第三十五話 『一難去ってまた一難』
「あ、ボスにゃの〜」
一難去ってまた一難。
いつものように教室に訪れるとニグラスの席に先客が座り込んでいた。
其処に居たのは昨日、分からせたばかりのバステ・ブバスティスだった。
「今日からあーしもボスのハレムに参加するにゃのー」
大勢が居る前で躊躇いもなくそう宣言する彼女にニグラスは胃が痛くなる。
男子生徒から向けられる嫉妬と羨望の眼差しが背中に突き刺さる。
そして、フェンとメゾルテはもはや諦めたのか何も言わずにため息を吐く。
「えっと、なんで先輩が此処に?」
「強き者に従うのは獣族の本能にゃの〜」
セクメットと同じ事を言っている。
流石は姉妹…こうなる事は予め予想していたので驚きはしなかった。
と言うよりもこれは良い機会でもあった。
彼女は2回生で1回生のニグラス達が知り得ない情報を持っている。
ゲーム内に於いて大半の主要キャラクターの性格や設定は頭に入っている。
が、それ以外のゲームでも見る事の無かった生徒達の存在は未知数。
特に上級生に関しては登場機会が極端に少ないので此処で2回生のバステを味方に引き込んだのは運が良かったかも知れない。
「今日は挨拶だけしに来たの。それじゃ教室に戻るにゃの〜」
なんて自分勝手な奴なのだ。
爆弾を残して満足気に鼻歌を唄いながら彼女はBクラスの教室を後にする。
バステと入れ替わるようにしてスパルダが教室に入ってきた。
「諸君、おはよう。本日の授業を始める前にお前達に知らせる事がある」
騒がしかった教室は静まり生徒達は彼女の話に耳を傾ける姿勢を取る。
問題児や身勝手なBクラスの生徒達ですらスパルダの存在は畏敬のようで軍隊のように統率された動きで彼女に注目する。
否、大半は恐怖である。
「一ヶ月後に君達にとって非常に重要な期末試験が迫ってきた」
遂に来た。
ダーレス勇王学園で毎年、"春"と"夏"に行われる運命の日。
運命ーーその言葉通りにこの期末試験は学園に通う生徒達のこれからの未来の行く末を決める重要なイベントだ。
「試験の内容としてはこうだ」
まず各クラス同じランクの生徒同士で5人〜6人のチームを作る。
そして、学年全クラス・全チーム学園と勇王国が保有する広大なフィールド内で争いながらランダムに存在する拠点を多く獲得する。
また、この試験で一位となったチームは各学年で一位となったチーム同士で競う最終試験への参加資格を手に入れる事が出来る。
獲得した拠点の数に応じて個人のポイントが加算される。
試験中は個人が保有するポイントの変動はなく退学となる事はないが、試験結果発表時に保有ポイントが『0』となった場合は即刻"退学"となる。
「以上がおおまかな試験の内容だ」
内容を聞いた感じだと全て原作通りだ。
原作に於いて主人公オリオンは1回生期末試験にて他者の追随を許さない圧倒的な一位で勝ち上がり、最終試験への挑戦権を手に入れる。
そして、最終試験では新たに初登場するヒロイン・星の◾️◾️との戦いに勝利しかつて無残にも敗北した『獣族の英雄』と再戦するという流れだ。
たが、今回はシナリオ通りにはならないし…させない。
ニグラスが学園最強になるに当たって尤も重要なのはクラス変動だ。
恐らく細かな授業で勝ち続けてもAクラスへと昇格するには半年掛かる。
最も手っ取り早くAクラスへと至るならこの期末試験で圧倒的な圧勝劇で勝ち抜き最終試験でテェフネトに勝利する事だ。
そうなれば恐らくニグラスは一気にAクラストップへと登り詰めることが出来る…いや、或いは…
とにかく、ニグラスにとってこれから迫るこの試験は自身に降り掛かる死亡イベントの次に重要なものである。
「各自、5人〜6人のチームを来週までに決めるように」
朝のホームルームが終了した。
クラスメイト達は自分の席を離れて次々とチームを組み始めた。
ニグラスの元にはフェン・メゾルテ・セクメットが集まった。
が…
「あと一人か二人、足りませんわね」
「見た感じ誰も此方には来そうにないな」
「四人じゃだめなのかにゃ?」
人が集まらない一番の問題はニグラス・シュブーリナが居るからだろう。
恐らく自分が居なければメゾルテもフェンも、セクメットもまたこぞって人が集まる逸材だろう。
しかし、そんな逸材達の側には異物が常について回っている。
『ニグラス・シュブーリナ』は王国に住まう人間ならば誰もが知る最悪最低の糞ったれ貴族だ。
それは、ニグラスも否定しない。
このままでは試験を受ける資格が無くなってしまう。が、ニグラスと『ニグラス』に3人を手放すという選択肢は最初から存在しない。
しかし、どうしたものか…チラッと周囲を確認する。
殆どのクラスメイトが5人〜6人のチームを既に作って集まっていた。
まだ集まりきって居ない生徒達はメゾルテ達に話し掛けようとしている。
一人の勇気ある男子生徒がメゾルテの元に近付いてくる。
「ご機嫌麗しゅうメゾルテ第二王女様、この度は是非ーーこの僕と…」
「邪魔だ、消え失せろ」
メゾルテはその男を鬱陶しそうな表情で一蹴する。
「なぁ、セクメット!同じ獣族同士…「雑魚が話しかけるな、殺すぞ?」
んー、これが本来の狂猫の姿だよなぁ。
「あ、あの…フェンさん、僕とーー「話し掛けないで下さいまし。私はすでに心に決めている殿方がおりますの」
プロポーズかな?
嬉しいけど!?
