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王宮の混乱

「いったい何をやっていたんだ!」


 恵美のいた部屋で早朝からキアンが誰にということもなく怒鳴っていた。護衛に立たせていた兵士に聞いても何もわからず、侍女も同様だった。


 いらいらした様子で部屋を歩き回るキアンもそれは同じで、何もわかってはいない。


「女王様、そんなに騒いだところで、何もいいことは起こりませんよ」


 そこにいきなりファスマイドが部屋に入ってきた。キアンはそれを睨みつける。


「お前は何か知っているのか!」

「さあ、どうでしょうね?」


 いかにも含みがありそうな笑顔を浮かべるファスマイドに、キアンはますます苛立った。


「知っていることがあるなら全部言うんだ! そもそこ全てはお前が仕組んだことではないのか!」

「いいえ、僕はそんなことは一言も言っていませんよ。それに、助言をしてさしあげたのをそうとられるのは傷つきますね」

「やかましい! そんなこと私の知ったことか!」


 キアンは半ば叫ぶようにそう言うと、早足で部屋から出て行った。それを見送ったファスマイドは部屋を見回してから、心の底から楽しそうな表情になった。


「思ったよりも動くのは遅かったようだけど、しっかりやってくれたね。これから楽しみだ」


 わざとらしくそうつぶやくと、ファスマイドも部屋を出た。そして、そのまま王宮を後にして、ある場所に向かった。


 到着したのは高級住宅街にある屋敷。ファスマイドは守衛に片手を上げてみせると、そのまま中に入っていった。そのままどんどん進み、ある部屋のドアをノックもせずに開けた。


「なんだ、突然来るなと言っておいただろう」


 それを迎えたのは痩せている神経質そうな中年の男だった。ファスマイドは男の言葉にはかまわずに、本棚にもたれかかった。


「それより、今日あったことは知ってるのかい」

「もちろんだ。陛下はかなり取り乱しておられるようだが、あの悪魔はどう言っているのだ」

「さあ、別に僕は傍観者だから、あんな奴の意向なんて知らないね」

「それでは困る、この国のためにはあのお方の力が絶対に必要なのだ。しっかりと連絡をしてくれなければ」

「はいはい。まああっちはもうわかってると思うから、僕が何かをする必要はないと思うよ」

「それはどういうことだ?」

「ああ、たぶん直接的に接触してくるんじゃないの? というか、最初のは僕がおせっかいでやってあげたことだったからね。そのおかげで君たちには色々余裕ができたはずだけど」

「何だと? じゃあ、お前は」

「ただの野次馬さ」

「そうか」


 男はそう言って、疲れたように目を閉じた。ファスマイドはその様子に感心したようだった。


「ずいぶん落ち着いているね」

「始めてしまったことなのだから、今さらどうこう言っても仕方あるまい。我が国には強力な力が必要なのだよ、たとえそれが悪魔の力であってもな。そう、例えばノーデルシアの勇者と言われる者を越える力だ」

 ファスマイドはそれに軽く肩をすくめた。

「ま、頑張ってくださいよ、宰相閣下。それより、王宮に行かなくていいのかな?」

「陛下が少し落ち着いた頃に行くつもりだ」

「じゃ、僕はこれで」


 それだけ言って屋敷を出たファスマイドは空を見上げた。


「さて、盛り上げるには少し手をうったほうがいいかな。楽しみじゃないか、タマキ君」


 そうつぶやくと、ファスマイドは町に姿を消した。


 それからしばらくして、キアンは執務室に宰相のレンツを迎えていた。朝の様子よりはだいぶ落ち着いていたが、まだキアンの表情は険しい。


「では、意見を聞かせてもらおうか」

「まず、エミ様が消えたのは昨晩ということですから、今はまだ遠くには行っていないはずです。すぐに捜索隊を組織すべきだと考えます」

「派遣している捜索隊はどうするつもりだ」

「呼び戻すべきだと考えます。今はとにかく目の前の問題に集中しなくてはなりません」

「そうだな。エミの脱出を手引きしたものがいるはずだから、それも調べなくてはいけない」

「すぐに手配します。ファスマイドは何か知っているようですので、あの男から情報を聞き出すこともしなくてはなりません」

「それはお前に任せよう。すぐに始めてくれ」

「わかりました」


 レンツは頭を下げて執務室から出て行った。一人残ったキアンはため息をついてこめかみを指で押さえた。


 全てがうまくいけば、伝説の最強の悪魔、オメガデーモンの力が手に入るはず。だが、考えていたよりも障害は多く、それに召喚した少女エミを見ると、そのあまりの普通さに自分達のやっていることに疑問も生まれた。


 それに、そもそも悪魔の約束などが信用できるのか、それもわからなくなってきていた。だが、考える間もなく、ドアがノックされた。


「入れ」


 そう言うと衛兵がドアを開け、室内だというのにフード付のローブをつけた人間だった。それはキアンの前でひざまずいた。


「陛下、オメガ様は状況の改善を求めております」

「わかっている、すでに動いているから心配はいらない」

「オメガ様は心の広い御方ですが、いつまでも見守るだけではありません。そろそろ成果を見せていただきたいのですが」

「わかっていると言っている」


 キアンは刺すような目でローブの者を見た。


「下がれ!」


 その一喝にローブの者は頭を下げると退室した。

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