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第三十二話 『頂きは未だに』

「「……ッ!!」」


「にゃ〜♡」


呆れた。

嫌な予感はしたが…これはあまりにも想定外すぎる。

何度もあれだけ言い聞かせていたのにセクメットは教室に入るや否やニグラスの膝の上で甘え始めたのだ。

その状況を見たニグラスは絶句。

フェンとメゾルテは恐ろしい程の殺気を彼女に向けている。

修羅場である。


「雌猫、主から離れろ」

「あぁ?お前こそボスの何なんだにゃ」

「婚約者だが?」

「はっ、私はボスの子供を産む権利を与えられてるにゃ」

「ほーう?ニグラスきゅん?」

「いえ、言ってません!」


冤罪だ。

そんな事は一言も言っていない…


「泥棒猫、さっさと失せなさい」

「あぁ?お前もボスの女にゃか?」

「その通りです」


んー…気まずい。

この状況、側から見たら結構ヤバい気がするのは気の所為ではないだろう。

Bクラスの同級生達はニグラスを軽蔑した目で睨んでいる…どうしてこんな事に…

三人は未だに火花を散らして言い争っている。

喧嘩するほど仲が良いとよく言うが…これは当てはまっていない。

ニグラスは、頭を両手で抱えてため息を吐く。


ガラガラと教室の扉が開き、スパルダが教室に入ってきた。

騒がしかった教室は静まり返る。

クラスメイト達は彼女がこの場に現れただけでびくびくと肩を震わせている。

無理もない。

スパルダの授業は正にスパルタである。


「おはよう諸君。今日の授業も昨日と同じくひたすらに戦闘訓練だ。剣術、魔法、あらゆる術を使って存分に潰し合うがいい」


ダーレス勇王学園が世界最高峰だと言われる理由の一つ。

それは広大な修練場の存在だ。

インセンベルク勇王国の手厚い支援によって国が保有するあらゆる土地が与えられている。

山川地帯、森林地帯、砂漠地帯の環境を国と学園が協力して改良を重ね破壊や衝撃などに耐えられる施設に改造し提供されている。

これは超大国のインセンベルク勇王国だからこそ可能なの取り組みである。


今日の修練場は入り組んだ山や岩に囲まれた山岳地帯での戦闘訓練。

各々が得意な獲物を持ち制限時間までフィールド内を駆け回りポイントを競い合う過酷な訓練。

一人一人が敵同士だが、誰かと協力しても良しというルールが設けられている。

これは主に集団戦や混戦になった場合の対策として行われている授業だ。

スパルダの授業は決して易しいものではないがその全てに意味がある。

彼女の態度や言葉は酷く厳しく他者から見れば鬼畜だが、その根底には彼女なりの優しさや思いやりが感じられる。

厳しい訓練や授業に耐えられなくなり惜しくも退学になってしまう生徒は多いがこれを乗り越えた生徒達は着実に成長している。


山岳の頂上でスパルダは激しい戦闘訓練に身を投じる生徒達を眺めていた。

この一週間でBクラスの生徒達は見違える程に成長している。

初めこそこの過酷な戦闘訓練に根を上げて弱音を吐く者が多かったがこの戦闘訓練を通して自分たちの成長が肌で感じられると実感した者達が増え今ではもう誰もが文句を言わずに授業をこなしている。

