助っ人達と秘密兵器
「姉さん、ちょっと待って」
「なに?」
「兄さんがばててるから、もう少しゆっくり行ったほうがいいと思うんだけど」
「たくっ、しょうがない」
レザーアーマーを着込んで剣を腰から下げているミラはそう言って、ローブを着て杖を持っている弟のソラのほうに振り返った。そして、そのさらに後ろには拾ったらしい木の棒を杖変わりにしている歩いている、眼鏡をかけた若い男がいた。
ミラはその男に近づくと、無理矢理顔を上げさせた。
「ジャドお兄さーん。もうすこしで着くんだから、しっかり踏ん張ってくれないと」
「わかったわかった。もう少し頑張るよ」
ジャドと呼ばれた男はミラの手を振り払うと、顔を上げて歩き出した。
「そうそう、その調子で頑張って」
ミラはジャドの背中を叩くと、また先頭に立って歩きだした。変わりにソラがジャドの隣に並ぶ。
「姉さんはタマキ師匠からの頼みだから気合が入ってるみたいだね」
「わかってる。俺だって楽しみにしてるんだからな。それにしても、あの連絡手段は驚いたな」
「あれは変な鳥だったね。まあ、ただノーデルシア王国に来てくれってだけだし、師匠達に会えるとは限らないけど」
「たとえそうでも、ノーデルシア王国に行けるだけでも十分だ。お前達は王子と知り合いなんだろう?」
「もうすぐ王様になるって噂もきいたけどね」
「それならなおさら好都合じゃないか」
「じゃあ、兄さんもしっかり歩いてくれないと」
「そうだな」
ジャドは気合を入れなおして、なんとかミラの後を追い始めた。
そしてその日の夕方。三人はノーデルシア王国の国境にある町に到着していた。入国は明日にすることにして、三人はとりあえず宿をとることにした。
「ああ、疲れた」
ジャドは荷物を置いてベッドに倒れこんだ。ミラはその肩に笑顔で手を置き、ソファーのほうを指差した。
「兄さんはあっち。この部屋には二つしかベッドがないんだから、可愛い妹と弟にゆずるのは当然だと思うけど」
「勘弁してくれないか」
「はい駄目」
ミラはジャドの首根っこをつかんでベッドから引きずり落とすと、そのままソファーまで引きずっていった。
「じゃ、ごゆっくり」
ジャドをソファーに置いて、ミラは部屋から出て行った。それを見送ったジャドは大きなため息をついた。
「やっぱり俺は嫌われてるのかなあ」
「いや、あれが姉さんだから、別に特別に嫌われてるわけじゃないと思う」
「ああ、とにかくしばらく休ませてもらうよ」
ジャドはそのまま律儀にソファーで目を閉じた。
そして翌朝、三人は朝早くに宿を出て、ノーデルシア王国への入国を果たした。
同じ頃、ノーデルシア王国城内の訓練場では、エバンスと他数名が剣を持って立つバーンズを見守るようにして立っていた。
バーンズが持っている剣は、一見したところ無骨なシルエットの両手剣だったが、その刃の根元についている長方形のものが目を引いた。
バーンズはエバンスを見てうなずいてから、その長方形のものを前をつかみ、前に押し出し、縦に回転させた。それはスムーズに前方にスライドして縦方向になり、それがスロット状になっているのが見えた。
バーンズは腰のホルダーから金属製らしい、炎が描かれたカードのようなものを取り出してそのスロットにそれを挿しこみ、それを元の位置に戻した。
「ファイアソード、発動します」
ギャラリーに宣言するようにそう言うと、柄に力を込めて、剣を構えた。すると、ホルダーの部分から炎が発生し、剣を包み込んだ。
その剣が鋭く振るわれると、炎が飛び壁を焼いた。バーンズは剣を下に向けると、ホルダーからカードを抜いた。
「すごいものだな」
エバンスがそれに近づき、剣を見ながらつぶやいた。
「はい、まるでカレン殿が使う魔法剣です。このようなものを作ってしまうとは、さすがタマキ様です」
「そうだな。あいつはまさに天才だ」
バーンズはその言葉にうなずいて、ホルダーから八枚のカードを取り出した。
「これを使いこなせればどんな敵とも戦える気がします」
「しかも、これはタマキが作ったインスタントスペルカードか、あれと違って使い捨てではなく、魔力を充填すれば何度でも使えるのだな。これを量産できれば、魔族も恐れるような敵ではなくなるかもしれん」
「おっしゃる通りです。しかし、こんな貴重なものを私が使ってもいいのでしょうか」
「タマキがお前を指定して送ってきたんだぞ、余計なことは考えずに、それを使いこなすことに集中しろ。おそらく近いうちに必要になるはずだ」
「はい」
バーンズの返事を聞いてから、エバンスはその場を立ち去り、執務室に向かった。室内に入ると椅子に座り、しばらくの間天井を見上げてから、仕事を始めた。




