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魔法の雨

 先手を打ったのは地竜――その巨体に似合わぬ俊敏さで、真正面にいる聖騎士テルヴァヘ突撃を行った。

 巨大な存在が真っ直ぐ迫る光景は自然と全身に力が入ってしまう――それに対しテルヴァは声を上げた。


「結界展開!」


 刹那、彼の後方にいた魔術師数人が同時に杖で地面を叩いた。それと共に出現したのは、結界。高い連携と練度によって発動した結界は、エリアスの目から見ても完璧と評するほどの力を備えていた。

 地竜が結界に衝突する。凄まじい轟音が大気を震わせ、地竜は――動きを止めた。物理的な衝突で地竜としてはほとんどダメージはない様子だったが、突如出現した結界に対し警戒を示した様子。


 そこで、テルヴァはさらに動く。剣を振ると同時に魔術師達がさらなる結界を構築。それは地竜の体を四方から囲むように形成された。


「……なるほど」


 その結界を見てエリアスは理解した。結界によって地竜の動きを止めた。ただしあれだけ強固であるなら当然ながら人間側も攻撃することができない――しかし唯一、上は空いている。

 つまり、そこから――遅れて魔獣討伐のために派遣された勇者や騎士が地竜の横手から姿を現す。そして、


「攻撃開始!」


 テルヴァが叫んだ。すると、地竜へ向かって様々な魔法が生み出され、それが結界が空いている上空から、地竜へ向け多数降り注いだ。


「動きを縫い止め、上空から……」


 ジェミーはその光景を眺める。気付けば炎や雷撃を始めとした多種多様な魔法が、地竜の体へ――直撃。轟音と共に、爆発魔法による粉塵が生じ、結界の内側にいる地竜の姿が、一時見えなくなる。

 だがそれでもなお、追撃と言うべき魔法が地竜へ向け降り注いでいく。雨と形容すべきそれを見て、ジェミーを含めこの場にいた者達は誰もが思ったことだろう。


 圧倒的な攻撃――これで仕留められたのではないか。


「……さすがに、そう甘くはないか」


 だがそうした予想に反し、エリアスは呟いた。結界越しに感じられる魔力。地竜の存在感は、まだ健在であった。

 魔法による一斉攻撃が終わった後、一時人間側の動きが止まった。作戦は成功したが、その結果はどうなのか。エリアスは前方にいる聖騎士テルヴァへ目を向ける。彼は剣を構え動かない――その後ろ姿から、厳しい表情をしているのだと予想できた。


 そこで、地竜の咆哮。途端、竜を左右から挟む形の騎士や勇者達はさらなる追撃を繰り出すべく、魔法を放とうとした。

 だが、それよりも先に地竜が動く。咆哮による衝撃か、粉塵が一気に晴れて姿を現した。魔法を受けて多少鱗などに傷はついたようだが、遭遇時と魔力量はさほど変わっていない。少しばかり負傷した程度だろうと予想できる。


(犠牲を少なくするためには短期決戦が望ましいが、目の前の地竜相手にそんなことができるほどの力を出せる人間は皆無……という認識で良いだろうな、これは)


 エリアスは胸中で考え、悠長にしている時間はないと悟る。地竜は傷ついたが体勢を立て直して反撃に転じるだろう。

 とはいえ、まだ結界が健在――ここで地竜が動く。テルヴァへ向け突撃したのと同様に、その巨体を活かし結界へ体当たりを仕掛ける。再び地響きのような音が周囲に響き――結界に、亀裂が入った。


「結界の補強を!」


 聖騎士テルヴァが指示を飛ばす。それによって魔術師達は魔法により結界を後追いで強化するが、それでも地竜の動きは止まらない。

 その間にさらなる魔法が地竜へ向けて降り注いだ。一度でダメなら二度、三度と繰り返せばいい――エリアスがそちらを見ると、騎士や勇者を率いる人物が、叫んでいるのが見えた。


「撃ち続けろ! このまま地竜を一気に仕留めろ!」


 その言葉に応じるように、多数の魔法が地竜へ向けられる。その勢いはなかなかのものではあるし、結界によって動きを止められている地竜はただ魔法を受け続けるしかないが、


「……外皮をある程度傷つけた段階で、さすがに地竜も反撃するだろうな」


 エリアスはそう確信する。先ほど結界を壊すように動いたが、その行動に激しさが増すだろうと予想する。

 そんな考えは――見事的中した。再び粉塵によって結界の内側が見えなくなったが、地竜は再度結界へ攻撃を仕掛けた。しかもそれはテルヴァがいる真正面ではなく、横側。エリアスから見て左側。


 しかもそれは、先ほど魔法攻撃の指示を飛ばしていた騎士がいる方角。


(声を聞いて、指揮官が誰であるのか……というのを、地竜はおおよそ理解したのか?)


 どちらにせよ、もし結界が壊れれば、真っ先に狙われるのは聖騎士テルヴァではなく、魔法攻撃を仕掛けている者達であるかもしれない。

 そう予想をした時、エリアスは決断する。


「フレン、今はまだ動くな。俺が先行する」

「わかりました、ご武運を」

「ジェミーもこのまま待機だ。地竜の動きに合わせ、場合によってはフレンを連れて離脱してくれ」

「……何をするつもり?」


 問い掛けにエリアスは彼女を見返し、


「一度、仕掛けてみる」


 返答直後、四方を囲む結界の中で、左側の結界が地竜の攻撃によって破壊された。


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― 新着の感想 ―
こんばんは。 戦いの状況を見る感じ、地竜は一般ドラゴンみたくブレス吐いて来たりする感じでなくフィジカルで戦ってる→リアルなら噛み付きと尻尾がメイン武器のコモドドラゴン(もしくはワニ系)がイメージに近…
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