第十話 『実戦は対人戦』
「なぁ、おいクソガキ…俺達に喧嘩売るとか正気かぁ?」
人通りが少ない街中。
4人の野蛮な男達が1人の少年を囲んでいる。
全員が剣や斧などを帯刀し、少年を睨んでいる。
一方の少年は、このピンチな状況に顔を歪めていた。
(一体、どうしてこうなった!)
時は少し遡る。
ーー
「ニグラスくん。私とデートしよう」
突然。
スパルダ師匠がそんな事を言い出した。
目や表情が死んでいる。
それだけで、その言葉に裏があると分かる。
だからーー
「やです」
迷わず即答した。
この表情をしている時の彼女は大抵、良からぬことを企んでいる時だ。
だから、断ってみる。
「デートをしようニグラスくん」
復唱した。
さっきよりも冷たく恐ろしい笑顔。
あ、これ断ったら殺される。
楽しい楽しいでーと(地獄)の始まりかぁ。
「ちなみに断ったら…」
「殺す」
うん。
凄く怖い。
こんな怖いデートの誘い、あたし初めて♡
「わ、分かりました」
「よし、それでいいよニグラスくん。それじゃあ馬車に乗ろうか」
いつの間に馬車が…
しかも、すごく豪華…
馬車の扉が開き、中からフェンが出て来た。
可愛らしいケモ耳がぴょこんと。
「れっつ、ごーとぅ、へる」
「「?」」
ニグラスは諦めて馬車に乗ることにした。
手渡された装飾の施されたロングソードを腰に携え、銀の防具を身体に着ける。
今思えば、木剣ではなく真剣に触れたのは初めてかも知れない。
馬車に揺られながら、これから何をするのだろうかと怯えながら過ごす。
「そう緊張するな。今から行く場所が少し野蛮な所だから念の為に武器を持たせただけだ」
「はは、そうなんですか」
馬車の中から外を眺める。
シュブーリナ領の近くにあった美しい草原とは打って変わり、枯れた雑草や乾燥した平原が広がっている。
この道や景色に憶えがある。
いや、忘れる筈もない。
恐らくこれから向かうであろう街も予想がついた。
「それにしては師匠も物騒な剣を持ってますね」
「なんだ?ニグラスの分際で私を疑ってるのか?」
「あ、いえ…」
うん。
やっぱり、どんな危険な街とかよりもこの人の方が恐ろしい。
フェンは心地良さそうに寝ちゃってるし…起きてよ!
この鬼の様な女性と二人きりなんて心臓が持たないよ!
「おい。失礼なことを考えているねニグラスくん」
「いやいや、そんな事はありませんよ。は、ははは」
この人はエスパーか何かか?
いつも俺の心を読んでくる。
この人の前で失礼なことを考えるのはやめよう。
「さ、着いたぞ」
馬車に揺られること数時間。
ようやく目的地に辿り着いた。
やっぱりそうか。
街全体が鬱蒼とした雰囲気を漂わせた場所。
此処は【スター・ウォーリアーズ】に登場する場所だ。
学園編の後、冒険編にて最初に訪れる始まりの街…
荒くれ者や犯罪者、冒険者に傭兵…あらゆる訳ありの人間達が多く暮らす別名『野蛮な楽園』サベージリゾート。
もう、嫌な予感しかしないよ…
普通デートをするにはこんな街に訪れない。
此処は無法地帯…犯罪などが日常的に行われる最悪の街だよ…
街の入り口を見張る2人の門番。
タバコを蒸し、地面に胡座をかいて座っている。
俺達が門を通ろうとしても引き止めるどころか、見ようともしない。
それだけでこの街の無法さが分かる。
普通はこうじゃない。
もっとめんどくさいやり取りがある。
身分証の証明や街や国に来た目的を根掘り葉掘り聞かれる。
犯罪歴などが有れば入国が拒否される時もある。
大きい国によって規制はさらに厳しくなる。
「こんな街でデートですか?」
「ああ、素敵だろ」
「頑張って下さいまし」
素敵だと?
頭おかしいよこの人。
後、フェン?
頑張れってなに?
