会談準備
「ロベイル王国の女王からの会談の申し入れか」
エバンスは執務室でタマキからの手紙を前にして腕を組んでいた。
「確かに、これはいい機会だ。だが、問題は誰を連れて行くかだな」
「私がご一緒すべきでしょうか」
机の前に立っていたカレンがそう言うと、エバンスは少し考えてから首を横に振った。
「いいや、ここに残ってもらおう。魔族を退けたといっても、まだ油断はできん。お前はヨウコとエミを守ってくれ」
「わかりました。では、ミラとソラを連れて行くのでしょうか」
「そうだな、そうするのがいいだろう。これから話をまとめるから、バーンズやヨウコ達にも伝えておいてくれ。頼むぞ」
「はい」
カレンが部屋から退出すると、エバンスは組んでいた腕を解いて額に手を当てた。
「これから大変だが、必要なことだな」
一方その頃、恵美はヨウコの部屋に来てお茶を飲んでいた。
「そう、恵美ちゃんはもうすぐ受験なのね」
「まだ少し先で、どうするかもまだしっかりとは決めてないんですけど」
「じゃあ、しっかり考えて決めないとね」
「はい。でも」
恵美は言葉に詰まったが、ヨウコは笑顔を浮かべるだけだった。
「大丈夫。私はもうあきらめたし、ここで幸せだからいいんだけど、あなたは絶対に帰れるから。だから、あきらめないで気持ちを強く持っててね。私はあなたを応援してるし、できることはなんでもするから」
ヨウコには今まで何度もこうやって励まされてきたが、恵美はそのたびに力づけられていた。
「失礼します」
ちょうどそこでカレンが部屋に入ってきた。
「あらカレン、どうしたの?」
「はい。タマキさんから手紙が届きまして、エバンス様がロベイル王国の女王と会談をもつことになりました」
「そう。カレンはどうするの?」
「私は残ります。おそらくミラとソラを連れて行くことになるのではないでしょうか」
「それなら安心ね。タマキ君も来るのかしら」
「それはわかりませんが、これを機会に何かを考えているのは間違いないと思います」
「あの、一体何が起こるんでしょうか」
恵美が不安そうな顔でそう言うと、ヨウコが安心させるような微笑を浮かべてその肩に手を置いた。
「たぶん、恵美ちゃんにとっていいことじゃないの。今はあの人とタマキ君にまかせましょう」
「は、はい。わかりました」
「では、またなにかありましたらうかがいます」
カレンは軽く頭を下げて部屋から出て行った。それから目指したのは訓練場。そこには予想通りミラとソラがいた。
「いくよ、姉さん」
「よし来い!」
「火の精霊よ!」
ミラの剣が炎に包まれ、それが剣を伝わってその体に流れ込んでいった。ミラは全身を力ませ、その力をしっかりと制御した。
そこから剣を構え、練習用の鎧を着せされたかかしに向かって踏み出した。その一歩は力強く、一気にかかしとの距離を詰める。
「はっ!」
気合と共に剣を横に一閃させると、鎧ごとかかしが鮮やかに両断された。ミラが振り返らずに剣を振るとそこから炎が放出され、それから大きく息を吐いて剣を鞘に収めた。
ソラはそこにゆっくりと近づいていった。
「もうほとんど完璧だね」
「まあね。とりあえず精霊一個ぶんなら使えるようになったから、あとは二個ぶんか」
「姉さん、精霊はものじゃないんだから、個っていうのはちょっと違うんだけど」
「まあ、細かいことはいいじゃん」
そこでミラはカレンに気づいて手を大きく振った。
「カレン師匠! 今の見てくれましたか?」
「ええ、素晴らしい力ですね。それならば私も安心できます」
「それは、どういうことですか? 僕達に何かやることがあるんでしょうか」
「そうです。タマキさんから手紙が届いて、あなた達の力が必要になりそうなので」
「どういうことですか?」
ミラが不思議そうに聞くと、カレンは出入り口に視線を向けた。
「簡単に言うと、二人にはエバンス様の護衛として出かけてもらうことになるかもしれません。詳しいことはバーンズ様も呼んで、落ち着けるところ、そうですね、あなたの部屋に移動してからにしましょう」
「じゃあ、私はバーンズさんを呼んで来ますから、先に行っててください」
それから数分後、ミラの部屋にはバーンズとジャドを加えた五人が集まっていた。全員が適当な場所に座ってから、カレンは口を開いた。
「タマキさんから手紙が届きまして、エバンス様がロベイル王国の女王と会談をもつことになりました」
ミラはそれを聞いてうなずいた。
「護衛ってそういうことなんですか。ところで、カレン師匠とバーンズさんはどうするんですか?」
「少なくとも私は残ることになります。バーンズ様にも残っていただくことになるのではないでしょうか」
「それで、会談場所はどこなんですか?」
「クラット砦だそうです」
バーンズはそれを聞くと、すぐにその場所がわかったようで、腕を組んだ。
「それならば、互いに少人数ということになりそうですね」
「はい。エバンス様もあまり大がかりにするつもりはないのではないでしょうか。それに、おそらくタマキさんが何かを考えているでしょうし、それほど心配することもないと思います」