オーブと地下
タマキとジャドはあるテントの中に来ていた。ジャドは自分の荷物を漁って一冊の本を取り出すと、それをタマキの前に持ってきた。
「これはこの世界に伝わる伝説を記したものです」
ジャドはその中の一ページを開いてタマキに手渡した。タマキはそのページに目を通してから、自分の顎に手を当てた。
「なるほど。これは面白い」
「そうでしょう。この世界にいくつか存在していると言われる、特殊な魔法のアイテムです」
「ドラゴンオーブね。強い魔力が凝縮されているのはわかっているけど、おそらく、それ以上のものがあるってわけか」
「確認されている限り、悪魔が探しているのはこれの可能性が一番高いと思われます」
「で、これはどこに?」
「我々の一族が一つだけ保管しているんです」
「それは危ないな。もしその存在が知られてるなら、あいつらも動きだしてるかもしれない」
ジャドはそれを聞いてにやりと笑い、腰に下げている袋を手に取った。
「実はここにあるんですよ」
袋から、ジャドの手に赤く透き通ったオーブが落とされた。タマキはそれを受け取り、適当にこねくりまわしてみた。
「確かに、これは妙な代物だな。魔力だけじゃない何かを感じる」
タマキはそのオーブをジャドに返した。
「まあ、これが正解かはあいつらの反応でわかるだろうな。しっかり持っておいてくれよ」
「もちろんです!」
「じゃあ、俺は見回りに行って来るから、後はよろしく」
タマキはそれだけ言うと立ち上がってテントから出て行った。残されたジャドはオーブをしまうと、自分の短剣と、道具袋を確認してから立ち上がった。
「予想以上の人物だ」
そうつぶやきながら、楽しそうにしていた。
テントを出たタマキはクラット砦から離れ、適当な場所にカードを設置していた。サモンはそれを疑問に思ったらしかった。
「何をしているんだ」
「これは何かが近づいてきたら反応するんだよ」
「罠か?」
「ただ音を出して光るだけだよ。誤作動して誰か関係ない奴が引っかかったりしたらまずいしな」
「また人間を使ってきたらどうする」
「それなら前と同じように正気に戻してやるさ。数が多かったら、まあ適当に足止めするようにする」
「面倒くさいやりかただな」
「このほうが退屈しなくていいだろ」
サモンとそう会話をしながら、タマキはカードの設置を続けた。
その頃、ミラとソラはクラット砦の前に来ていた。
「しかしまあ、ずいぶんと古びた砦じゃない」
「そうだね。いくつかの国が持ち回りで管理してるみたいだけど、どこも必要最低限のことしかやらないみたいだし、このあたりにはほとんど人も住んでないからね」
「別に悪い場所でもないと思うけど」
「どの国も本腰を入れてないから、危険も多いんじゃないかな。」
「ああ、そういうこと。ま、とりあえず砦に入ってみない? 何か使えるものもあるかもしれないし」
「そうだね。たぶん会談はここだろうし、確認しておきたいし」
そうして二人は砦の中に入っていった。内部はある程度掃除などはされているようだったが、所々ガタがきているところがあり、お世辞にもいい状態とはいえなかった。
二人はその中を歩き、ホールのような場所に到着した。それなりの大きさで、かつては内装などもしっかりしていた痕跡だけはあった。
それから二人はさらに奥に進み、会議室として使われていたらしい部屋に入った。
「ここなんて会談場所に使いそうじゃない?」
「じゃあ、このあたりをちゃんと調べようよ」
「それじゃ、あんたはあっちをお願い。私はこっちをやるから」
「了解」
二人は手分けをして砦内部を調べ始める。そうしてしばらくすると、ソラが驚いた声を上げた。
「姉さん! ちょっと来て」
「なに?」
ミラがそっちに行ってみると、ソラが一見したところ何の変哲もない床に膝をついていた。
「どうしたの」
「この床は下に通路があるんだよ。精霊が教えてくれてる」
「それなら、ちょっとぶち抜いてみようじゃない!」
ミラは剣を抜くと、その床に向かって思い切り振り下ろした。大きな音が響き、床が崩れると、その下から地下に続く階段が現れた。
「これは、隠し階段?」
「さあ、僕もわからないけど、とりあえず降りてみようよ」
「ま、大したことはなさそうだし、行ってみようか」
ミラは剣を手に持ったまま、階段を降り始める。ソラはその後ろから、火の精霊の力を使って灯火を二人の頭上に出現させた。
その明かりを頼りに先に進んでいくと、数分後には天然の洞窟らしき場所に入っていた。二人は立ち止まり、周囲を観察した。
「見たところ天然の洞窟みたいだけど、まさかこんなものがあるなんて」
「ここから城内に侵入とかできそうじゃない。しっかりチェックしないとね」
階段から先は一本道なので、二人は慎重に先に進む。だが、洞窟は地上につながっている様子はなく、ゆるやかにさらに地下に降りていくことになった。
「どこまで下に続いてるんだかね」
「さあ。でも、なんとなく妙な雰囲気はあるね」