第十八話 『そして…』
次の更新は金曜日です。
時は流れ半年後。
コツ、コツ、と街中に足音が二つ響き渡る。
廃れた街。
草木は枯れ、川も涸れ、動物は骨が浮き出て飢えながら歩いている。
そんな渇き切った街中の景色とは似合わない風貌の女が街を堂々と闊歩する。
紅い髪を靡かせながら、周りに見向きもせずにある場所を目指してひたすらに歩く。
もう一人もまた、この街にはとても似合わない美しい女だった。
メイド服に身を包んだ獣人の女。
こんなにも美しい女達がこの街を歩けば最後、無事には帰れない。
何故なら此処は、無法者達が集まる最低最悪の楽園。
国やギルドを追われた犯罪者や傭兵達が行き場を失い最後に辿り着く終着駅。
法律も人権も通用しない、正真正銘の無法地帯。
この街に集まる誰も彼もが皆、常識も立場も通用しない野蛮人。
強盗。
強姦。
詐欺。
人身売買、臓器売買。
薬物密輸。
殺人、放火。
ありとあらゆる犯罪が日常的に行われる。
事情を知らずにこの街に訪れた者は、彼等によって"洗礼"を受ける。
男は、激しい暴力の末に死ぬか、或いは身包みを剥がされて逃げ帰る。
女は、尊厳を奪われ、逃げ出す事も敵わず、男達に監禁され凌辱される。
誰一人、例外なく。
しかし、そんな街は最近…その犯罪率が極端に減った。
事実。
こんな、無防備な女達が堂々と街の中央を歩いているというのに誰一人として近づこうとしない。
むしろ、何処か2人を恐れ怯えているような表情を見せ身体を震わせている。
(おい、『剣聖』だ…)
(『狂狼』もいるぞ…)
(手ぇ出すなよ…、二人ともあの方の女だ)
(それに、俺達じゃ敵わねぇよ)
(もう一人は、誰だ?)
男達は既に理解していた。
彼女達はこの都市の人間が束になっても敵わない怪物の領域に達した戦士達だと。
か弱い女だと。
たかが女だと。
そう高を括って為す術なく返り討ちに遭ってしまった。
武器を手に持ち、いつものように凌辱しようと近付いた者達は腕や脚を斬り飛ばされ、酷いものは下半身のブツを切断された。
そんな恐ろしい怪物達の手綱を握り側に付ける狂った者がいる。
その者はかつて、この都市の頂点に近かった五人組の犯罪者傭兵集団をたった数十秒で制圧した。
半年前に再びこの都市にやってきてこう宣言した。
『自分がこの街の王になる』と。
更なる無法地帯となっていたこの街で名を馳せる悪人達に次々と喧嘩を売り、その悉くを返り討ちにしてきた。
そして、遂に…
街を歩くスパルダ達はようやく目的地に辿り着いた。
「ふっ、見事と言おうか」
目の前に映った景色を眺めてスパルダは思わずそう呟いた。
広場全体に転がる大きな体躯の男達が廃棄物の様に積み上げられ無数の巨大な山が築かれていた。
身体付きや格好から誰も彼もが戦士として十分な経験が積み上げられていた猛者。
その中心に築かれた巨大な男達の山、その頂上には一人の少年が居た。
ボロボロに破れた衣服。
そこから鍛え抜かれ縛られた肉体、肉体に刻まれた歴戦の古傷。
極限にまで洗練された魔力の鎧を夕日に煌めかせた少年はスパルダとフェンの存在に気付く。
彼女達を映すその瞳は白く威風堂々と煌めき、また深く呑み込むような暁闇のような瞳が3人を覗く。
「来ていたんですね3人とも」
見知った顔を発見して少年の緊張と臨戦状態が解けて、柔らかい笑顔が向けられる。
それでも尚、身体に纏う魔力に一切の揺らぎがなく維持され続けている。
「ニグラス。私とセイラムが与えた試練は合格だ」
「ありがとうございます!ふぅー、疲れたぁ…」
ニグラスは地べたに座り込む。
「お疲れ様ですわご主人様。こちらをどうぞ」
疲れ切った様子のニグラスにおにぎりとお水、そして汗や汚れを拭く為のタオルを手渡す。
ニグラスはお礼を言ってタオルで汚れを拭き取り、おにぎりを頬張る。
「オタクくん、遂に明日だね」
「はい…」
明日は遂に、インセンベルク勇王学園の入学試験が行われる日。