最近、俺の扱いが適当なのは気のせいだろうか?
そう思いながらスパルダの後に続いて街を闊歩する。
しっかし、ゲームで見るよりも街は酷い有様だ。
勇王国や周辺国家の管理下や支配下に置かれていない街は例外なくこんな風に変貌する。
国を追われた人間達が最期に行き着く終着駅。
あぁ、早く帰りたい。
街を歩いていると、多くの視線が突き刺さる。
そのどれもがニグラスに向けられたものではなく、その両隣を歩くスパルダとフェンの躯や顔に向けられたものだ。
下卑た笑み。
下卑た言葉。
嫌でも耳に目に入る。
非常に不愉快、そう苛立った。
「知ってるかニグラス。この街に最近、様々な国で犯罪を犯した傭兵4人が根付いたらしいぞ。強盗・臓器売買・強姦…その被害は計り知れない。救いようのない屑だ」
「そ、そうですね」
「ほら、あそこをみてみろ」
指を刺された方に目を向ける。
其処には、イカつい風貌をした四人の男女が居た。
何か怪しい葉っぱや煙草をふかしている。
身に付けている衣服は薄汚れ、腰に携えている剣や斧には黒く腐った血などがこびり付いている。
見るからにヤバい奴らだ。
ニグラスは踵を返してその場を去ろうとする。
が、ガシっとスパルダに首根っこを掴まれる。
「さぁニグラス。楽しいデートの始まりさ…その内容は犯罪者との遊戯だ」
スパルダが地面に転がっていた石を手に持つ。
そして、その石を先頭に居た禿頭に向けて投げつける。
「何やって…!」
ゴンッ。
と言う鈍い音が響き渡る。
石が直撃した禿頭の大男が此方を振り返る。
「誰だ?」
「師匠、ほんと何し…ちょっ!?はぁあ!?スパルダぁぁぁあ!!?フェェェェン!!?」
慌ててスパルダの方を向く。
が、そこに彼女の姿はなかった。
アイツっ!?
やりやがったぁぁぁあ!!
「おい小僧…てめぇがやったのか?」
「い、いや違います」
「嘘つけコラぁ!ちっと面ぁかせや」
終わった。
確実に終わった。
殺されるやつだ。
男女に囲まれて壁際に追い込まれる。
そんな様子を2人は酒場から覗いていた。
「まったく…貴女という人は、やり方が強引すぎると思いますの」
「奴にはあれ位がちょうどいい。それにな、ニグラスなら余裕だ。これはアイツへのテストさ。ニグラス…この街の王者になってみせろ」
酒場の席に座る2人の側に、数人の男達が近寄ってくる。
スパルダとフェンを見て下卑た笑みを浮かべている。
「やれやれ」
スパルダは気怠そうにそう呟いた。
ーー
『野蛮な狂犬』。
男3人、女1人。
計4人で構成された犯罪集団。
各国で様々な犯罪行為に手を染め、彼等を捕らえようとした騎士や兵士達の悉くを返り討ちにした猛者達。
そんな彼等は勇王国でも例外なく犯罪行為を行なっていた。
が、ある日ーー『剣聖』に目をつけられた。
自分達の力の全てが届かない怪物を前に、四人は情けなく逃げ出した。
そして、この荒くれ者の集まる街に辿り着いた。
「なぁ、おいクソガキ…俺達に喧嘩売るとか正気かぁ?」
人通りが少ない街中。
4人の野蛮な狂犬のメンバーが1人の少年を囲んでいる。
全員が剣や斧などを帯刀し、ニグラスを睨んでいる。
さてと、これどうするの?
師匠達が助けに来てくれる様子はない。
これが、言っていた実戦経験の訓練?
冗談じゃないよ…
今だから分かる。
全員、恐ろしい猛者だ。
纏う魔力の質が物語っている。
「いやー、気の迷いというか…」
「貴族の餓鬼が…舐めやがって、どう殺してやろうか」
ヒィ!?
これは、あかんやつ。
どう、切り抜ける?
