小さな町
隊商と合流して二日後、カレン達は小さな町に到着していた。
「あたし達は商売があるから、三日ほど滞在する予定だけど、あんたらはどうするんだい?」
アヤは荷物を降ろすのを監督しながらカレンに聞いてきた。
「一緒のほうが結果的には早いでしょうから、それまで私達もここに滞在します」
「じゃあ、宿はどうするんだ?」
「それはこちらで手配するので、心配ありません」
「宿代ぐらいこっちで持ってもいいけど。護衛してもらってるんだしさ」
「そういうことでしたら、お願いします」
「よし! じゃあ宿が決まったら知らせてくれ。あたし達は町外れにキャンプしてるから」
「わかりました。では、私達の荷馬車と荷物をよろしくお願いします」
「ああ、任せときな」
カレンはそれにうなずいてから、離れた場所に立っている恵美のところまで歩いた。
「宿をとることにしました。この町には三日ほど滞在することになりそうです」
旅に疲れていた恵美はそれを聞いてあからさまに安堵したようだった。
「では、行きましょうか」
二人はそれからそこそこの宿に一部屋をとった。恵美はすぐに久しぶりのベッドに座り込んだ。
「私は少し出てきますので、エミ様はゆっくりしていてください」
「はい、そうします」
カレンは部屋の外に出て鍵をかけた。そして、向かった先は町外れ。
今まで追手がある様子はなかったのだが、それは不自然なことだった。そう考えると、むしろこちらが動きにくいこういった町でしかけられるような気がしていた。そのためには戦いやすい場所を探しておく必要がある。
カレンは早足で町の中と周囲の様子を見てから、遅くなる前に宿に戻った。部屋に入ってみると、恵美はまだベッドの上で寝ていた。
カレンはその傍らに立って、少しの間、恵美の顔を見つめていた。よほど疲れていたようで、今は不安もなにもない深い眠りの中にいるようだった。
「エミ様」
そう呼びかけて、カレンは軽く恵美の肩に触れると、恵美はビクッと体を震わせて目を開けた。体を起こして外を見てから、すでに暗くなってきているのに驚いた表情を浮かべた。
「ずいぶん寝ちゃったんですね」
「お疲れだったのでしょう。夕食はどうしますか? 持ってきますが」
「はい、お願いします」
結局、その日は恵美は部屋から出なかった。
翌朝、恵美が目を覚ますと、ちょうどカレンが狭いテーブルに朝食を並べているところだった。
「おはようございます。着替えは用意してありますので、食事の前にどうぞ」
言われた通り、恵美はベッドから起き上がって服を着替え、カレンと一緒に朝食を食べ始めた。
「あの、今日は何か予定があるんですか?」
「特に何もありません。エミ様はやりたいことがあるのですか?」
「ちょっと町を見てみたいなって思って、カレンさんに付き合ってもらいたいんですけど」
「もちろんいいですよ。朝食が済んだら出かけましょうか」
そういうわけで、恵美とカレンは二人で町を歩いていた。以前首都の町を歩いたときよりも、恵美の表情は明るい。
「落ち着いたいい町ですね」
「そうですね、小さな町ですがいいところです」
二人は露店をのぞいたりしながら、町の中心の広場にたどり着いた。広場にも露店が出ていて、それ以外にも様々な人々がいた。
恵美はベンチに座ってその光景をのんびりと見始めた。カレンはその近くに立って、さりげなくあたりに注意を払っている。
だが、何事も起こらず、しばらくそうしてから二人は広場から立ち去って、昼食のためにいったん宿に戻ることにした。
閑散としている宿の食堂に二人は入り、恵美は座ってカレンは食事を取りに行った。あまり具の入っていないシチューとパンで軽く昼食を済ませた二人は再び外に出ようとしたが、カレン外へ続くドアを開けたところでいきなり立ち止まった。
「エミ様、申し訳ありませんが、部屋に戻っていただけますか」
明らかに雰囲気が変わったカレンに、恵美は黙ってうなずいて部屋に向かった。カレンは外に出ると、早足で町の出口に向かった。
そうして、町から離れた場所まで着くと、手近な木に寄りかかって何かを待つ体勢になった。数十分後、カレンの前にはフード付きのローブを着けた者が現れていた。
「思ったよりも遅かったですね。しかし、あまりしつこいのも困ったことですが」
そう言うと、カレンは剣を抜いて一歩踏み出した。