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第二十八話 『現実は恐ろしく残酷』

ダーレス勇王学園の施設内に存在する巨大な訓練場。

そんな広過ぎるほどのステージにBクラスの生徒達が集められた。

顔も名前も知らないクラスメイト達は初めこそ酷く動揺していたが、今は冷静さを取り戻し何処か殺伐としている。

流石は、実力者が集められたBクラスと言った所だ。


「始める前に…ニグラス・シュブーリナ、メゾルテ・イォマ・インセンベルク、フェン以下三名からポイントを獲得した場合は本来得るポイントの2倍を与える」


その発言にクラスメイト達の視線が一気に此方に注目する。

絶対に何か企んでると思っていたが…やはり、やりやがった。

他の2人もスパルダが何か良からぬ事を考えているのを知っていたのか溜め息を吐いている。


「尚、お前達3人は負けたら即『退学』だ」


ギロッとニグラスを睨むスパルダ。

「絶対に手加減するなよ?」と言っているのが伝わってくる。

が、ニグラスは彼女に視線で答えを返す。

手加減するつもりなんて全くない。

このクラスには主人公は居ない、メインシナリオが壊れる事もない。

つまり、躊躇する必要がない。

ニヤリ、とニグラスはほくそ笑む。


魔力を纏い武器を手に取り。

開始の合図と共にクラスメイトの殆どがニグラス達に向かって一斉に襲い掛かってくる。

3人は顔を見合わせ相槌を打ち、彼等を迎え撃つ。


激しい戦闘。

20を超えるクラスメイトを相手にニグラス達は苦戦する様子もなく応戦する。

とは言ってもこれはチーム戦ではなくサバイバル戦。

全員が敵同士。

ニグラス達を倒す事に真剣で油断している者達には容赦なく他の者達が攻撃を仕掛ける。

魔法や剣撃が交差して、入り乱れる。


そして、数分後。


「そこまでだ」


スパルダが試合終了の合図を出した。

ニグラス達を除く全員がドッと地面に膝をつく。

全員が、ボロボロで満身創痍。

もはや立ち上がる気力すらなく倒れそうな者までいる。

そんな中でニグラス・メゾルテ・フェンの3人は全くの無傷の状態であった。

他にも三、四人も多少制服を汚しているが目立った傷もなくピンピンした状態で立っている。

いずれも、ニグラス達と交戦する事をしなかった人物達。


獣人族の女子生徒。

背が高くフランケンシュタインみたいな男子生徒。

醜く太った男子生徒。

金髪ロールお嬢様風の女子生徒。


一人一人が他のクラスメイトとは一線を画す魔力と実力を持っている。

獣人族の女、セクメットを除く他の3人は原作において名前しか出て来ない人物達だった気がする。

金髪ロールお嬢様はサブイベントでメインヒロインのアルテミスに絡んで返り討ちに遭う印象しかない。

他の二人は…まぁ、どうでもいいか。


「ポイントが『0』を下回った生徒が2人現れた。ウォーリー・バーンとシーマ・ミハルトの2名は今日中に学園を去るように。お前達の実家にも退学の通達をする」

「そっ、そんな!」

「い、いやだ!」


"退学"を言い渡された2人の生徒は阿鼻叫喚の声を上げる。

そんな彼等をスパルダは酷く冷酷な目で睨みつける。

学園のルールは決して覆る事はない。

例えそれが王族だとしても。


「なら、一つチャンスをやろう」


彼女は、こんな状況でも自分の自由に面白いように物事を突き動かす。


「現状…Bクラストップの得点を誇るニグラス・シュブーリナと二対一で戦い傷を付けたら退学は取り消してやろう。だが、負けたらその時点でお前達は退学してもらう」


相変わらず、弟子の扱いが酷い師匠だ。

その提案を聞いた2人は更に絶望の表情に染まる。

それも無理はない。

何故なら先程、彼等は無惨にもニグラスに勝負を挑み返り討ちに遭ったのだか?