彼女がこの学園で講師を引き受けた理由は、ニグラスを更に鍛える為だけだったが…今は必死に足掻く奴らに関心と興味を抱いている。


着実に成長している。

その中でもやはり…ニグラス達の成長速度は凄まじい。

特にニグラス・シュブーリナは群を抜いている。

剣術・魔法ともに"天才"という訳ではない。

むしろ、剣術に関してはメゾルテの方が"才能"は秀でている。

魔法に関しては…

ニグラス・シュブーリナの一番の強みは努力と探究心だろう。

シュブーリナ邸では毎晩のように朝日が昇るまで剣や魔法を放ち続ける姿を幾度となく見てきた。

鍛錬が終わると自分のダメだった所や改善すべきポイントを全てノートに纏めて夜な夜な振り返っている。

努力だけではは天才には勝てないとよく聞くが、ニグラスは違う。

奴は幾度となくその努力だけで数々の難敵を撃退し勝利をもぎ取ってきた。

遂にはあの星の勇者をも追い詰めるほどに…

そして、まだまだニグラス・シュブーリナは成長している。


学園に入学して少し弛むのではと心配していたが、その不安はすぐに消え去った。

講師としてBクラスに訪れた時に目が合った時、ニグラスの瞳には揺るぎない信念と覚悟が伝わってきた。


「全く…本当にお前は私を飽きさせない」



ーー


全身を黒とグレーのスポーツウェアに身を包んだニグラス達は身体強化を全身に漲らせて複雑な地形を軽々と移動していた。

全方向に魔力探知と気配探知を張り巡らせ、いつでも襲撃などに対応出来るように警戒しながら進んでいる。


Bクラスの殆どの生徒がニグラスやメゾルテ達を蹴落とそうとしている。

各々がチームを組み各派閥に分かれて競い合うようになったが、彼等の共通の敵としてニグラス達は常に狙われている。


「ボス!あの前方にある左右の岩陰に敵が潜伏している!」


セクメットが持ち前の嗅覚で敵の位置を指し示す。

今朝、教室で見ていた態度とは打って変わり狩人のような顔付きで訓練に臨む彼女はとても頼りになる。

特に、嗅覚や隠密に関しては同じ獣人族のフェンよりも優秀かも知れない。

やはり、彼女を此方に引き入れていて正解だった。


「了解。フェンとメゾルテは右に居る敵を頼む!俺とセクメットは左をやる!」

「「了解」」


それぞれに指示を出し行動を開始する。

潜伏に気付かれた生徒達は物陰から姿を現して迎撃体勢を取る。

しかし、長く過ごし信頼関係があるニグラス達とは違い彼等はまだ素早く対応する指示を出しそれを遂行するほどの信頼関係すらない。

ゆえに、対応が遅れる。

土魔法で地形を変形させ足元を崩した所にセクメットの追撃が襲い掛かる。


「フェン!」

「ええ!」


メゾルテとフェンもまた行動を開始する。

生徒が放ってきた魔法をフェンが同じように魔法で相殺する。

魔法を放った直後は僅か数秒の隙が出来る。

その隙を狙うようにしてメゾルテは素早く魔法使いの生徒達の間合いを詰めて斬撃を振るう。


「ーー焔昇」


焔を纏った斬撃が生徒達の身体を斬りつける。

身体が僅かに焦げて、生徒達はその場に力無く倒れる。


「ふぅ…」


ニグラスは、少し息を吐く。


戦闘終了の合図が鳴る。

約1時間の戦闘訓練が終了した。

クラスメイト全員は頂上に集まりスパルダによる授業の賛否と結果発表を聞く。


「今回の訓練もまたチーム・ニグラスがトップだ。ニグラス・シュブーリナはポイント『600』、フェンとメゾルテは『500』、セクメットは『400』。そのほかの生徒も順番にポイントを発表していく」