もはや、闘いは避けられない。
逃げようとしたら一瞬で殺される。
考えろ…其処でふと、思い出す。
『ニグラス、よく聞け。剣士としての誇りと矜持を捨てずに貫き通し戦い抜くことは立派だ。が、私から言わせて貰えば愚かだ。そう言う奴はすぐに死ぬ事になる。とくに、人同士の殺し合いの最中ではな。ニグラス…自分よりも強いと感じた相手に勝つにはどうしたらいいと思う?』
『うーん、分かりません』
『ふっ、教えてやろう。勝つ為に手段は選ぶな…凡人は天才に敵わない。ならば、天才や強者が絶対に選ばない方法を自ら進んでやってみろ。其処に勝機がある。例えーー卑怯と呼ばれても』
「勝てばいい…か」
ふっ、スパルダの教えはいつだって正しい。
「あぁ?何言ってやがる」
「あ!あんな所に…『剣聖』が!」
悪いな師匠。
アンタの名前を利用させて貰うぜ!
『剣聖』はこの世界で最も有名だ。
その名を聞き恐怖する者。
興奮する者。
求愛する者。
様々だ。
彼らもまた例外ではない。
犯罪者にとって『剣聖』の名前は畏敬の象徴。
故に、振り向く。
故に…
「隙あり」
身体強化・改。
身体に爆発的に魔力を流し込み、鞘から剣を抜き放つ。
そして、禿頭の大男ハーゲンの首目掛けて一閃。
走る銀色がハーゲンの首を空高く刎ね飛ばす。
「まずは…一」
初めて人を殺した…気持ち悪い。
だが、立ち止まらない。
3人が気付き、武器を構え魔力を纏わせようとする。
させない。
最速で、女の懐に潜り込む。
地面の砂を掬い上げ、女の眼を目掛けて投げつける。
視界を奪われて怯んだ隙に、女の胸に短剣を突き刺す。
ニ。
また、殺した。
だと言うのに…罪悪感はない。
犯罪者だから?
救いようのない屑だから?
それも、ある。
だが、一番の理由は俺がニグラス・シュブーリナだからだ。
俺は今ーー愉しんでいる。
「ガルバー!」
「おう!」
長髪の男が名を叫ぶ。
それに応えるように太った男が斧を振り上げる。
息のあった連携。
だが、遅い。
長髪の男のガラ空きになった股間に蹴りを放つ。
ぐしゃりと潰れる感触。
「かっは!?」
白目を剥き倒れそうになった長髪の男の身体を持ち上げて、ガルバーに投げつける。
「うぉっ!」
その勢いを抑えきれず、ガルバーはその場に倒れる。
すぐに自分の顔に覆い被さった長髪男を退かそうとする。
僅かにズレた隙間から、ガルバーは見えた。
少年が振るった剣が長髪男とガルバーを突き刺している姿を。
口から血反吐を吐き、絶命する。
「プハッ!はぁっ、はあっ…」
勝った。
殺し合いは経ったの数十秒。
だと言うのに、どっと疲れた。
そして、冷静になりやってしまった…と自覚する。
殺してしまったら、まずかったのでは?
「見事だニグラス」
と、いつの間にかスパルダがニグラスの前に立っていた。
「殺してしまった事が心配か?安心しろ、奴らは討伐依頼が出ている犯罪者達だ」
「っ…」
「初めて人を殺した感覚は?」
その質問にニグラスは彼女を睨む。
「最悪ですよ。そして自分が腹立たしい」
「…」
殺しを…愉しんだいた自分が居た。
ニグラスという男の本質なのだろう。
ほんと、最悪な気分だよ。
その後。
例の四人の死体は冒険者ギルドに引き渡された。
それと同時に四人と徒党を組んでいた30人以上の犯罪者達も同時に逮捕または討伐確認がされた。
そのどれもがニグラス・シュブーリナの手柄になった事は本人が知る由もなかった。
ーー
その一報が記された勇王国の報告書に目を通すある人物。
「これは事実なのか?」
「は!確かに『剣聖』からの証言にございます」
「ああ、確か『剣聖』があのクズに剣術を教えていると聞いていたが…堕ちたものだな」
新たな出会いが、ニグラスを待ち構えている。
それも本人にとって最悪な出会いとなるだろう。
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