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脱出と決闘

 恵美は町から離れたテントの中でカレンが用意した服に着替えていた。長袖の上着とズボンで、今までの服よりもずっと動きやすく、ジャージみたいで落ち着いた。


「エミ様、着替えは済みましたか?」

「はい」


 返事をすると、それまでの侍女服とは違い、鎧を身につけたカレンがテントを覗き込んだ。


「よくお似合いです。すぐに出発しようと思うのですが、大丈夫ですか?」

「大丈夫ですけど、タマキさんは一緒じゃないんですか」

「はい。まだあの町でやることがあるということなので。とりあえずは私とエミ様だけである村に向かうことになります」


 それからカレンは自分の眼鏡を外して恵美に手渡した。


「気休め程度ですが、変装用にどうぞ。伊達眼鏡ですから問題ありません」


 恵美はそれを受け取ると、テントを出てカレンと一緒に片づけを始めた。それが済むとカレンは荷馬車の御者台に、恵美は荷台に座り出発した。


 その頃、タマキはようやく目を覚まして起き上がったところだった。


「ずいぶんとのんきなものだな」

「それでいいんだよ。別に相手は逃げない」

「そうか。あのファスマイドとかいうのには注意しておけよ」

「どうだろうな」


 そう言って、タマキはマントを手に取るとそのまま宿を出た。そして向かった先は王宮の前。


「こんなところに来てどうするつもりだい?」


 気がつくとファスマイドが後ろから近づいてきていた。だが、タマキは振り返ることもせず、王宮を見上げた。


「特に意味はないけど、なんとなくこうやって見てみたくなったんだよ」

「それは、自分がやったことの成果を確認しにきたってことかな?」

「さあな」


 そう言ってタマキはファスマイドのほうに振り返った。


「で、お前は何の用だ」

「ちょっと顔を貸してもらいたくてね。いいかな?」

「ああ、ちょうどいい」


 タマキは先に歩き出したファスマイドの後を追って、人気のない町外れまで来た。ファスマイドはあたりを見回してから、手を一つ叩いた。


「ここならちょうどいい。じゃ、始めようか」


 そう言うと、ファスマイドはタマキに手の平を向けた。


「アイスバイト」


 氷の牙が五発、タマキに襲いかかった。だが、タマキは息を軽く吐き出してから、その全てを拳で叩き落す。そのまま地面を蹴ってファスマイドに迫るが、すでにその場所には誰もいない。


「ファイアボール」


 今度は上空から火の玉が十発降ってきた。タマキはそれに対して腕をクロスさせた。


「十倍! ファイアボール!」


 腕が開かれると同時に巨大な火の玉が放たれ、火の玉と衝突して爆発を巻き起こした。


「バースト!」


 タマキはその爆風を突っ切って飛び上がり、空中でファスマイドと対峙する。


「何の目的だ?」

「別に、楽しむためさ」

「そうか!」


 タマキは笑いながら拳を突き出した。ファスマイドはそれをふわっと上空に飛んでかわす。だが、タマキはすぐに体をひねって、両手をそれに向けた。


「二十倍! バースト!」


 凄まじい爆発がファスマイドを飲み込んだ。タマキは地面に着地してそれを見上げた。


「まったく、僕を殺す気かい?」


 しかし、ファスマイドは無傷で地面に降り立った。タマキはそれに驚く様子は見せない。


「余裕があるように見えるけどな」

「余裕があるのは君のほうだろう、全然本気じゃないじゃないか。それとも僕じゃ不足かな」

「それは知らないな。でもこんな町の近くであんまり派手にやりすぎるのも駄目だろ」

「まあ、一応そういうことがないように結界を張ってるんだけど、君の本気に耐えられるかはわからないな」

「そうか。じゃあ、試してみよう」


 タマキはマントに手をかけた。その瞬間、闇が波動のように広がり、マントが闇に染まった。次の瞬間、タマキはファスマイドの背後にまわっていた。


「おっと!」


 ファスマイドは回し蹴りをぎりぎりで飛び退いてかわした。が、タマキは間髪いれずに踏み込むと腕を突き出してきた。


「危ないな!」


 ファスマイドが腕を広げると、まるでそこに壁ができたかのように、タマキの腕が止まった。それは一瞬で破られるが、それでも身をかわすには十分な時間が稼げた。


 タマキとファスマイドは最初の時とは場所を入れ替えて向かい合った。


「まだ全然本気じゃないね」


 ファスマイドはにやりと笑う。そしてタマキもそれに応じるように笑った。


「それはお前もそうなんじゃないのか?」

「いやいや、僕には君ほどの力はないよ。僕はあんまりこうやって戦うのは得意じゃないしね」


 そこでタマキが大きく息を吐き出すと、マントはもとに戻った。


「それで、なんのためにこんなことをしたんだ」

「ちょっと君の力を自分で体感してみたかっただけだよ」

「じゃあ、感想を聞かせてもらいたいな」

「申し分ないね。これなら本当に面白いことになりそうだ」


 そう言うと、ファスマイドは一歩後ろに下がった。


「これからのことが楽しみだよ」


 そして腕が振られると、タマキの前に鏡のような壁が出現した。タマキはすぐにそれを拳で打ち砕いたが、ファスマイドの姿は消えていた。


「なあサモン、あいつは明らかに人間じゃないよな」

「そうだろうが、中々面白い奴だ」

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