歩み寄り
タマキは部屋の中心に立って、荒れ果てた部屋の補修と、家具が搬入されるのを見ていた。その作業を監督していたロドックは一息入れてタマキに近づいてきた。
「ひどい荒れようだったが、まあなんとかなりそうだ。しかし、まさか王宮に滞在していたとはな」
「まあ、それが都合がよさそうだったからな。それもそろそろ終わりにできそうだけど」
「そうか。まあとにかく仕事をくれたのには礼を言う。これを機会に、王宮にも、もっと食い込んでいくぞ」
「商売熱心でけっこうじゃないか。まあ頑張ってくれよ」
「それで、これからどうするんだ?」
「まあ、うまくいけばけっこう大がかりなことをセッティングしなきゃならないだろうな。実現までは気が抜けない」
「手伝えることがあったらなんでも言ってくれ」
「なんかあったら頼むよ」
二人がそうして話していると、今度はキアンが部屋に入ってきた。ロドックはその姿をみとめると、慌てて頭を下げる。
「これは陛下。このたびは当店をご利用いただきありがとうございます」
「お前の店の評判は聞いている。これからも励めよ」
「はい。ありがとうございます」
それからキアンはタマキに顔を向けた。
「タマキ、話がある。来い」
「ああ、じゃ、こっちは頼むよ」
それからタマキは部屋を出てキアンについていった。到着した場所はキアンの私室。
「私がいいというまでは誰も通すな」
護衛にそれだけ言うと、キアンとタマキは部屋に入った。二人は椅子に座ると、いきなりタマキが口を開いた。
「こんなところに招待してくれたってことは、俺に協力してくれる気になったってことかな?」
「そうではあるが、条件がある」
「条件ね。聞かせてもらおうじゃないか」
「まずはノーデルシア王国の王子との会談をもつために、お前に話をつけてもらいたい」
「俺に?」
「そうだ。お前からの頼みならば向こうも嫌とは言えまい」
「まあ、そうかもな。いいぜ、俺からエバンスに連絡しよう。で、他にもあるんだよな」
「ああ、我々がお前に協力するということは悪魔を裏切るということだ」
「だから、俺にそれをなんとかしろってことか」
「そういうことだ」
タマキはにやりと笑って立ち上がった。
「いいぜ」
「それで、お前は何を求める?」
「別に、好きにやらせてくれればそれでいい。ああ、それからあの娘が帰れるようにそっちでもできるだけのことをしてくれよ」
「わかった。約束しよう」
「よし、契約成立だ。エバンスとはいつ、どこで会うつもりなんだい」
「それならばちょうどいい場所がある。後で地図を部屋に届けさせよう」
「じゃ、よろしく」
タマキは軽く手を上げてから部屋を出て行った。キアンはそれを見送ってから立ち上がる。
「これでタマキ君の力を借りられますねえ、女王様」
いつの間にか部屋の隅にはファスマイドが立っていた。キアンはそれを見ても驚くことなく、椅子に座ったままため息をついた。
「このほうがまだましだというだけだ」
「そんなことはないでしょう。タマキ君はやりたいことをやってるだけだから、変なひもつきじゃありませんよ」
「そうかもな。それに、これであの国の王子とつながりができるのなら悪くない話だ」
「そうそう、前向きに考えないといけませんよ」
キアンはそこで立ち上がると、ファスマイドのことを睨みつけた。
「私には仕事がある。貴様は妙なまねをするなよ」
「僕は基本的にただの傍観者ですよ」
「信頼できるものではないな」
キアンは部屋から出て行った。残されたファスマイドも、軽く笑みを浮かべてから姿を消した。
タマキが部屋に戻ってみると、内装は完璧に出来上がっていて、すでにロドック達は帰ったようだった。
「綺麗になったもんだな。じゃあ、仕上げをするか」
タマキはカードを取り出すと、それを部屋の角に置いていった。
「これでよし、と」
「何をやった?」
サモンが尋ねるとタマキは腰に手を当てて体を伸ばしながら答える。
「一日くらいは持つようなプロテクションの準備だ。ファスマイドみたいに結界が使えりゃいいんだけどな」
「それならあいつに聞けばいいだろう」
「素直に教えると思うか? それに、楽しみのためって変なことを吹き込まれそうじゃないか」
「そういうものか」
「そうだ。それよりもエバンスに手紙書かないとな」
そこでドアがノックされた。
「開いてるぞ」
ドアが開けられると、そこには兵士が畳んだ布を持って立っていた。
「陛下からです」
「ああ。ご苦労さん」
タマキは兵士から布を受け取り、それを机の上に広げた。それには地図が描かれていて、わかりやすいように赤い印がつけられている場所があった。
「クラット砦? これは緩衝地帯ってやつだな」
「つまり、どこにも属していない場所ということか」
「そういうことだ。けっこういい場所を指定してきたな」