困ったなぁ…
「御免あそばせ!」
また無謀にも犠牲者が彼女達に近付いて来た。
金髪ロールお嬢様…彼女はローズローザ・バラリエットだ。
大方、メゾルテをスカウトしに来たのだろう。
「ニグラス・シュブーリナ!貴方に、私の所有物となる権利を差し上げますわぁ!」
おーほっほ!とアニメでしか見たことが無いような笑い方をしながら彼女はそう言った。
いきなり何を言い出したのか?と理解出来ずに固まってしまう。
これは、、、スカウトされているのだろうか。
「遠慮しとく」
「ええ、それでいい…って、今なんと?」
「悪いけど断らせてもらうよ」
「どうしてですの!?今のままでは人数が足りなくてよ?」
「それはそうだけど…君のものになるつもりはないかな」
有り得ない…と言ったような表情と態度を見せるローズローザ。
普通に考えてあの口説き文句では誰一人として仲間にはならないだろう。
「私はバラリエット伯爵家の令嬢ですわよ?」
「うん…だから?」
「なっ…!そ、そうですわ!今から私達のチームと貴方のチームで模擬戦を致しませんか?そして、私が勝ったら貴方は私のチームになって貰いますわよ!もし、私が負けたら私が貴方達のチームに入りますわ!」
「うーん」
ニグラスは少し悩む。
提案としては悪くない提案だ。
彼女は希少なは花魔法の使い手で、敵の妨害などで非常に優秀だ。
本来のチーム戦に於いては是非とも欲しい人材だが…
「よし、分かった。模擬戦を受けるよ」
ーー
場所を移動して学園が保有する森林ステージにやってきた。
ニグラスチームとローズローザチームによる模擬戦。
審判としてスパルダが同行してくれた。
「試合のルールとして相手に重傷を負わせる事は禁止とする。また、お互いのチームリーダーが倒れた時点で試合終了とする。お互い、位置につけ」
試合開始の合図が鳴った。
ニグラスはたった一人。
ローズローザ達の前に出て来た。
「気でも狂ったのでしょうか…まぁいいです。其処は、もう私の魔法範囲内ですわよ!」
ローズローザが周囲の木々や草花を魔法で操り始めた。
草や木が生き物のように自由自在に動き出す。
草木の先端が槍へと変化してニグラスに向けて放たれた。
「さてと、力の差を教えてやるか。纏えーー黒焔」
黒き焔を纏う。
迫り来る草木の槍へ目掛けて黒焔剣を一振り。
同時ーー焔に触れた草木は一瞬で消し炭になる。
「はぁ!?なんですのそれはッ!?」
自身の魔法が訳も分からずに消し去られた事に酷く取り乱すローズローザ。
そんな彼女を気に留める事なくニグラスはそのまま彼女目掛けて一直線に突撃する。
「ッ!?千の蔓、荊棘の縄となりて捕縛せよ!ーー『荊棘牢縄』」
無数の荊棘の蔓がニグラス目掛けて伸びて身体を縛ろうとするが、漆黒の焔に灼かれてしまう。
ニグラスを止められないと悟った彼女は自身の扱える最高の魔法で迎え打つと決意した。
「白き薔薇、赤き薔薇、二つ合わさり一輪の薔薇と成す!ーー『紅白の薔薇盾」
「悪いがそれじゃコレは防げない。ーー『黒螺焔』」
灼熱の黒炎は彼女の積み上げてきた全てを否定するかのように一瞬にして散りにする。
彼女はその場に崩れ落ちる。
sideーーローズローザ
(次元が…違う)
そんなことは初めから分かっていた。
入学試験の日。
人類の救世主と呼ばれる星の勇者へと覚星したオリオンと対等に戦ってみせた。
その姿は、幼き頃から噂で伝え聞く彼の姿とは全く異なっていた。
同じクラスになってからニグラス・シュブーリナという存在に興味を持っていた。
彼は、入学してからもその力を至る所で発揮し続けた。
先日はかの『獣族の英雄』の一撃を受け止め退かせた。
その勇姿に心打たれた。
気付いた時には彼を自身の側に置いておきたい、そう思うようになった。
初めから断られる事は分かっていた。
それでも彼の勇姿を近くで見たいと願った自分は、無謀ながらも彼に模擬戦を挑んだ。
結果は惨敗。
でも、得たものもあった。
彼の力はただ才能によるものじゃない。
きっと誰もが計り知れない程の努力をして来たのだろう。
それが知れただけで負けた意味があった。
ーー
「俺の勝ちだな」
「ええ、完敗ですわね。約束通り私は貴方のチームに入りますわ」
「取り巻き達はいいのか?」
「ええ。彼女達は私の権力だけに興味があるどうしょうもない集まり。離れられて精々しましたわよ」
まさか、彼女達から離れる為にわざと模擬戦を仕掛けたのだろうか。
だとしたら上手く利用されてしまったな。
しかし、どうするか…
「ニグラス・シュブーリナ。貴方が考えている事は分かっていますわよ。私では力不足…そう言いたいのでしょう?」
そんな事はない…そう云おうとしたが言葉に詰まってしまう。
「私もそう思いますの。だから、お願いがありますわ…私にも強くなる方法を教えて欲しいです!」
「私は賛成だ」
「私も良いと思います。彼女はBクラスの中でもかなりの実力者ですし鍛えれば戦力にはなると思います」
「オレはボスに任せるにゃ」
三人も特に彼女をチームに引き入れる事に反対はしていない。
それにここまで真剣に頭を下げて頼み込んでくれた彼女の思いを無碍には出来ない。
だからニグラスは彼女をチームの一員として迎え入れる事にした。
尤も、彼女がスパルダの鬼教育に耐えれるかは分からないが…




