集結
エバンスの前にはミラ、ソラ、ジャドの三人が並んでいた。
「久しぶりだな、お前達」
そう声をかけられると、ミラが一歩前に出た。
「お久しぶりです。で、そっちにいるのが不肖の兄のジャドです」
エバンスはそれを聞くと笑顔を浮かべてジャドのほうを見た。
「ようこそノーデルシア王国へ」
「はい。エバンス様に謁見できるとはこのうえない喜びです」
それにうなずいてから、エバンスはミラとソラに視線を移した。
「それで、タマキからの連絡で来たということだが、わけは聞いているのか?」
「それが、理由は何も教えてもらってないんです」
今度はソラが答え、それを聞いたエバンスは自分のあごを一撫でした。
「そうか。だが、こちらにもタマキから送られてきたものがある。間違いなく何かが起こるはずだ」
「師匠から送られてきたものって、なんですか?」
「見てみるのが一番早いな。ついて来い」
ミラにそう答えると、エバンスは先頭に立って部屋を出て訓練場に向かった。
一行が到着すると、そこには盾を並べて構える三人の兵士達と、それと対峙して剣を構えるバーンズがいた。
「いつでもどうぞ!」
兵士が声を張り上げると、バーンズはうなずいてから、剣のスロットに一枚のカードを入れた。剣は一見したところ何も変わったところはなかったが、それが振るわれ盾に当ると同時に、爆発が起こり兵士達を吹き飛ばした。
バーンズはすぐにスロットからカードを抜いて、倒れた兵士達に駆け寄った。
「大丈夫か、お前達」
「は、はい。なんとか無事です」
「加減したつもりだったんだがな」
手を伸ばして兵士達を起こしたバーンズはエバンス達が来ているのに気がついた。
「これはエバンス様。それにミラとソラも久しぶりだな。それから、そちらは?」
「不肖の兄で、ジャドっていいます」
ジャドが何か言う前に、ミラがそう告げた。バーンズはうなずいてから剣を左手に持ちかえて右手を差し出した。
「バーンズだ。よろしく」
ジャドはそれを握り返して軽く頭を下げた。
「弟と妹がお世話になったのは聞いています。ありがとうございました」
「はいはい。挨拶はそれくらいにして」
そこでミラが二人の間に割って入った。
「それよりその剣すごいですね。一体どういうものなんです?」
「これはタマキ様から送られてきたものだ」
それからバーンズは剣をミラに渡す。受け取ったミラは軽く振ってみたりして、やはりスロットが気になるようだった。
「これは一体?」
そう聞かれて、バーンズはさっき抜き取ったカードをミラに見せた。そこには爆発するような絵が描かれている。
「これは、インスタントスペルカードですか?」
ソラが聞くと、バーンズは首を横に振った。
「いや、この剣専用だが、魔力さえ充填すれば何度でも使える」
「すごいですね。それを使えばさっきみたいなことができるんですか」
バーンズは黙ってうなずいた。
「ある意味私の剣よりもすごいですね」
感心した様子のミラに、エバンスは何か思いついたらしかった。
「バーンズと立ち合ってみたらどうだ」
「私がですか?」
「いや、お前達二人でだ」
エバンスにそう言われてミラとソラは顔を見合わせたが、すぐに気を取り直してバーンズと向かい合った。
「わかりました。手加減はしないでいきますよ」
「本当にいいんですか?」
ミラはやる気満々で、ソラはまだ戸惑いがあるようだった。それはバーンズも同じで、エバンスのほうに顔を向けた。
「二人がどれだけ強くなったのか見てみたいしな。それに、この二人相手なら、その剣の力を存分に引き出せるだろう」
少しの間をおいてから、バーンズは力強くうなずいた。
「わかりました」
それからエバンスとジャド、兵士達は後ろに下がり、バーンズとミラ、ソラの二人は武器を構えて向かい合った。
バーンズが一枚のカードを剣のスロットに入れると、氷が剣を包み込み、冷たい輝きを放った。それに呼応するようにミラも剣を抜くと、その剣は強い輝きを発する。
そして、力強く踏み込むと、一気にバーンズとの間合いを詰めた。それに向かってバーンズが剣を振ると、それをまとっていた氷が刃となって突っ込んでくるミラに襲いかかった。
だが、それはソラが放った風によって逸らされ、訓練場の壁を直撃するだけだった。そこでミラはバーンズに向かって剣を振り下ろす。
バーンズはそれを後ろにステップしてかわすと、もう一度凍りの刃を飛ばし、ミラを下がらせる。そうしてできた隙に、バーンズはすばやくカードを入れかえた。すると、今度は剣が雷をまとった。
そこに風に炎を乗せたソラの攻撃が向かったが、バーンズが剣を振ると雷と干渉して炎は四散した。さらにミラが跳び上がって上から剣を振り下ろしたが、それは剣で受け止められ、バーンズが柄に力を込めると、剣から発した雷でミラの体は吹き飛ばされた。
そのまま、バーンズは剣にまとわせた雷をソラに向かって放ち牽制をする。そして、二人が体勢を崩している間に、再びカードを入れかえようとした。
「そこまでだ!」
エバンスの声が響き、三人は動きを止めて、力を抜いた。
「バーンズさんの腕にその剣の力が加わるとかなりのものですね。僕の攻撃まで相殺されるとは思いませんでした」
「私も、まさか剣に触れるだけで吹っ飛ばされるとは思いませんでした」
「それだけこの剣が強力だということだな」
「カードを変える瞬間は隙ができるが、それもその剣ならカバーできる。問題は見当たらないな」
バーンズの言葉をエバンスが引き継いだ。バーンズはそれにうなずく。
「はい。この二人とこれだけ戦えるなら、実戦でも何の問題もありません」
「そうだな。これならタマキが何を予想していたのかはわからないが、十分に対応できるだろう」
そう言ってからエバンスはその場にいる全員を見回した。
「今日はここまでにして休んでくれ」