それでも彼等はお互いに顔を見合わせて、何かを決心した表情で立ち上がる。


「やってる…っ、やってやるぞッ!」

「あ、ああ…!」


剣を抜き魔力を纏い武器を構える。

相手を射殺すような鋭い視線を此方に向ける。

ニグラスもまたそれに応えるように武器を構える。

2人の魔力はこの場にいるクラスメイト達と比べればかなり劣る。

自分よりも弱いが決して手は抜かない。

そんな事をしたらスパルダに殺されてしまうし、相手にも失礼だ。


「さぁ、やってみせろ」

「「うぉぉぉお!」」


2人が一斉に飛び掛かってくる。

ほぼ同時に放たれた剣撃を受け止め、弾き返す。

彼等の剣筋からは焦燥が分かり易いほど伝わってくる。

そう言う剣士ほど思考が単調になり相手にしやすい。

これもスパルダの教えの通りだ。


「くっ!?」

「ぎゃあ!?」


ニグラスの反撃。

凄まじい速度で放たれた斬撃が2人の身体を見事に斬り付ける。


「終わりだな」


分かっていた。つまらない。

彼女の表情からそんな言葉が伝わってくる。

絶望に顔を歪ませる2人を尻目にスパルダは此方に向き直し言葉を続ける。


「今日の講座は終了だ。後は自由に解散しろ。寮暮らしの生徒は門限を守れ、それ以外の生徒は速やかに帰宅するように」


そう言い残しスパルダは訓練場を後にする。

それからはお通夜状態だった。

この試験で殆どの生徒がかなりのポイントを失った。

また学園初日で退学者が出た事で一気に緊張感が漂っていた。

誰一人として言葉を発する事なく訓練場を去っていく。


「それでは私も帰ろうか」

「ええ、そうですね」


こんな状況でも2人は変わらない。

メゾルテは2年生。

()()()去年から経験していた事だから納得できる。

フェンはいつも冷静だしこんな事で動揺もしないし焦りもしない、か。


「うん、帰ろうか」


変わらない。

今はただ、それが心地良い。




ーー


怒涛の1日が終わった。


ニグラス達は、メゾルテが用意してくれた屋敷に戻ってきた。

中はとてつもなく広くリビングだけで10人以上は生活できる程だ。

天井に吊り下がったランタン、魔力で認識し自動で開く扉、自動で湧き上がる風呂など…シュブーリナ邸でも自動で開く扉は存在しなかった。

流石は王族の娘…

学園の寮もそれなりに高水準の生活施設が整えられていたがレベルが違う。


だって、扉を開けたらメイドさんや執事さんが出迎えてくれるのだもの。


「学園の寮暮らしも悪くないが、やはり好きな人と共に暮らすことほど幸せな事はないね」


優雅にそして上品にカップに注がれた紅茶を啜りながらメゾルテは感傷に浸る。

ちょこんと側に座っているニグラスを愛おしく頬を赤らめて見つめている。


「メゾルテ様。その気持ち…よく分かりますわ」


と、フェンが共感する。

最近…彼女もニグラスへの好意を隠さなくなった気がするのは気の所為だろうか。

性格は勇ましく男らしいが意外にも恋に盲目なヒロイン・メゾルテと普段から恋話をしているとメイド達に聞いたことがあった。

愛情表現をする事を隠さないメゾルテに影響されたのか…まぁ、嬉しいし悪い気はしない。


メゾルテ・イォマ・インセンベルクは【スター・ウォーリアーズ】に於いて主人公オリオンに恋をする筈だった。

今、ニグラスに向けている好意がオリオンに向けられていたと思うと()()()()()()()()

これは『ニグラス』の感情なのか、或いは俺自身なのか。

おそらく両者だ。

メゾルテがいる日常こそがニグラス・シュブーリナにとっての当たり前…彼女の側にいるのは自分が相応しいと思い始めている。

それは、フェンもスパルダもセイラムも同じだ。

彼女達が居ない生活など考えられない。


ただ邪神討伐に於いてメゾルテは欠かせない存在。

いずれ袂を分つ時が来るかもしれない…その時、自分はどうしたいのだろうか。

今は先の事を考えるのは後にしよう…


学園は明日からが本番だ。

現在のニグラスのポイントは『350』、これはAクラスへと昇格するには足りない。

ポイントが自分よりも高ければ高い相手に勝つと本来得られる筈の数倍のポイントが手に入る仕組みになっている。

Aクラスを除き、学年トップのポイントを手にしているニグラスに勝てばAクラス昇格に王手と言える。

だから、ニグラスを狙う者が増えるだろう。


「楽しみだな…」


どんな相手が来ようと向かってくる相手は徹底的に叩き潰す。


ああ、わかってるよ『ニグラス』。


例えそれが…主人公だとしてもな。

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