもむろに立ち上がった。
「少し休憩にしましょうか」
「わかった」
キアンも立ち上がり、自分の配下と共に部屋から出て行った。それが済んでから、ミラとソラがエバンスの隣に歩み寄る。
「なんか嫌な感じのおばさんですね」
「姉さん、あの人はそんな年じゃなさそうだけど」
「そういう問題じゃなくて、雰囲気がさ」
「まあそう言うなお前達」
エバンスは笑いながら二人を止める。
「あの女王は野心はありそうだし、油断ならない人物だが、それほど悪い人間でもないだろう」
「そういうものですかね」
ミラは納得していないようで、首をかしげていた。
「それで、どうするつもりなんですか?」
ソラが聞くと、エバンスは苦笑ともなんとも言えない笑みを浮かべる。
「彼らの協力は必要だ。エミを元の世界に戻すためにもな。それに、私の理想のためにもそうしなければならない」
その強い意志が宿る目を見て、ミラとソラは顔を見合わせると、同時にうなずいた。
「エバンス様の理想のためなら、私達も全力で協力します」
「ああ、期待している。それより、お前達は休めるうちに少しでも休んでおけ。昨日の件もあるし、これから何が起こるかはわからないのだからな」
「それは大丈夫ですよ。むしろ昨日はいい準備運動になりましたから。それに、上からはタマキ師匠が見張ってるんですから心配いりませんよ」
「それもそうだな、引き続き頼むぞ。では、我々も少し休むか」
そうして三人が部屋から出ようとした時、外から叫び声のようなものが聞こえてきた。三人は顔を見合わせるとすぐにその方向に急いだ。