クラット砦
クラット砦は普段はただの緩衝地帯でさびれた場所だった。しかし、今は兵士達ばかりだが、一時的に賑わっていた。
ノーデルシア王国とロベイル王国の一行は砦を挟んだ離れた場所にキャンプを設営していた。そのノーデルシア王国側のひときわ大きなテントにタマキは近づいていった。
「おつかれさん」
護衛に手を振りながら中に入った。
「おじゃましまーす」
タマキが中に入ると、そこにはエバンスとミラ、ソラがいた。ミラは立ち上がってタマキに駆け寄ってきた。
「タマキ師匠! お久しぶりです!」
「ああ、久しぶり。元気そうだな」
タマキはミラの肩を軽く叩いてから、ソラにも手を振った。それからエバンスの向かい側の椅子に座る。エバンスは手を差し出し、タマキはそれを軽く握り返した。
「来てくれて助かった。手紙とカレンからの話で事情はそれなりにわかっているつもりだが、何かあるのなら聞かせてくれ」
「いや、特にないな。それより、ここに来るまでの間に魔物とか出たかな?」
「それなら少し変わった魔物が出てきたな。鎧や武器を装備していた」
「ああ、それはこっちにも出てきた。あれが大量にいたらそれなりに面倒くさいよな」
「確かに、あれでは普通の兵士や魔法使いでは相手をするのは難しい。ミラやソラなら問題にならないくらいの相手ではあるがな」
タマキはそれを聞いてミラとソラを感心したように見た。
「お前達も強くなったんだな」
そう言われたミラは胸を張った。
「はい! もちろんですよ! 魔族だっていつでも来いって話です!」
「まあ、たぶん活躍してもらうことになるだろうな」
タマキがそう答えると、エバンスはうなずいてからその顔を見た。
「ところで何か仕掛けてきたのか?」
「いや、まああっちがどう動いてくるかによるな。何も考えてないわけでもないけど、とりあえず様子見の予定だよ」
「そうか。では私は仕事に専念するとしよう。頼んだぞ」
「わかった。任せといてくれ」
それからタマキはミラとソラに向かって手招きをした。
「じゃあ、作戦会議でもするか」
「タマキ師匠、その前に紹介しておきたい人というか、兄がいるんですが」
ソラはそう言ったが、とりあえずタマキはうなずきながら二人の背中を押してテントを出た。三人は砦の前までくると適当に地面に座った。
「さて、紹介したいっていうのは誰なんだ?」
「それなら今から呼んできます」
ソラが立ち上がって小走りでノーデルシア王国側のキャンプに向かった。タマキはそれを見送ってからミラのほうに顔を向けた。
「でも、お前達に兄貴がいたんだな」
「まあ、いるってだけですけどね。義兄ですし」
「ふうん。何やってるんだ」
「怪しい学者ですよ。どうしても師匠に会いたいって言ってついて来たんです」
「それは楽しみだな」
そして数分後、ソラがジャドに引っ張られて戻ってきた。ジャドはタマキの姿を見ると、すぐにその前に膝をついて、興奮した表情でタマキのことをじろじろと見た。
「初めまして! あなたがノーデルシアの勇者、タマキ様ですね! 私はジャドといいます!」
「ああ、初めまして」
タマキが手を差し出すと、ジャドはそれを両手で握って勢いよく上下に振った。
「いや、妹と弟がお世話になっています。ところで、是非色々教えていただきたいことがあるのですが、お時間をいただけないでしょうか?」
「まあ、いいけど。とりあえず今はこれからの話をしようじゃないか」
「それなんですが、実はこちらからお話があるのです。例の悪魔の実体化に関することなんですが、それに必要なアイテムを見つけることができたかもしれません」
「はい、とりあえずそれは後で」
ミラがジャドを強引に遮った。
「今はとにかく、これからすぐに起こりそうなことの対策を練らないとね」
そう言われて、ジャドはとりあえず引き下がった。ミラはそれを確認してからタマキのほうを向く。
「やっぱり、あの武装した変な魔物が攻めてきたりするんでしょうか?」
「来るんじゃないかな。それに、ひょっとしたら魔族も来たりするかもな」
「魔族ですか、あの武装した魔物は中々手ごわいですし、その上そんなものまできたりしたら中々大変そうですね」
ソラの言葉にタマキはうなずいた。
「そうだな。どこから仕掛けてくるかわからないし、こっちもしっかり対策をしておかないとな。とりあえず俺が全体的に警戒するとして、お前達にはこの砦を中心に、細かいところを見ておいてもらおうか。上からじゃ屋内とかはわからないしな」
「わかりました! 任せてください!」
ミラは自分の胸を叩いて力強く宣言した。それを見てうなずいたタマキを見て、ジャドは身を乗り出した。
「では、次は私の話を聞いてもらえますか?」
「ああ、聞かせてもらうよ」