謎の怪物
村へと向かうカレンと恵美だったが、カレンは何かに気づいたようで、荷馬車を止めた。
「どうしたんですか?」
「何か来ます。振り切るのも無理ですから、隠れて様子を見ましょう」
カレンは荷馬車を道から外れるコースに向け、森の中に入っていった。そして、道からは目立たないように荷馬車を隠した。
「エミ様はここにいてください。ですが、周囲に気をつけて、何かあったらすぐに動けるように注意していてください」
それだけ言うとカレンは御者台から降りて道のほうに歩いていき、適当な場所に身を隠した。
数分後、馬の蹄の音が聞こえてきて、五人の馬に乗ったローブの人間が現れた。その五人は何かに気づいたようで馬を止めた。
そして、全員が馬から下りると、荷馬車の跡が道から逸れて行っているのを見つけたようで、二人が森の方に足を向けようとした。そこでカレンは隠れていた場所から姿を現した。
「何か捜しているようですね」
ローブの五人は一斉に身構えて、背中の剣を抜いた。カレンはそれを見てため息をついた。
「穏やかには済みそうにありませんね」
カレンは一番近くのローブに一気に近づいて、右足をその腹に叩き込んだ。ローブの人間は体をくの字にしてその場に崩れ落ちる。
そこに二人が両側からカレンに切りかかってきたが、その剣は空を切った。
一歩下がっていたカレンは、そこから踏み込んで二人の剣を持つ手の肩を連続で蹴って、剣を叩き落した。間髪いれずに、ベルトのナイフを抜くと、振り向きざまに後ろにまわっていたローブに投げつける。
そして、ナイフがかすめてひるんだそのローブに向かって地面を蹴ると、剣を持っている手を押さえて足を払った。
「大怪我をする前に帰ったほうがいいですよ」
つかんだ手をひねりあげながら、残った一人にそう言った。だが、その一人は立ち去る気配を見せずに、フードを取った。
顔が見えるかと思ったが、そこにあったのは白い仮面だった。カレンはつかんでいた手を放して、それにゆっくりと近づいていった。
「退く気はありませんか」
仮面の人間は何も言わずに剣を投げ捨てると右手を仮面に当てた。他の者も同じようにして、いるのを見ると、カレンは剣を抜いた。
ほぼそれと同時に空気が凍るような感覚がして、ローブの者達の体が変容しだした。全身の筋肉が異常に膨張し、ローブが裂け、その体は元の三倍以上の大きさにまでなった。
その皮膚はまるで銅のような色になり、頭にも角が二本生え、口は仮面から余裕でとび出すくらいに裂けた。そして、仕上げという感じで仮面が砕けると、その下からはオーガをさらに悪相にしたような禍々しい怪物の顔が現れた。
カレンはそれを見てから、すっと目を閉じた。
「人間であることを捨てたのなら、手加減する必要はありませんね」
そして開かれた目は白銀。髪の毛も同じ色になり、白銀の輝きがその体を包むと、それが二つの翼のように背中に開いた。剣を構えると、それもまぶしいくらいの白銀の輝きを発した。
「すぐに、終わらせましょう」
そうつぶやくと、カレンは正面の怪物に一歩踏み出し、次の瞬間には凄まじい勢いで加速していた。怪物は何が起こったのかわからないまま、何かが通り過ぎていったのだけを感じたが、ふと自分の右手に違和感を感じたらしく、そこを見てみると、何もなかった。
その事実に驚く間もなく、その胸から強く輝く剣が突き出た。カレンはその剣をひねると、そのまま胴体の半分を切り裂いた。怪物は何が起こったかもわからずに倒れると、動かなくなった。
残りの四体は雄叫びをあげると、倒れた怪物の側に立つカレンに向かって殺到した。だがカレンは落ち着いた様子でそれをしっかりと引きつけると、上空に飛び上がった。
そして、一体に狙いを定めると、急降下を始めた。剣を振りかぶると降下の勢いのまま、狙った怪物を両断する。避ける間もなく、そいつはきれいに真っ二つになって地面に倒れた。
残りの三体は怯む様子もなく、着地したカレンに向かって手や足を振るって攻撃をしかけた。だが、カレンはその全てをかわして、一番近くの怪物の足を切った。
さらに、叫んで膝をついた怪物の膝を踏み台にすると、剣を一閃させてその首を切り落とす。残りは二体。
怪物は二体同時に大きく口を開くと、そこから炎を吐き出した。カレンがそれに対して一回だけ剣を振ると、炎はその圧力によってかき消された。
それでも怪物は二体同時にカレンに突進した。カレンはその中心に向かって走ると、剣の輝きだけを残してその間を通り抜けた。
二体の怪物は振り返ることもできず、血を噴出してその場に倒れた。
カレンが目を閉じて剣を鞘に収めると、翼は消え髪の色も元に戻った。開かれた目も元に戻っている。
「エミ様、終わりましたよ」
荷馬車に近づいたカレンが声をかけると、青ざめて震えている恵美が顔を出した。その様子を見て、カレンは頭を下げた。
「刺激の強いものを見せてしまって、申し訳ありませんでした」
「い、いえ、大丈夫です」
「では、すぐに出発しましょう」
カレンは荷馬車を道に戻して、今までよりも少しペースを早めた。その頭の中は、今の怪物達が何者か、ということに支配されていた。