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揺さぶり

「なぜあの魔族を殺さなかった?」

「面倒臭いからな。それに、あんなのを完璧に倒そうと思ったら、まわりにも被害が出るし」

「そうか」


 サモンはそれっきり黙った。その変わりという感じで、ファスマイドが近づいてきた。


「さすが、見事な戦いだったね」


 その賛辞は無視して、タマキはあれだけ派手にやったにもかかわらず、まるで何事もなかったかのような町の様子を見る。


「お前が結界を張ってたのか?」

「そうだよ。僕は自分が楽しめればそれでいいし、君は周囲に被害を出したくないだろ? まあ、サービスだと思ってくれていいよ。ところで、本当にあの子とはここで決着をつけとかなくてよかったのかい?」

「遠くに飛ばしておいたし、怪我もしてるだろうから、しばらくはおとなしくしてるだろ。俺っていうはっきりした目標もあるんだから、そこらへんで暴れるようなこともないだろうしな」

「なるほどね。そういうことなら、僕から言うことは特になさそうだ」


 その後は大した会話はせず、タマキとファスマイドは王宮に戻った。ファスマイドはどこかに消えたが、タマキは自室には戻らずにキアンの執務室に向かった。


 だが、そこに到着する前に廊下の向こうからフード付きのローブを着た者が歩いてきていた。互いに相手のことを見ずに近づいていったが、すれ違いざまにタマキはいきなりそのローブの肩に手を置いた。


「お前ら、ここで暴れたりしないよな」

「まだこの国には利用価値がある。だが、貴様は邪魔だ」

「一ついいことを教えておいてやるけど、狙うなら俺だけにしておいたほうがいいぞ。何かあったら、後先考えずに、お前らを潰したくなるかもしれないからな」

「やれるものならやってみるがいい。ノーデルシア王国にも、すでに我々の手は伸びている」


 フードの奥の顔が笑っているような雰囲気があった。だが、タマキはただ笑った。


「お前らにカレンや俺の仲間達がどうにかできるわけがないだろ。まあ、それ以外には手をだすなよ」


 一つ肩を強く叩いてから、タマキはさっさとその場を去っていった。



 その頃、カレンと恵美は荷馬車に乗ってノーデルシア王国を目前にしていた。 旅慣れてきたのと、隊商と一緒で負担が少なくなったので、恵美はそれなりに元気がある様子だった。


「カレンさん、あとどれくらいで着くんですか?」

「順調にいけばあと三日くらいで到着できると思います」

「順調にですか」


 恵美はため息をついた。カレンはその様子を


「確かに、最近は魔物の襲撃が妙に多いですね」

「でも、あんたがいれば大丈夫だろ?」


 アヤがカレンの隣に飛び乗ってきて、その肩に手をまわした。


「もちろん、できる限りのことはします。何も起こらないほうがいいとは思いますが」

「そりゃそうだね。でもまあ、もうすぐお別れかと思うと寂しいねえ。あたし達の仲間になって一緒に来てもらいたいくらいだよ」


 カレンは肩を組まれたまま、アヤに笑顔を向けた。


「ありがたいお誘いですが、私にはやるべきことと、いるべき場所がありますから」

「わかってるよ。まったく、あんたみたいないい女にそこまで言わせる奴に会ってみたいもんだ」


 アヤはカレンから手を放すと、荷馬車から飛び降りた。


「今日は早めに休む予定だから、もう少しペースをあげていくよ」

「はい。わかりました」


 隊商は早めのペースで進み、まだ明るいうちにキャンプの設営を始めた。その準備中、カレンは何かに気がついたようで、手を止めて立ち上がった。恵美はそのカレンの様子に気がついた。


「どうしたんですか?」

「妙な気配を感じたので、確認してきます。この場を離れないでください」


 カレンがこう言う時は、必ず何かが起こる。恵美は手を止めてうなずいた。


「わかりました。気をつけてくださいね」

「はい。すぐに戻ってきます」


 カレンはキャンプから離れ、しばらくの間歩いた。キャンプの方には特に嫌な気配はないので、陽動ということはありそうにない。なので、カレンは手早く確認を済ませようと、意識を集中させた。


 しかし、それは前方から飛来した物に遮られた。カレンはその何かをわずかな移動でかわし、剣に手をかけた。


 数十秒後、その視線の先に一人の一見したところ何の変哲もない女が姿を現した。だが、その雰囲気は明らかに普通とは違うというのが、カレンにはわかった。


「さっきのをかわすとは、なかなかやりますねえ」


 口を開くと、見た目よりもずっと低い声が響いた。


「あなたは」


 カレンが聞くと、女は腰に手を当てて何回か軽く体をひねる。


「私はフィルガロエ。あんた、じゃなくて、あんたと一緒の娘に用があってね」

「つまり、追手ですか」

「おっと、ここでやる気はないんだよ。今日はほんの挨拶さ。本番はあんたらが目的地に着いてからだ」


 カレンは剣から手を放した。


「大した自信ですね」

「面倒なものはまとめて片付けたいんでねえ」


 そう言ってからフィルガロエは後ろに飛び、あっという間に遠ざかっていった。カレンはそれ以外に何も脅威となるものが存在しないのを確認してから、キャンプに戻った。


 恵美は戻ってきたカレンの姿を見ると、ほっとしたような表情を浮かべて、それを迎えた。


「何もなかったんですか?」

「はい。とりあえずは大したことはありませんでした」

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