今回の授業もまたBクラストップを独走する事が出来た。

Aクラスに上がる為に必要なポイントは『1000』で、現在のニグラスのポイントは『600』でまだまだ昇格には足りない。

メゾルテとフェンもまたニグラスと一緒にAクラスを目指して頑張っている。

しかし、まだ足りない。

訓練で獲得できるポイントは少なくは無いが決して多いとも言えない。

やはり、大幅にポイントを獲得する方法があるとすれば…()()しかない。


授業が終わり制服に着替える為に更衣室に訪れる。

今回の授業で退学者が2人現れた。

いずれもニグラスの手によって退学に追い込まれた生徒だ。

気の毒だとは思うが同情はない。

自分の邪魔をする者は容赦なく叩き潰すと決めた。

今更誰に恨まれようとも気にしない。

学園の頂点を目指す者としてその程度の事を気にする暇はない。


主人公オリオン達もまた順調に実力を積み上げているようだ。

校舎内の魔法掲示板に貼り出される各クラスの順位と獲得ポイントは欠かさずにチェックしている。

オリオンのポイントは『4800』でAクラス第一位。

第二位はアルテミスでポイントは『3000』。

第三位はミリザ・シバッカルでポイントは『2500』。

やはり、主人公オリオンは群を抜いている。

原作よりも成長速度が上がっている。

知らない所で改変が始まっているのかも知れない。


まぁ、其処はどうでもいい。

今、学園の話題は星の勇者オリオンで持ちきりだ。

それは気に入らない。

叩き潰したい…蹴落としてやりたい。

そんな感情が抑えきれない。


「それにしてもボスは凄いのにゃ!」


放課後。

帰路に着く道中でセクメットがそう呟いた。


「その通り。ニグラスきゅんは凄い男さ、流石は私が惚れた男だ」

「同感ですの。ご主人様こそ学園の頂点に相応しいですわ」


相変わらず凄まじい評価である。

その言葉に嘘偽りは無く嬉しいが、まだ素直にそれを喜ぶ事はしない。

まだ何も結果を残せていない。


「そういえばボス達は一緒の家に居るにゃ?」

「ああ、そうだとも」

「ずるいにゃ。私もボスの"女"だし一緒に住む権利が与えられても良いと思うにゃ」

「雌猫を飼う程の余裕はありませんですわ」

「あぁ?誰が雌猫にゃ?」


相変わらずだなぁ…フェンとセクメットは毎日のように言い争っている。

両者とも本気でお互いを嫌っている訳ではないらしく、獣人族同士のじゃれあいなのだろう。

それ以前に、あの屋敷に更に女性が増えるのはなぁ…男一人だと色々と気を遣う。


「ぁ…」


そう言えばとニグラスは思い出す。

屋敷に初めて入居した際に三人の部屋以外にあと一つ部屋に荷物が置かれていた。

あれは誰の荷物なのだろうか…うーん、なんかすごく寒気がした。

この件に関しては深く考えない方がいい気がする。


「ボスはどう思うにゃ?」

「うーん、まぁにぎやかなのは良いことだよね」

「「はぁ…」」


メゾルテとフェンにため息を吐かれてしまった。

因みに、自身はアリだと思っている。

下心だけで言っている訳ではなく、色々とその方が都合が良いからだ。

彼女はきっとこれからもニグラスチームとして腐れ縁になる気がする。

ならいっその事、メンバー同士の信頼度や親密度をあげて置いた方が重要な場面で素早く行動できるからだ。


「それじゃ考えておいて欲しいにゃ」

「またなー」


ニグラス達と別れて一人寮へと戻ろうとするセクメットの背後に近付く人影。


「誰っーーッ!?」


セクメットが何者かに襲われたのと同時刻。




「やぁ、ニグラスくん」

「んー…」


3人が住むインセンベルク別邸に新たな同居人がやって来た。

それは、ニグラスがこの世で尤も恐れ尊敬する『剣聖』スパルダ・カームブルだ。

目を見開き、にこにこと満面の笑みを浮かべてニグラスを凝視する彼女にニグラスは肩を震わせる。

地獄のようなスパルタ教育から解放されてのびのびと過ごせると思った矢先に訪れた災厄。

彼女の眼はこう言っていた。


ーー絶対に逃さないぞ、と。


ーー


そして翌朝。


深夜までスパルダの鬼指導を受けたニグラスはフラフラしながら1回生のフロアを歩いていた。


「アンタがニグラス・シュブーリナ?」


ある一人の女生徒がニグラスの前に立ち塞がった。

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