ノーデルシア王国にて
カレンと恵美、ミラ、ソラ、ジャド、バーンズの六人はミラの部屋に集まっていた。椅子は足りないので、全員床に車座に座っている。
「これは僕達の兄で、ジャドっていいます」
とりあえずソラがそうジャドを紹介をすると、ジャドはカレンと恵美に笑顔を向けた。
「話は聞いています。前からお会いしたいと思っていました」
「そうですか、よろしくお願いします」
カレンは笑顔で返し、恵美もなんとなく笑顔でうなずいた。
「で、カレン師匠、そっちの人は?」
さっきから恵美のことを見てうずうずしていたミラが身を乗り出して聞いた。
「この方はタマキさんやヨウコ様と同じ世界から来た、シオハタエミ様です」
「同じ、世界ですか」
ミラはその答えに意表をつかれたようだった。それは他の三人も一緒だったが、バーンズが一番最初に立ち直った。
「どのような事情なのでしょうか」
「詳細は不明な点が多いのですが、エミ様が召喚されたのはロベイル王国です。どうやら悪魔や魔族が絡んでいるようで、現在はタマキさんがあちらに残って動いている最中です」
「なるほど、あの襲撃してきたローブの者達はその手先でしょうか」
バーンズがそう言ってから、先日の戦いを語った。カレンはそれに確信を持ってうなずく。
「それなら私も何度か戦いました。その剣が役に立ったようでなによりです」
「これは素晴らしい剣ですね。どうやって作ったのですか?」
「旅先で腕のいい鍛冶屋に頼んだんです。タマキさんも協力して魔力を使って作ったものなので、生半可なことでは傷つきませんし、時間が経っても劣化するようなこともありません」
「これはそれほどのものでしたか。私に託してくださって、ありがとうございます」
「いえ、最初からバーンズ様に使ってもらうつもりだったものですから。ところで、ミラ、さきほどのあれは何でしょうか?」
カレンに話をふられると、ミラは剣の柄に手を触れた。
「私の剣は力を与えてくれるものですけど、それに目をつけたジャド兄さんが、精霊の力も取り込めるはずだっていうアイデアを出したんですよ」
「精霊の力ですか。さきほどの様子ではまだうまくは使えないようですね」
「でも、うまく使えたときはものすごい力なんですよ」
ソラがフォローを入れて、カレンはそれにうなずいた。
「確かに、精霊の力を自分のものとできれば、それはかなりの力になるでしょうね。それこそ、魔族にも対抗できるくらいの力かもしれません」
「そうなんです! あの戦いはカレン師匠にも見てもらいたかったですよ!」
「それはまたの機会に見せてもらいますよ」
そこでドアが開けられ、エバンスが室内に入ってきた。
「全員集まっているな」
それからエバンスは部屋の六人の中に加わった。
「カレン、お前の話を聞かせてくれ」
「はい」
カレンが話し始めようとすると、部屋の窓を叩く音がした。一同がそちらに顔を向けると、そこには黒い小さな鳥がいた。カレンが窓を開けると、鳥はその手に乗って、その姿を手紙に変えた。
カレンはそれをざっと読んでから、エバンスに手渡した。エバンスは一通り目を通してからカレンに返し説明を待った。
「エミ様が召喚された理由ですが、この手紙によると、悪魔の実体化のためだということです」
「まさか、そんなことが?」
ソラが驚いたようにつぶやいたが、ジャドは何も言わずに考え込むような様子を見せた。
「それでは、その実体化をしようとしている悪魔というのは一体何者なのでしょうか」
バーンズの質問に、カレンは全員を見回してから口を開く。
「オメガデーモンという名の悪魔で、配下もそれなりにいるようです。配下の人間に力を与えて人外のものに変えている以外に、魔族も動いているようで、ここに到着する直前に私に接触してきた魔族がいました。おそらく、近いうちに襲撃してくる可能性が高いです」
しばらく全員が黙り込んだが、その沈黙を破ったのは、ジャドだった。
「カレンさん。エミさんは悪魔の実体化のために召喚されたということですが、それは彼女だけでできることなのですか?」
「いいえ、他にもこの世界にある何かが必要なようです。小さなものとしか書いてありませんが、どうやらそのためにロベイル王国を利用しているようですね」
「確かに、あの国は規模のわりに人口は多いし、現在の王は野心があるようだから、なにか甘言をささやかれて悪魔と契約したという可能性も考えられるな」
カレンの説明をエバンスが引き継ぐと、それを聞いたミラはため息をついた。
「でも悪魔と契約なんて、ありえないですよ、それは」
「確かにそうだ。悪魔が実体化したら、ひょっとしたら契約なんかには縛られなくなるのかもしれないのに」
ミラに同意したジャドに、バーンズが身を乗り出して口を開く。
「ジャド殿は悪魔のことに詳しいようですが?」
「ああ、兄さんは学者なんですよ。主に魔法とか魔物、魔族のことが専門です」
質問にはソラが答えた。それを聞いたエバンスは大きくうなずいてから立ち上がった。
「そういうことなら、意見を聞かせてもらいたい。今はハティスも不在だし、意見を聞ける専門家は一人でも欲しい」
「もちろんご協力させてください」
それから全員が立ち上がり、エバンスはそれを見回した。
「皆は魔族の襲撃に備えて待機していてもらいたい。頼むぞ」
「はい!」