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経済の話

ある国の話

 その国は戦争で負けてしまいました。戦争の爪あとは凄まじく、生活していくのがやっと。その当時の人々にとって復興など夢のまた夢に思えました。皆は貧乏で、もちろん預金なんかほとんどありません。そして、預金がない事は同時に資金がない事も意味していました。銀行などの金融機関に預けたお金こそが、企業の資金源になっているのです。資金がなければ、当然、何も産業は興りません。産業が興らなければ、皆は貧乏なままです。そこには出口などないように思えました。

 しかし、そこに転機が訪れます。近くの国で戦争が起きたのです。その戦争は大きな需要を生みました。そのお陰で、たくさんの物が売れたのです。そしてそれで、その国の人々に思わぬ収入が入ったのでした。人々の生活は潤いました。そればかりか、預金も増えました。この国の人々は預金を好む傾向にあるようなのです。先にも説明しましたが預金は資金を意味します。つまり、それにより産業が発展する為の資金が生まれたのです。

 資金を手にしたその国の企業は、技術発展を遂げ、急速に成長していきました。もちろん、そんな中で人々の生活は豊かになっていきます。物質的な豊かさだ、働き過ぎだ、という批判はありましたが、それでもそれは確かに成長でした。反省すべき点は多々あるにせよ、その国は、そうして経済大国へと育っていったのです。

 あるところで、その経済成長は鈍化しました。それは先進国の一つとなったその国の宿命でもあったのですが、それを受け入れる事はその国にはできませんでした。また、同時にその国は他の国から内需の拡大を求められてもいました。

 その国は主に輸出により、経済成長を遂げたのです。それは、外国に物を買ってもらう事で為しえた成長だったのです。しかし、それは他の国にとってみれば、困った事実でもありました。自国の製品が売れなくなってしまう。それで外国は、その国に自分でも金を使えとそう迫ったのです。しかし、前にも述べましたが、その国の人々は預金が好きです。つまり、あまり購買意欲は高くありません。内需はあまり大きくなりません。そして、これも前に述べましたが、それは預金が、つまり資金が膨大にある事を意味してもいました。そして、その国の政治家や役人たちは、その資金に目を付けたのです。

 政治家や役人たちは、民間が使わないのなら、と自分達でお金をたくさん使い始めてしまいました(もちろん、それまでも使っていましたが)。銀行などの金融機関から借金をすることによって。もちろんその大元は、人々の預金で、その借金を返すのは税金しかありません。つまり、この国の人々は自分自身が貸したお金を、自分自身で返さなければいけないという訳の分からない借金を背負い始めてしまったのです。しかし、その意味に気付いている人はあまりいませんでした。

 その国は借金をし続け、お金を使い続けました。それが意味のあるお金の使い方だったならまだ良かったのですが、それらのほとんどは意味のない無駄遣いでした。例えば、交通量の少ない道路を2車線から6車線に変えたり、船のいない港を造ったり、ごく近くに大きな空港を3っつも造ったり。それらはほぼ全て、政治家や役人にとって利益のある事ばかりでした。民間企業も、もちろん利益にありつきます。その体制は、その癒着構造により維持され続けました。当然、借金は膨大に膨れ上がっていきます。それは、バブル経済の崩壊と共に起こった不景気への対策により更に加速しました。

 そのうちに、借金が無視できない額になると、流石に節税や増税が叫ばれ始めました。しかし、節税は政治家や役人が反対し、増税は国民が反対しました。どちらも損したくなかったのです。ただ、政治家や役人と国民との間ではちょっとした差がありました。

 政治家や役人は、財政赤字が増税や節税の背景にあると分かっていました。ところが、国民の方ではそう認識している人は全てではなかったのです。例えば、煙草増税が決まると、ある人は文句を言いましたが、政治家や役人に無駄遣いを減らせとは言いませんでした。それどころか、明確に節税に反対する場合もありました。節税への反対は、増税への当然の帰結を意味します。国民がそれを負担する事を意味します。しかし、それを理解してはいなかったのです。増税に反対するのなら、税金の無駄遣いにも反対しなくてはならないのに(この国は民主主義ですから、国民が本当に怒ったのなら、節税は可能です)、それをしない。ならば、財政問題は解決しません。残るは、増税か国家破産かしかありません。

 この国の問題は、そればかりではありませんでした。国内で政治家や役人が権力闘争に明け暮れている間に、経済大国の位置すら揺らぎ始めたのです。発展途上国が目覚しい経済発展を遂げたからです。

 考えてみてください。企業が成長するのには資金が必要です。その為の預金がたくさんあったのがこの国の強みであったはずです。しかし、その預金は国の無駄遣いによって奪われてしまっていたのです。企業が衰えるのは当然の話です。もちろん、成長の方向性が民間に見えていなかったのも事実です。しかし、その道を切り拓く役割を、国が担えさえすればそれは乗り越えられたでしょう。これまでのような経済成長に問題があるとするのなら、環境対策や福祉などの分野での成長方向もあったはずです。

 中にはそれを訴えた政治家もいましたが、伝え方は下手でした。“官から民へ”と言われても、多くの国民はその意味を理解できませんでした。そうして、この国の国際競争力はどんどんと低下していったのです。国際競争力が低下したなら、もう大きな収入も期待できません。無駄遣いを減らしてもかなりの増税がなければ財政問題を解決する事はできなくなるでしょう。

 また、この国は高齢化という問題も抱えていました。高齢者達の生活を支える為に、医療や福祉財政も緊迫していったのです。それらも大きな要因となって、財政問題を更に悪化させました。ますます、増税は避けられなくなっていきます。しかし、にも拘らずこの国はその目の前の現実から目を背け続けました。

 こうしている間にも、この国の借金は膨らみ続けています。やがては、雪崩が起こるように、堤防が決壊するように、大きな崩壊が起こるのでしょう。そうなれば、これを読んでいるあなたの生活は……

 ……この国の物語はまだ終わってはいません。話の続きは現実世界が引き継ぎます。もちろん僕は、ハッピーエンドを望みます。その為の努力もします。しますが… しかし、何もしないでも大丈夫だと思っている人が動かなければ、それはやっては来ないでしょう。


 以上。2010年11月。

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― 新着の感想 ―
[一言] ほんとにバラエティー豊富ですね。 たくさんの作品楽しみに拝読しています(^-^) この国ってこういうふうに歩んできたのね‥と考えるきっかけになりました。 とにかく読み進めながら面白くて引…
2011/10/27 02:36 退会済み
管理
[一言] とても分かりやすいです。学のない私にも、すんなり理解できました。 経済に行き詰まり、外交に行き詰まり、大国に影で操られ、その先にあるのは……あまり考えたくないですね。 今は声を上げるべき最後…
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