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「私は以前から気の合わないウォルス様との婚約解消を望んでいます。ですので、ハウエル様との仲を応援しています」
婚約者への情などみじんもない自分はむしろこれは婚約解消のチャンスだと思い、噂好きの令嬢たちには「ディラン様の本当のお気持ちを応援しますわ」としおらしいフリをし、仲睦まじく寄り添う2人に出くわしてもどうとでもとれるあいまいな笑みを浮かべてやり過ごしている。
クリスティーナもそれを知っているのか、切なさと嫉妬が入り混じった陰のある笑みを浮かべた。
「そう、あなたは彼と離れられるのね。少しだけうらやましいわ。私はどうすれば良いのかわからないから……」
婚約者との確かな愛情を育んできた彼女にシンシアはちくりと胸が痛み、ほろ苦く笑った。
「私も婚約者様と心からの愛情と信頼を育んだフリージア様は素晴らしいと思いますし、うらやましいですわ。私は彼とはわかり合おうと思いませんから」
「……それは、どうして?」
「父とウォルス様が大嫌いだからです。
父は既に婚約していた母がいたにも関わらず、学生時代のほとんどを恋したウォルス夫人と一緒に過ごして、未練がましく私とウォルス様との婚約を強引に結んだのです。
ウォルス様も初めて会った時からお互いに嫌いあっているのに、婚約させられたのは頑なに私のわがままのせいだと思いこんでいて。何をしても無視されるので早々に期待を捨てました。
そんな事情ですので、私はウォルス様がハウエル様と結ばれるように応援していますわ。それが自分のために私を利用する父と、気にくわない私に不満をぶつけるだけで何もしようとしないウォルス様への私なりの仕返しですから。
……それに、母に『学生時代は一番楽しく過ごせる時間だったわ。こちらを見ようともしない相手なんか放っておいて、自分のために過ごしなさい』と言われたのでそうしていますの。嫌いな相手に振りまわされるなんて時間の無駄ですもの」
母と弟しか知らない憎しみと怒りが凝った本音に顔を曇らせたクリスティーナにおどけるように軽い口調で付け足す。それでも温かな家庭で育ったクリスティーナは痛まし気な表情で何か言いたげにしていたが。やがて決意をこめたまっすぐな瞳でシンシアを見つめた。
「ライノーツ様、初めて会った私にあなたの大切な想いを打ち明けてくれてありがとう。……こんなことを言ったら気を悪くするかもしれないけれど、あなたの気持ちわかる気がするわ。私も私よりもハウエル様を優先するロイドが憎くてたまらないもの」
クリスティーナは苦しそうに一度目をつぶった。そして、真摯な表情でシンシアにだけ聞こえるような小さな、でもはっきりした声で続けた。
「……実を言うと、お兄様とお父様はずいぶんと前から私たちのことを心配していて。ロイドが諦めるようにハウエル様を婚約させて遠くに追いやろうとしてくれているの。
でも、私はできなかった。彼女に恋しているロイドから無理やりハウエル様を遠ざけたら、ロイドはきっと彼女を心の中で永遠に美しい思い出にして、彼女を奪った私を責めるだろうから。
そうなったら、きっと私たちは二度と元に戻れない。そう考えると不安でたまらなかったの」
「フリージア様……」
「でも、今のあなたとお母様のお話を聞いて、いくら頑張っても離れていったロイドの心は私だけでは変えられないとやっと諦めがついたわ。
だから、これからは身勝手なロイドなんか忘れて私も好きにする。そして、ロイドへの気持ちを考え直すわ。
でも、やられっぱなしは許せない。だから、ウォルス様とハウエル様を婚約させて、散々好き勝手なことばかりしているロイドを失恋させてやるわ。私もあなたの仕返しに協力させてもらえないかしら」
「もちろんですっ。フリージア様が協力してくれたら大助かりです。むしろ、私の方がお願いしたいぐらいです」
クリスティーナは喜ぶシンシアに悪戯っぽい笑みを見せた。
「もっと早くあなたと話していれば良かったわ。それに誰かの恋愛を応援したり、ロイドをぎゃふんと言わせるのを考えると不謹慎だけれどわくわくするわ。……そうだわ、ちょうど良いからそういうことが得意なお兄様も手伝いを頼んでも良いかしら? もちろん、口は堅いから安心して」
「もちろんよ、助っ人はいくらいても助かるもの。それにね、実を言うと私もウォルス様のファンたちを煽るのが楽しくなってきたところなの」
「ふふふっ、それは楽しそうね。これからよろしくね、シンシア」
「ええ、こちらこそよろしく、クリスティーナ」
意外と気が合う2人は笑いあって握手をした。




