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中年聖騎士は、気付かぬうちに武を極める  作者: 陽山純樹
第二章

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用心深さ

 地竜討伐後、エリアスは淡々と事後処理を行うテルヴァを眺めつつ、近づいてきたフレンへと声を掛けた。


「怪我はないか?」

「ありません」

「それとかく乱の魔法、以前と比べて少し規模がでかくなっていなかったか?」

「それはもちろん、色々と練習をしましたからね」

「……どこで?」

「自分の部屋で」


 エリアスは砦の小さな部屋で魔法の練習している姿を思い浮かべる。


「目とか潰れなかったか?」

「目がチカチカして立ちくらみを起こしたことは何度かありましたね」

「……ほどほどにしておけよ」

「なんというか、ずいぶんと和やかな会話ねえ」


 と、近くにいたジェミーが声を上げた。


「地竜と戦っていた人とは思えないわね」

「それは……褒められているのか貶されているのか」

「私としては呆れているのよ」


 苦笑しつつジェミーは語る。


「まさかあそこまで圧倒するとはねえ……」

「圧倒かどうかは微妙だな。そもそも、地竜を倒せと言われたら話がどう転ぶかわかっていなかった」

「私の目からは地竜を翻弄していたように見えたけれど、違うのかしら?」

「最初に攻撃を当てた時点でその後の展開はある程度操作できたけど、その最初を決めるのが難しいという話だ」


 ジェミーは視線で解説を要求。その意図を感じ取ったエリアスは、話を続けることにした。


「まず、地竜を野放しにしていた場合は、確実に被害が出ていた。それを防ぐために聖騎士テルヴァは結界を構成し、動きを制限した」

「……そういえばあなたはもし地竜と戦う場合、拘束するような方向に持って行くことを望んでいたわね。似たようなことかしら?」

「そうだな。さすがに動きを完全に止めるというのは不可能であったため、聖騎士テルヴァは動きを制限する選択をした。しかし、地竜は結界を破壊できるだけの力を持っている」


 エリアスの言葉にジェミーは頷く。戦いの中で結界を壊した事実がある以上、ただ結界で動きを抑制しただけでは、いずれ大暴れしていたのは間違いない。


「よって次は、いかにして地竜に結界を破壊させないようにするか……あるいは、破壊されても地竜をあの場に留めておくにはどうすればいいか、という戦略が必要だった。最初、魔法による総攻撃で地竜は負傷したが、さほど効いてはいない雰囲気だった」

「そうね、私の目から見ても魔法の一斉掃射を受けても健在だった」

「だから地竜は結界を破壊し反撃しようとした……その狙いは魔法を放っていた人間達だったから、煩わしいと思ったんだろう。ここで手をこまねいていては、甚大な被害が出る。よって俺は動いた。地竜がやってみせたように威嚇のために魔力を発し、俺に注目させた」

「それで地竜の動きは少しだけ止まったわね」

「ああ、こちらの目論見は成功……もちろんこれも賭けではあった。俺の動きを無視して攻撃しようとする可能性もあったが、地竜は留まり俺に注目することを選択した」


 そこまで語ると、エリアスは一度作業を行う聖騎士テルヴァへ目を移す。


「地竜からすると、聖騎士テルヴァを始め人間が自身を囲んでいる、ということについてはわかっていたはずだ。その中で一番近しい存在に注意を払っている……そう俺は推測し、聖騎士テルヴァよりも前に出たら、警戒するだろうと判断し、動いた」

「その目論見は成功したと……しかし、地竜としては人間一人にそこまで警戒するというのは、意外ね」

「これは推測でしかないが、例えば人間との戦い……あるいは地底の中で魔物同士戦った際に、地竜からしたら小さな存在も思わぬ反撃を受けたことで、警戒を怠らなかったのかもしれない。地竜の動きを鑑みると、自分に接近してきた存在はどんなものであっても警戒する、という雰囲気があった」

「なるほど……エリアスさんとしてはそういう気配を感じ取り、前に出れば被害は拡大しないだろうと考えた」

「そうだな。結果、俺の推測通りに地竜は動いた。もし想定外の動きをしていたら、方針の変更は必要だったな」


 ――そもそも、エリアス自身が地竜へ挑んだことも戦場に立った時点で得た情報による推測だった。思わぬ動きをしたらエリアス自身が危険な状況に置かれていたが、犠牲者を少なくするためには、あれが最善の方法だったとエリアスは考える。


(凶悪な存在であり、魔獣オルダーと比べても力の大きさ、体格は圧倒的に上だったが……人間相手でも警戒する用心深さから、比較的行動が読みやすかった。そこが、勝機に繋がったんだろうな)


 エリアスは地竜との戦いを振り返り、そう結論づける。と、ここでジェミーがさらに続きを促してきた。


「そこから地竜との戦いに入るのだけれど……ここにも戦略が? まず、フレンさんが魔法を仕掛けたわよね」

「ああ、あれはフレンが持っているかく乱系の魔法の一つだ。東部では指揮官が魔物へ仕掛けるとなった場合、フレンのような後方支援的な立ち位置の人間が魔物の動きを縫い止めるために魔法で支援することがある」

「それが先ほどの魔法?」


 ジェミーの問い掛けにエリアスは首肯しつつ、続きを語った。


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