合流と謎の男と
タマキは数日間首都に滞在していたが、女王に会った後は特にこれといった収穫はなかった。
町を出ることにしたタマキは、とりあえずロドックにそれをしらせに、その店を訪れていた。
「じゃあ、俺はしばらくこの町を離れるから。たぶん戻ってくると思うけどな」
「そうか。また来たときは力になろう」
「よろしく」
タマキはロドックと握手をしてから、店の外に出た。そして町を歩いていると、いつの間にかファスマイドが横に並んできていた。
「何か用か」
「この町を離れるんだろ。僕もご一緒したいね」
「スパイでもしたいのか?」
「別に、そういうわけじゃないよ。ただ面白いものが見られるんじゃないかと思ってね」
「面白いことなら俺も期待したいところだ」
「おお、心強いね。で、ついていってもいいのかな?」
「できるんならな」
「それはどうも」
その後は二人とも黙って町の外、人気のない場所まで移動した。タマキはマントに手を触れてそれを闇に染めると、空高く飛び上がった。
「相変わらずすごいもんだね」
ファスマイドはそうつぶやいてから、その後を追って飛び上がった。
それからしばらくして、タマキが村の近くに下りると、少し遅れてファスマイドも着地した。
「なかなかいい感じのところじゃないか」
「けっこうとばしたつもりだけど、お前、本当に何者だ?」
「楽しいことが好きなだけだよ。まあそんな細かいことはいいじゃないか」
気楽な様子のファスマイドに、タマキはなんとなく疑わしそうな目を向けてから、軽く笑った。
「おかしなまねをするなよ」
「ああ、もうやってきたしね」
「村の場所を誰かに教えてきたとかか」
「鋭いねえ。でもまあ、これから君達が行く場所のことは秘密にしておくよ」
「そうしてもらいたいな」
それだけ言うとタマキは背中を向けて、村を目指して歩いた。
「それで、その男と一緒にここまで来たのですか」
家の中で、椅子に座ったカレンは若干頭が痛そうにしていた。恵美はできるだけファスマイドと距離をとって立っていた。一方、タマキは椅子に座り、ファスマイドはドアに寄りかかっている。
「ついてきちゃったものはしょうがないしな。それに、はっきり敵と言えるわけでもなさそうだし」
「そうですか」
カレンは大きくため息をついた。
「そうおっしゃるなら、気にしないことにします」
それを聞いたファスマイドは満面の笑みで何度もうなずく。
「話がわかってもらえてうれしいよ。そういうわけだから、エミちゃんもよろしく」
だが、後の三人はそれを適当に流した。それからカレンは気を取り直して、口を開いた。
「まず、私達を妙な者達がつけてきて、襲いかかってきました。あれは王国の者ではないのは明白だと思います」
「どんな奴等だったんだ?」
「フードがついたローブを着ているうえに、仮面をつけていたのでよくわかりません。さらに、おかしな怪物にまで姿を変えました」
「怪物か。とんでもなく怪しい連中だな。お前は何か知らないのか?」
タマキがファスマイドに話をふると、返ってきたのは怪しい、何かたくらんでいそうな笑顔だった。
「さあ、何者だろうね。僕は知らないなあ」
「明らかに知っているのに、そういう言いかたはやめてください。隠したいならそれでかまいせんが、無駄な言葉は聞きたくありませんね」
カレンの手厳しい一言に、ファスマイドの笑顔は凍りついた。
「わかりました。黙っておくよ」
その返事に冷たい視線を送ると、カレンはタマキに顔を向けた。
「おそらくあの者達はこの場所を知っているはずです。すぐに出発したほうがいいでしょう」
「そういうことなら、早く出たほうがいいな。この村にも被害が出る可能性があるし」
「では、明日にも出発することにしましょう」
カレンがそう言ったところで、小さいが地響きのような音が聞こえ、タマキとカレンは顔を見合わせた。
「少し俺が来るのが遅かったかな」
「いえ、むしろここで迎え撃てるのは幸運かもしれません」
二人は顔を見合わせてうなずくと、同時に立ち上がった。
「あの、なにがあったんですか?」
恵美がそう聞くと、カレンは微笑を浮かべた。
「少しやっかいなことが起こったようなので、これから私達で片付けてきます。エミ様はここで待っていてください」
そこにファスマイドが口をはさむ。
「そうそう、今回は僕も手を貸すから心配しなくていいよ」
「俺達に協力する気なのか?」
タマキの質問にファスマイドは手を広げて、おおげさに同意の意を示した。
「もちろん。君達の戦いをアシストしてあげるよ。まあ、直接的なものじゃないけどね」
「期待しないで楽しみにしておくよ」
それだけ言ってタマキはその横を通って外に出て行った。カレンはしばらくの間ファスマイドの目を見てから近づき、その腕をつかんだ。
「では、行きましょうか」
「はいはい。じゃあねエミちゃん」
ドアが閉まる音を聞いてから、一人残された恵美は自分の体を抱いて床に座り込んだ。