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城下町

 恵美がキアンに町を見たいと言うと、返ってきたのは実にいい反応だった。


「そうか! それならすぐに供の者をつけさせて案内させよう」


 そう言うと、すぐに屈強な感じの兵士と侍女を数人手配した。


「これで、良かったんでしょうか」


 不安そうに聞く恵美に、ベッドの下から這い出してきたカレンは力強くうなずいてみせる。


「心配はありません。私は必ず近くにいます」

「でも、カレンさんはどうやって外に出るんですか?」

「正面から堂々と出さしてもらいますから、ご安心ください」


 そう言ったカレンは窓から外に出て行ってしまった。


 それから数十分後。護衛の兵士三名と二人の侍女と一緒に、恵美は町に出てきていた。


 上から見ているとただの建物の群れでしかなかった町も、こうして実際に歩いてみると、活気があってなんとなく恵美も気持ちが明るくなってくる感じがした。


 そうして、住宅街や商店街を見てから、公園に到着した。そこに突然氷の牙が一行の目の前に落ちてきた。


 兵士達は身構え、侍女は恵美の腕をとって後ろに下がった。だが、恵美が上空を見上げると、氷の牙が大量に降り注いできているのが見えた。


 恵美は伏せることもできず、それを見上げているだけだった。だが、そこに炎をまとった、何かが飛んできて、その上空で爆発を起こした。


 そして、恵美達の頭上に降ってきたのは、氷の破片だけだった。恵美が周囲を見回すと、黒い布を羽織ったカレンの姿が目に入った。


 カレンは一つうなずいて見せてから、人ごみの中に姿を隠した。その反対側で、薄ら笑いを浮かべながら、その光景を見つめるファスマイドの姿があった。


「やるじゃないか」


 そしてカレンと同じように人ごみの中に姿を消した。


 一方その頃、タマキはロドックの店に来てお茶を飲んでいた。


「まだ動きはないみたいだな」

「このまま何もないほうがありがたいんだが」

「それじゃ、あんたはいつ狼化が再発するかって、おびえながらすごさなきゃならなくなる」

「そうだな」


 ロドックはうなずいて天井を見上げた。しばらく二人はそうして黙っていたが、タマキが何かを感じたようで、顔を上げた。


「何か来たな」

「それは、呪いなのか?」

「ああ、そうかもな。ちょっと出かけてくる」


 タマキは立ち上がり、歩き出した。ロドックはそれを見送ってから、自分の仕事に戻った。


 感じた特異な魔力をたどって、タマキは公園に来ていた。何かあったようで、人だかりが出来ていた。タマキは手近な若い男をつかまえてみた。


「何があったんだ?」

「それが、ここでいきなり魔法が使われたらしいんだ」

「へえ、それは面白いな」

「面白いどころじゃないさ、上から魔法が降ってきて、さらにそれを阻止する魔法もあったらしい。しかも、狙われたのは城のお偉いさんだって話だ」

「へえ、物騒な話だな」

「ああ、まったくどうなってるんだろうな」


 そう言って若い男はどこかに言ってしまった。タマキはあたりを見回すと、ある方向に早足で歩き出した。その先にはローブを着た男の後姿。その男にたいして、タマキは本当にわずかな違和感を覚えた。


 そのまま後をつけていると、ローブの男は狭い路地に入っていった。タマキはそれに続いてそこに入っていったが、いきなり一歩飛びのくことになった。


「これはどういうことだ?」


 タマキは目の前に突き立った氷の牙を見ながら、路地の奥に立つ男に声をかけた。男は笑っているようだった。


「いい反応だね。さすがノーデルシアの勇者ってところかな」

「へえ、そんなことを知ってるっていうことは、あんたは相当な変わり者だな」

「いや、君の活躍のおかげだよ。僕みたいに面白いことを探していれば、嫌でも知ることになる」


 それを聞いてタマキは笑って頭をかいた。


「俺はかなり引きこもってたんだけどな。ところで、あんたは呪いって知ってるか」

「ああ、知ってる。ああいうのはけっこう面白いから、たまに試したくなるね」

「じゃあ、狼を作り出したのはあんたか」

「そういえばそうだったな」


 その答えにタマキは一歩男のほうに足を踏み出した。


「なら、その呪いを解いてもらおうか。もう十分楽しんで、飽きてるだろ?」

「うーん、そうだな。もう忘れてたし、お近づきのしるしにそうしてもいいね」

「ありがとさん。それで、あんたは何者かっていうことも聞かせてもらえるか」


 タマキの言葉に、男はもったいぶったような仕草と表情をして、結局首を横に振った。


「簡単に教えたらもったいない。それは君達のほうで探ってもらいたいね」

「君達か。こっちのことは知られているらしいな」

「ああ、もう一人もさっき試させてもらったけど、実にいい。これからのことを考えると、今からわくわくしてくるね」

「それはどうも。でも、ここで決着をつけてもいいと思わないか?」

「いいや、また会おう。ああ、僕の名前はファスマイドだ、覚えておいてくれ」


 そう言うと男は路地の奥を目指してゆっくりと歩いていって、姿を消した。タマキはそれを黙って見送ると、踵を返して大通りのほうに戻った。

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