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二人の道中

「今日はこのあたりで野営しましょう」


 カレンはそう言って荷馬車を止めた。恵美は少し疲れの見える表情で荷台から降りる。


「あとどれくらいで町に着くんですか?」

「邪魔が入らなければ、明後日くらいには到着する予定です」


 恵美はそれを聞いて明らかにほっとしたようだった。カレンはテントを手早く用意し始めたが、突然その手を止めた。


「エミ様、少し隠れていてください」


 恵美が言われた通りに近くの茂みに隠れると、カレンは荷馬車のそばに立って数十分後、馬車の音が小さく聞こえてきた。


 それは隊商のようで、何台もの馬車が連なっていた。カレンが軽く手を上げると、その先頭を歩いている護衛らしき人物もそれに応じた。


「何かあったのか」


 一人でいるカレンを妙に思ったのかその男は声をかけてきた。


「いえ、ここで野営をするだけです」

「そうか、気をつけてな」


 それだけ言って隊商はそのまま止まらずに進んだ。だが、カレンは何かに気がつくと突然最後尾のほう目指して走りだした。


 隊商の人間達は驚いて声もかけられなかったが、すぐにオーガの叫びが響き、護衛達は慌てて武器を構える。


 普通ではそれでは後ろを守ることはできないようなタイミングだったが、カレンが素早くそれに近づき、剣の一振りで切り倒した。その鮮やかさに、隊商の人間達は全員が呆気にとられていた。


 時が止まったような雰囲気が場所を支配していたが、一台の馬車から一人の中年に手が届いたような女性が降りてきた。


 その女性はカレンに近づいていき、まずは軽く頭を下げた。


「ありがとう。あんたのおかげで助かったよ」

「いえ、どのみちあれは倒すことになっていたでしょうから、御礼を言われるようなことでもありません」

「堅いねえ、あんた。まあいいや、あたしはアヤっていうんだ。この隊商の責任者をやってる」

「カレンです」


 二人は軽く握手を交わした。


「ところであんた、あたし達と一緒に来たらどうだい? 一人旅は色々と大変だろうしさ、あんたみたいに強いのが一緒に来てくれれば大助かりだし」

「いえ、私は一人旅ではないので」

「誰か一緒なのかい? そんなことで遠慮しなさんなって」


 カレンはそこで少し間をおいてから口を開く。


「では、少し相談をしてきます」

「ああ」


 アヤはうなずいてから隊商の方に戻り、声を張り上げてしばらく休むということを宣言した。カレンはそれを横目で見ながら、恵美のところまで戻った。恵美は茂みの中から顔をだして、隊商を不安げに見た。


「あの、あの人たちはなんなんですか?」

「隊商のようです。同行しないかと誘われたのですが、どうしますか?」

「一緒に行くと、何かいいことがあるんでしょうか」

「大勢のほうが旅は楽になりますね。見たところまともな隊商のようですし、問題はないと思います」


 恵美はそれを聞いてしばらく考え込む様子を見せた。


「わかりました。カレンさんがいいっていうなら、そうしてください」

「はい」


 カレンが返事をして、再びアヤの元に向かうと、アヤはそれを見て笑顔になった。


「ああカレン、話はまとまったのかい?」

「ええ、ご一緒させていただきます」

「よし」


 アヤは手を叩いてから、息を大きく吸い込んだ。


「今日はここで野営だ! 全員準備をしろ!」


 とんでもない大声だったが、隊商のメンバーは慣れているらしく、落ち着いた様子で野営の準備を始めた。


「ところで、あんたらはどこに向かってるんだい?」

「ノーデルシア王国までです」

「そりゃちょうどいい! あたし達もそっちの方に向かってるんだよ。で、あんたの連れっていうのは?」

「ではこちらに」


 カレンは恵美のいる場所までアヤを連れて行った。アヤは恵美を見ると、なんとも優しげな表情になった。


「はじめまして、あたしはアヤっていうんだ。よろしく」

「は、はい。私は恵美っていいます」

「エミか。見た目と一緒で可愛い名前じゃないか」


 そう言ってから、アヤはいきなり恵美の肩に手を置いた。


「あんたみたいな娘がどんな事情で旅をしているのかは知らないけど、あたしの隊商にいればできるだけ不自由はさせないし、しっかり守ってあげるからね」

「あ、ありがとうございます」


 恵美はとにかく頭を下げる。


「なーに、気にしない気にしない」


 アヤは破顔一笑という感じの笑顔を見せると、恵美の頭を軽く叩いて一歩下がった。


「じゃ、あたしはあっちをまとめないといけないから」


 そうして早足でその場から去っていった。恵美はその後姿を見ながら大きく息を吐き出す。


「すごい勢いのある人ですね」

「はい。しかし、信用できそうな人物です」

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