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あてのなさそうな旅人

 森の中の細い道を、二人を乗せた荷馬車がゆっくりと進んでいた。


 一人は御者台に座っている眼鏡をかけてレザーアーマーを装備した地味な女。もう一人は荷台で寝転がっているマントと皮のジャケットを付けた男だった。


 そこに突然弓や剣を構えて、顔を布で隠した賊と思われる男達が現れて荷馬車を囲んだ。


「怪我をしたくなかったら有り金を置いていけ!」


 いくつもの弓が二人に突きつけられたが、当の二人は何事もないようにそれを見回した。それから男は体を起こしてあくびをした。


 その様子を見て、声を出した男は険しい顔になった。


「金を置いていくんだ!」


 そこで荷馬車の男と女は顔を見合わせた。


「どうしますか?」

「そんなに性質が悪い連中には見えないし、ちょうどいいかもな」


 男はそう言って頭上に手をかざした。


「ファイアボール!」


 空に火の玉が放たれ、派手な爆発が起こった。その衝撃に賊達はひるんだ。男は今度は手を水平に構えた。


「俺としては平和的に話し合いたいんだけど、どうかな?」


 さっきの威力を見ていた賊達は完全にその雰囲気に飲まれていた。弓や剣はすでに二人には向けられていなくて、ただ取り囲んでいるだけだった。


「よしよし、それじゃあなんでこんな強盗をしてるのか聞かせてもらおうか」


 男は荷馬車から飛び降りて賊達と正面から対峙した。


「おっと、そういえばまだ名乗ってなかったっけ。俺はタマキでこっちはカレンだ。よろしくな」


 場違いな名乗りに緊張した雰囲気が一気に崩れた。賊は一箇所に集まって何かを相談していたが、何か決まったようで、首領らしき人間は顔に巻いていた布を取った。


 その顔はくたびれた感じの中年の男だった。男はタマキとカレンの目の前に立って、意を決したような感じで口を開いた。


「まず、さきほどのことを謝罪します。あなた方を見込んで頼みたいことがあるのですが、ついてきてもらえますか?」


 さっきまでとはまったく違った雰囲気になった男に、タマキは気楽な感じでうなずいてみせた。


「ああ、いいよ。案内を頼む」


 それだけ言ってタマキは再び荷台に横になった。


 その妙な一行はゆっくりと進んでいって、さびれた感じの村に到着した。タマキは荷馬車から飛び降りてあたりを見回した。


「なんだか寂しい村だな」

「そうですね、どうも妙な雰囲気です」


 タマキとカレンは言葉を交わしてから、中年の男を見た。


「さて、どういうことか聞かせてもらえるよな」


 タマキの質問に中年の男はうなずいた。


「荷馬車はこちらで預かりますから、どうぞこちらに」


 中年の男は歩き出し、タマキがカレンにうなずくと、カレンは御者台から降りてタマキと共に中年の男の後をついて歩いた。


 到着したのは村の建物の中でもひときわ大きい建物だった。三人はそこに入って、比較的豪華な部屋に集まって椅子に腰をおろした。


「私はアディソンといって、この村の者です」

「なるほどね。で、なんで強盗なんてまねをしてたんだ?」


 タマキの言葉に、男は苦痛に満ちた感じの表情になった。


「しばらく前から、この村の近くに魔物が出没するようになったのです。そのせいで農作業が思うように出来なくて、このままでは税でほとんど手元に何も残らないことになってしまいそうなんです」

「それで盗賊の真似事ですか」


 カレンの一言にアディソンはうつむいた。


「それしか手がなかったんです。魔物の退治なんて私達にはできませんし、こんな小さな村には兵隊達も中々来てはくれません」

「なるほどね、それで見ず知らずの俺達の力に目をつけたわけだ。これは相当、切羽詰ってるな」


 アディソンは大きくうなずいた。


「そうです。お礼はしますから、ぜひ魔物の退治をお願いします」

「そうだな。じゃあ、この村に無期限で滞在させてもらおうか」

「極秘でお願いします」


 タマキとカレンの妙な申し出にアディソンは一瞬妙な表情を浮かべたが、すぐに首を縦に振った。


「わかりました。できるだけ協力はさせてもらいます」


 その返事を聞いてタマキは手を叩いた。


「よし、決まりだ! じゃあ、早速魔物が出るってところに案内してもらえるか?」

「はい、ではすぐに」


 アディソンとタマキはほぼ同時に立ち上がった。そこでタマキはカレンの方を向いた。


「カレンは念のためにここに残っててくれ」

「わかりました。タマキさんもお気をつけて」


 二人で建物を出てから、アディソンは少し遠慮気味に口を開いた。


「あの人は、強いんですか?」

「ああ、強いよ。カレンさえいれば何も心配いらない」


 そう言ったタマキはアディソンの顔を見てにやりと笑った。


「それこそ、ここから見渡せる限り、魔物が現れたって大丈夫だ。まあ、俺でもそれくらいなんとかできるけど」


 アディソンはタマキの言葉を冗談とも本気とも受け取りかねて、あいまいな表情をしていた。


 それからしばらく歩いて森の中に入ってから、タマキは突然立ち止まってアディソンの肩に手をかけた。


「お客さんが出てくる。下がってくれ」

「わかりました」


 タマキのただならぬ様子にアディソンはおとなしくその言葉に従って後ろに下がった。


「なにか妙な気配だと思わないか、サモン」


 タマキがそう言うと、首から下げている狼のようなアミュレットが動き出した。


「そうだな、ただの魔物ではない。しかしその名前はなんとかならんのか?」

「ドゥームデーモンなんて長すぎるし、それにお前には名前なんてあってないようなものだろ」

「わかった。それより、くるぞ」


 それまで何の気配もなかったところに、突然普通の人間の二倍はありそうなサイズの影が現れて襲いかかってきた。


 タマキは後ろに飛び退いてそれと距離をとってから、上から下までその襲いかかってきた魔物を観察した。


「オーガみたいだけど、何か違うな」

「そうだな。だが、雑魚なのには変わりはない」

「ああ」


 タマキは手のひらをその巨体の魔物に向けた。だが、魔物はそんなことはおかまいなしに突進してきた。


「バースト!」


 次の瞬間には魔物が爆発に包まれ、文字通り粉微塵になっていた。アディソンはその光景を呆然として見ていた。


 タマキはゆっくりとそっちに歩いていった。


「まさかあれ一体だけじゃないよな」

「は、はい。でも村の近くをうろついていたのはあの魔物だけのはずです」

「そうか。それじゃあとりあえず村に戻ろう」

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