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宿る歴史

掲載日:2026/05/14

短編です

ある一定年齢を超えると、遺産相続のお手伝いだとか、遺品整理の手伝いだとか、不動産売買に関する資料などが無闇矢鱈に届くようになる。

 どこから調査されているんだか、個人情報もへったくれもない。

 その資料の中に「自分史を作りませんか?」と書かれた封筒があった。

 自分史なんて、そんなものを残すような相手もいないし、何か特筆して面白い歴史が自分の人生の中に有るわけじゃない。

 TVに出るような有名人や、アーティスト、会社の社長とか、そう言う肩書の仕事をしていれば、自分史なる書物を作ろうと考えるんだろうけど、今の自分にそんなものが残せそうな過去の偉業や、歴史は存在しない。

 陶芸家の息子として生まれ、ずっと父と比べられて生きてきた。

 父の作品は確かにすごかった。国宝だなんて呼ばれるような作品ばかりで、素人が見てもうっとりするような形と色使いが魅力だった。

 その点俺は、あまりその辺の才能がなかったみたいで、父の作品と比較するとあまりに稚拙で、ハッキリ言ってしまえば、素人と変わりない。

 でも俺は、どうしても父の作品を越えたかった。

 一度でいいから、俺の名前を世界に轟かせたいと思っていた。

 父以外の陶芸家に弟子入りして、その作風を学んだ。時には海外の陶芸家に突撃で弟子入りしたりもした。

 そんなことを続けていたある日、父が亡くなったと連絡を受けた。

 焼き窯の前で倒れていたんだとか。死因は心臓発作だったと後で聞いた。

 父は最後まで、陶芸家だった。

 父が最期に焼いた皿は、遺品という箔がついて、国宝として高値がついて、国に買い上げられていった。

 買い上げられる前に、ひびなどがないかをチェックする。歳のわりに相変わらず色が綺麗で、絵にもブレがない。

 ついぞ、父を唸らせる作品を作ることも、父を明確に超えたと言われるような作品を作る事も出来なかった。

 ずっと、目標にしていた父の背中が急になくなったようで、俺は足元がふわふわと現実味がないような気がしていた。

 父の遺品を整理していると、窯の中にまだ器が残っているのを見つけた。

 その湯呑みは、少し形がいびつだし、父の好んだ色とは全く違う、今までにない発色の湯呑みひっそり奥に佇んでいた。死ぬ間際まで、新しい発色や形を試していたんだと、初めて知った。本当に死ぬ間際まで、陶芸の事を考えている人だったんだなぁ。

 一般的には良い父とは言えないんだろうけど、俺にとっては、かけがえのない師匠であり父だった。

 自分史を作るべきは父だと思っていたけど、父の作った作品たちが彼の歴史を物語っている様に見えた。」


「と、こんな感じでいかがでしょう?」

「良いですね、すごく」

「はは、ありがとうございます」

「では、表紙などを付けて、本の形にしてお持ちしますね!」

「お願いします」

 可愛い顔の若い娘さんが、俺の話をまとめた書類を持って家を出ていった。

 俺の、自分史かぁ・・・。


——ぐふふ・・・。——

なんか照れるなぁ。

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