おしゃべり
話の間どうしていいかわからず、とりあえず黙って話を聞いていた恵美は、椅子に座ってとにかく落ち着こうとしていた。部屋にはすでにカレンしか残っていなくて、恵美のことをただ見守っていた。
数分後、恵美は多少気持ちが落ち着き、それを感じ取ったカレンは恵美に近づいた。
「エミ様、落ち着かれましたか」
「はい。私はどうすればいいんでしょうか?」
「私達が全力でお守りします。ですから、ヨウコ様のお話相手などをしていただくのがいいのではないでしょうか」
「話し相手、ですか」
「はい。今は大事な時ですし、同じ世界の人同士、安心できるのではないでしょうか。エミ様の力を貸していただければ、大いに助けになるはずです」
「私の、力?」
「はい。邪悪な目的以外にだって、あなたができることはあるのですよ」
恵美はカレンの言葉に励まされて顔を上げ、カレンの目を見た。そこにあるのは、ただ真剣な表情だけだった。
「わかりました。多分、私が助けてもらうだけだと思いますけど。できるだけのことはやってみます」
「よろしくお願いします。ところで、エミ様の部屋ですが、ここでミラと一緒というのはどうでしょうか? 年齢も近いようですし、私よりもミラといるほうがリラックスできると思います」
「ええ、でも」
「心配はありませんよ。付き合いやすいタイプですし、護衛としての実力も十分ですから」
そう言っているうちに、ミラが戻ってきた。
「カレン師匠、とりあえず二人一組で行動するようにということになったんですけど」
「いえ、むしろあなたはエミ様と一緒にいてもらえますか。いや、いざという時を考えたら、ソラも一緒のほうがいいでしょう」
「でも、それじゃあ」
そこでカレンはミラの肩に手を置いた。
「敵の目的はエミ様です。どんな手段をとってくるかもわかりませんし、こちらも万全の体制であるべきです。機動力ならば私が一番ですから外はなんとかしますし、バーンズ様には兵の指揮をとっていただかなくてはいけません」
ミラは言われたことの意味をじっくりと理解するようにうなずき、恵美のほうに体を向け、口を開いた。
「私達が絶対になんとかします」
それから自分の剣に手をかけた。
「この剣に誓って、必ず」
恵美はその迫力に圧倒されたが、なんとか気を取り直して立ち上がると、一礼した。
「よ、よろしくお願いします」
ミラはそれに対して、笑顔を浮かべた。
「一緒に頑張ろう! じゃあ、弟も紹介するから、ちょっと待っててください」
そしてあっという間に部屋を出ると、すぐにソラを連れて戻ってきた。
「あらためて紹介すると、これが弟のソラで、私がミラです」
「よろしくお願いします」
恵美はとりあえず再び頭を下げた。ソラはそれに笑顔で対応する。
「僕達はこう見えてもけっこう強いので、安心してください」
カレンはその様子を見てからドアのほうに歩いていき、無言で部屋から出て行った。
それを見送ってから、ミラはおもむろにソラの手をつかんだ。
「じゃあ、あんたは外で待機してて。やっぱここは女同士のほうがいいから」
「わかったよ。何かあったらすぐに知らせて」
そう言ってソラも部屋から出て行った。それからミラはベッドに勢いよく座った。
「エミさんも座って。慌ててもしょうがないし、のんびりしましょう」
恵美は言われた通りに椅子に座った。
「ところでエミさん、タマキ師匠からもあっちの世界については聞いてるんですけど、魔法とかそういうのはないんですよね」
「ええ、まあ。そういうのは物語とかの中だけです」
「うーん、なんか想像できない感じですね。タマキ師匠は魔法に関してはものすごい実力だし、新しい使い方をどんどん考え出すくらい天才的だし」
「すごいんですね、環さんは。でも、私はそういうのは全然駄目なので、なんか情けなくて」
「タマキ師匠はどう考えても特別ですよ。ああ、ところで、もうちょっとくだけてしゃべりません? もっとこう、友達感覚で」
「友達? ですか」
「そうそう、そのほうが気楽だし。呼び捨てで呼び合う感じで」
「ええと、じゃあ、ミラ。こんな感じ?」
ミラは笑顔でうんうんとうなずいた。
「じゃあエミ。うん、やっぱこっちのほうが気楽でいいや」
声をだして笑うミラに、恵美もなんとなく気持ちが楽になっていくのを感じて、自然に笑顔になった。
「あ、その笑顔可愛いじゃん。魔法の才能とか関係ないって、それだけできっとヨウコさんとかも助かるし、剣しか能がない私よりずっといいよ」
「カレンさんにも言われたけど、可愛くなんてないよ」
「いやいや、顔だけなら可愛いっていうのは珍しくないけど、エミは雰囲気がいい! 守ろうっていうやる気がでてくるよ」
恥ずかしそうな顔をする恵美と、気安い友達のようなミラ。その雰囲気に、恵美は気分が楽になっていった。