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到着

「それじゃ、短い間だったけど世話になったね」


 アヤはカレンに向かって手を差し出した。カレンはそれを握り返して、微笑を浮かべた。


「お世話になったのは私達のほうです。ありがとうございました」


 次は恵美がアヤと握手をして頭を下げる。


「よくしてもらって、ありがとうございました」

「いいっていいって、あたしも娘がいたらこんな風かなとか思って、楽しかったよ」


 それからアヤと別れ、カレンと恵美はノーデルシア王国の首都に足を踏み入れた。カレンはまっすぐ城に向かい、守衛に何かを渡すと、しばらくしてあっさり城内に通された。


 あんまりスムーズなので、恵美は少々不安になってきた。だが、カレンはそれにかまわず、すれ違う人間に軽く挨拶しながら、どんどん先に進んだ。


 そして、護衛が立っている部屋の前まで来ると、やはり一声かけただけで、その中に入っていった。室内には書類を前にして仕事をしている、明らかに只者ではない男がいた。


「エバンス様、ただいま戻りました」


 エバンスはカレンとその後ろの恵美の姿を認めると、軽く息を吐いた。


「タマキが一緒ではないということは、ただ帰ってきたということではないのだな」

「はい。こちらはエミ様という方で、タマキさんやヨウコ様と同じ世界から、こちらに来ました」


 エバンスはそれを聞いて数秒間黙ったが、すぐに軽くうなずいて立ち上がると、エミに笑顔を向けた。


「ようこそ、我がノーデルシア王国へ。我々は君を歓迎する」

「は、はい」


 恵美は慌てて頭を下げた。エバンスはそれからカレンに向き直る。


「ヨウコのところで待っていてくれ。話はあとで聞かせてもらう。ああ、それから、ミラやソラ達も来ているから、顔を見せてやるといい」

「はい」


 カレンと恵美はエバンスの執務室から退室して、ヨウコの部屋に向かった。


「カレンさん、ヨウコさんてどんな人なんですか?」

「気さくな方です。会えばわかりますよ」

「そうなんですか」


 とりあえず恵美は深くは考えずに、カレンについてった。そして、いかにも豪華そうで、重装備の兵士が護衛している部屋の前に到着した。


 二人が室内に入ると、中には数人の侍女と髪の長い、お腹が大きくなっている女性がいた。その女性はカレンの姿を見ると立ち上がってゆっくりと近づいてきた。


「カレン、久しぶり。そっちの娘は?」

「簡潔に言いますと、ヨウコ様と同じ世界から来た、シオハタエミ様です」

「そう」


 ヨウコはそれだけ言うと、恵美に近づいてその手を取った。


「大変だったでしょ。事情はわからないけど、ここなら安心していいからね」

「は、はい」


 それから、三人はそれぞれ椅子に座って、侍女達は退室した。


「それじゃ改めて、私は宮崎葉子。今は王子妃なんていう立場だけど元々はあなたと同じで、向こうで普通に生活してたのよ。まあ私はただの会社員だったんだけどね」

「そうなんですか。それで、葉子さんはなんでここに来たんですか?」

「私はこの国がピンチだっていうんで、呼ばれたの。それであの人、エバンスと出会って戦うことにしたんだけど、負けちゃってね」

「負けたって、どういうことなんですか?」

「言葉の通りよ。その後は操り人形みたいにされちゃって、私は敵だったの。でも、それをタマキ君が救ってくれた。それからは私は何もしてないのよ、タマキ君とカレンが先頭に立って戦ったから」


 恵美は黙り込んだ。自分がこの世界に呼ばれたのは何のためなのかわからなかった。


「エミ様。あなたが召喚された理由や、帰る方法は我々が見つけ出します」


 うつむき気味になった恵美にカレンがそう声をかけた。


「それに、召喚された理由くらいならば、すでにタマキさんが見つけ出しているかもしれません」

「そうよ、タマキ君なら必ずあなたの力になってくれるし、私達だって協力するから」

「あ、ありがとうございます」


 恵美は頭を下げつつも、さっきからヨウコのお腹が気になっているようだった。ヨウコはそれに気がついて笑顔になった。


「この子はもうすぐ生まれるのよ。だから私はあまり力になれないと思うけど、何かあったらちゃんと相談してね」

「はい」


 恵美が返事をすると、カレンが立ち上がった。


「エミ様。部屋の準備もしないといけませんし、他に紹介したい相手もいますので」

「そうね、落ち着いたらまたゆっくりお話をしましょう」


 ヨウコの部屋を出た二人はそれから城内の訓練場に向かった。そこでは、兵士や魔法使いっぽい者達が集まって、何かを見ているようだった。


 カレンと恵美もその中に混じってギャラリーの視線の先を見てみると、そこでは剣を構えているミラと、そのすぐそばに弟のソラ、そしてその隣にはバーンズと、カレンが見たことのない男が立っていた。


「姉さん、今日はもうやめておいたほうがいいよ」

「いや、もう一回!」

「わかった、これで最後だよ。火の精霊よ!」


 ミラの剣が炎をまとい、それが柄のほうに吸い込まれるように移動していった。


「くっ!」


 だが、ミラは顔をしかめてうめくと、剣を取り落としてしまった。ソラと見たことのない男がそれに駆け寄った。


「ああ!」

「そう焦るな。半分くらいの確立ではできてるんだし、力を暴走させてるようなことはないんだから、すぐに完璧にできるようになるさ」

「兄さんの言う通りだよ。無理しないで完成させればいいじゃないか」


 慰められたミラは、とりあえず剣を拾って鞘に納めた。


「完璧にできないと実戦で使えないでしょ。まあ、今日のところはこれで終わりにするけど」


 そう言ってからミラはギャラリーの方に向かって歩き出そうとして、止まった。


「カレン師匠!」


 カレンの姿を見つけると一直線にそっちに走っていった。

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