その前に与えられたのが、この野蛮な楽園と呼ばれるサベージリゾートの名だたる犯罪者達を全員倒す事だった。
「緊張しているのか?」
「そりゃそうですよ…僕の人生が懸かってますし。それに、これまで支えてきてくれた人達の為にも絶対に合格しないと行けないんですから」
そうだ。
明日は何としてでも入学試験を合格しなければならない。
これまで、こんな自分に向き合って最後まで付き合ってくれたスパルダやセイラム、フェンにカトリーナ達…彼女達に報いなければならない。
「お前なら余裕だろ」
「まぁ、全力で頑張ります」
「あーしは当日、応援に行けないけど頑張ってね!」
「その、本当に良いのですが?私も学園に共にする事になるなんて」
「構わないさ、貴族生徒に与えられる権利だしね」
「そろそろ帰るぞ」
スパルダ、セイラム、フェンは馬車に乗りニグラスは馬車に全速力で並走する。
こんな時でも師匠のスパルタ教育は終わらない。
ーー
ようやくシュブーリナ邸に戻ってきた。
既に太陽は沈み、夕暮れも過ぎ去り、夜になっていた。
カトリーナや使用人達が用意した夕食を食べ終え、明日に備えて早く寝る事にする。
大きなベッドに寝転び、最後にステータスを確認する。
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ニグラス・シュブーリナ (14)
レベル:40
種族:ーー
耐久:C(404)→C(590)
筋力:D(380)→C(505)
敏捷:D(390)→C(580)
魔力:C(403)→B(608)
固有スキル:淫乱、努力LV 5、剣術LV 5(上級)、魔力操作LV5、身体強化LV5、気配感知LV4、疾駆LV4→縮地 、根性LV5→不動、威圧LV4、夜目LV2、気配遮断LV2、
魔法:火魔法LV 5・水魔法LV2・土魔法LV5・風魔法LV4・闇魔法LV5・呪魔法LV 4
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2年前と比べると度肝を抜かれる程の成長だ。
ていうか強くなりすぎて少し心配だ。
学園編の平均レベルを2倍、3倍は超えている。
でもこの基準はあくまで原作知識だけに過ぎない…この世界が必ずしも原作通りとは言えない。
スパルダにも何度も言われている通り、油断と慢心は命取りだ。
格上が格下の相手にやられる一番の原因は、本人の油断と慢心。
だから、ニグラスはたとえどんな相手でも決して油断はしなかった。
常に相手が自分よりも強いという想定をして戦闘に臨んでいる。
それは明日もきっと変わる事はないだろう。
「問題は…あのシーンだよなぁ」
入学試験では田舎から訪れた平民の主人公に貴族であるニグラスが絡んで来た所から物語が始まる。
そして、初めは主人公相手に優勢に立っていたニグラスのある発言によって主人公が怒りによって星の勇者としての素質が覚醒し、形成逆転。
ニグラスは完膚なきまでにボコボコにされる。
というのが、流れだ。
しかし、出来ればあまり主人公やその周りには関わりたくない。
だが、仮に主人公の相手がニグラス以外の別の誰かになったとしたら星の勇者に覚醒する保証はない。
「あー、後は…」
もう一つ問題があった。
メゾルテ…彼女との婚約の話はいまだに継続している。
定期的にシュブーリナ邸に訪れては剣術と魔法を学び、ニグラスを誘惑する。
15歳とは思えない程の大人な雰囲気と口説き文句に危うく堕とされそうになる時もある。
彼女もどうにかしないと…主人公とメゾルテの出会いも入学試験から始まる。
今のメゾルテがこれから主人公に惚れるという展開が訪れるとは思えない、が。
どうせ、彼女は星の剣士として主人公パーティーに加入するし大丈夫か。
ふと、時計を見る。
「おっと、もうこんな時間か」
明日は、朝早い。
頑張ろう。
例えーー主人公さえ踏み台にしてでも合格してみせる。
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