精霊剣
「おおおおおお!」
ミラの叫びと同時にその足元から風が巻き起こり、その体を包み込んだ。
「ハァッ!」
今までよりも数倍の速度で、ミラの体が矢のように放たれる。アーブレリオナはかわすことができずに、雷をまとった腕でそれをさばくだけで精一杯だった。
それでも最初は余裕がありそうだったが、次第にさばききれず、浅いながらもミラの剣は確実にその体に届き始めていた。
予想外の力にアーブレリオナの顔から余裕が消えていく。力の火の精霊と速さの風の精霊という力の分担が非常に強力な効果をあげていた。
「調子に、乗るなぁ!」
それまでの余裕を感じさせる雰囲気とは全く違う叫びが発せられ、アーブレリオナの全身から強烈な放電が起こった。ミラはそれに弾かれ、後ろに下がる。だが、ダメージはほとんどない。
「そんな手品、私には効かないよ」
「手品かどうか、自分で体感して確認するといい」
アーブレリオナが両手を広げると、そこから雷が発生し、全身をその雷が焼いた。黒焦げ、にはならずに、強力な雷を全身にまとった。
「やっぱり手品?」
「どうかな」
二人は同時に地面を蹴り、激突した。風と雷が舞い、ソラは思わず腕を上げて、目を守った。タマキは腕を組んだままじっと二人の戦いを見ている。
戦いは激しさを増していき、双方とも、決定打とはならないまでも、ダメージが蓄積していく。互角に見えたが、徐々にアーブレリオナのほうがミラを押していく。
ミラはなんとか攻撃をしのいでいたが、洞窟の壁際まで追い詰められていった。だが、ミラは突き出された腕を左手でしっかりとつかんだ。
「これで、逃げられないな!」
剣を片手でアーブレリオナに向かって突き出す。しかし、それはかすっただけに終わる。ミラはつかんでいた腕を放し、剣を両手で握りなおした。
「食らえ!」
刀身に炎が走り、長さが増した剣がアーブレリオナに襲いかかる。炎はアーブレリオナの左腕をとらえ、まるで猛獣のように食いついた。
「おのれ!」
アーブレリオナは慌てて左腕を引くが、生きているような炎は食らいついて離れない。それは腕だけでなく、胴体まで侵食しようとする。アーブレリオナは一瞬だけ間を置き、自分の右手でその左腕を切り落とした。
「そこまでやる?」
ミラはあきれたような表情を浮かべるが、アーブレリオナはにやりと笑う。
「体など、いくらでも代わりはある」
体に力が込められると、右腕が切れた部分から、筋肉質でグロテスクな腕が勢いよく生えた。タマキはそれを見て首をかしげる。
「気持ち悪い奴だな。まともなじゃないぞあいつ」
「確かに、そうみたいですね。いいんですか、姉さん一人に戦わせて」
「大丈夫だろ。ミラは強いよ」
「でも、あの状態だと負担が大きいんです」
「いざというときはすぐに乱入するさ」
二人が会話をしている間にも、アーブレリオナの変貌は続く。全身がグロテスクな腕と同じように筋肉質になり、その顔も魔物のような醜いものになった。
だが、ミラはそれに気圧されることなく、むしろ余裕とさえ見える表情になる。
「的がでかくてちょうどいいよ」
その言葉に反応するかのように、アーブレリオナは形容しがたい雄叫びをあげ、ミラに飛びかかった。ミラはジャンプすると、天井をかすめるようにしてそれを軽やかにかわす。
着地すると、すぐに振り返り剣を軽く一振りした。
「精霊の力よ!」
振られた剣の刀身に炎が走り、それはさらに風をまとって激しく燃え盛る。ミラはそれを振りかざした。すると、炎は洞窟の天井まで届くほどの巨大さになった。
「すごいもんだ」
タマキはつぶやいて、自分とソラを守るために魔法の盾を展開した。
「必殺! 精霊剣!」
巨大な炎が振り下ろされ、アーブレリオナを押し潰す。
「うおおおおおおおおおおおお!」
ミラの叫びに呼応するように、アーブレリオナの体を炎が包み、風と共に恐ろしいほどの渦を作りだした。
数秒後、風と炎が一気に消えると、アーブレリオナの姿はそこになかった。ミラは大きく息を吐き出してから、その場に膝をついた。
「姉さん! まだだ!」
膝をついたミラの背後の地面に穴が開き、そこからぼろぼろになったアーブレリオナが飛び出してきた。だが、そこに一枚のカードが飛来し、爆発してその勢いを弱める。
「しつこいと嫌われるぞ」
マントを闇に染めたタマキがミラとアーブレリオナの間に飛び込み、そのマントをつかんだ。
「今度は手加減は無しだ!」
マントが手に巻きつき、タマキはそれを下からアーブレリオナに突き刺す。
「いくぜ」
タマキはニヤッと笑うと、そのまま上に跳んだ。アーブレリオナを串刺しにしたまま、洞窟の天井を突き抜け、全く勢いを殺さずに一気に地上までの分厚い大地を貫いた。
「弾けろ!」
空に飛び出してから発したタマキは、一気に力を解放し、その衝撃でアーブレリオナの体は光になって消えた。
タマキは地面に降りると、空を見上げた。
「馬鹿な奴だ」