軍議と威嚇
そしてエリアス達は、魔物などと遭遇することなく最前線近くの砦に到達。だがここに来ても魔物の姿はない。
「思った以上に距離があるな……?」
「でも声からすると、地上に出てきているのよね?」
確認するようにジェミーは問う。だがエリアスも答えは持ち合わせておらず、とにかく確認しなければいけないと考える。
砦の門は開け放たれており、魔物らしき声が聞こえたにも関わらず不用心では――とエリアスは一瞬考えたが、すぐにその原因はわかった。砦内には多数の騎士がおり、エリアス達と同様に最前線へ様子を見に来た者達が多数おり、こうした人物を迎え入れるために解放している。
そうした中でエリアスは勇者ミシェナの姿を目に留め、すぐさま声を掛ける。
「ミシェナ!」
「……あ」
彼女は声を上げ、エリアスへと近づいてくる。
「情報集めにやってきた?」
「ああ、そうだ。俺とフレンにジェミーの三人で……他の砦も同じようにここへ来たみたいだな」
「そうだね……肝心の声の主だけど、地竜で間違いない」
ミシェナの言葉にエリアスは険しい顔つきとなる。その中でミシェナはなおも語る。
「ここには聖騎士テルヴァもいて、地竜の動きを監視しているんだけど……」
「肝心の地竜はまだ山奥にいるのか?」
「開拓の最前線……それこそ、現在進行形で進めている場所に、地竜はいる」
ミシェナの言葉にエリアスは「そうか」と応じつつ、一つ尋ねた。
「聖騎士テルヴァは……どうするつもりだ?」
「地上に出てきた以上、戦う腹づもりではいるみたい。でも、どう迎え撃つか……それで軍議をしている」
「……俺達はどうすればいい?」
訊いたが、そこについてはエリアス自身理解していた。あくまで自分達は情報収集のためにここへ来た。開拓最前線にいる騎士達が地竜と戦うのであれば、出番はない。
疑問に対しミシェナは、神妙な顔つきとなって答えた。
「そこが、軍議を行っている理由」
「……理由?」
「既に最前線に駆けつけて地竜へ挑もうとしている一団がいるの」
「……戦果を得るために派遣されてきた騎士や勇者か」
「そうだね。そういう人達を帰ってもらうために説得するにしても、すんなり同意するのかどうか」
「まあ無理だろうな」
エリアスは周囲を見回す。彼女の言う通り、情報収集にしては明らかに人数が多い一団が視界に入る。
「確認だが、北部に常駐していた戦力だけで地竜には対抗できるのか?」
「そこも現在不明……どうも、国が保有していた資料と比べても地竜の魔力量は明らかに増えているみたい」
「地底に居続けたことで強くなっているか……つまり、聖騎士テルヴァは現状の戦力で迎え撃つにしても多大な犠牲が出る可能性が高い。そこで、ここへ駆けつけた者達を戦力として組み入れるかどうか、軍議しているというわけか」
エリアスの言葉にミシェナは重々しく頷く――
(……最悪の、さらに最悪のケース……地竜へ独断で攻撃を仕掛けるような一団がいなかったのは幸いだが、この状況だと犠牲者が相当数出る危険性があるな)
「エリアス」
思考する間にミシェナが声を上げる。
「あなたはたぶん、ここにいるべきだと思う」
「……なし崩し的に、討伐に参加するってことか?」
「なんとなくだけど、今回の戦い……あなたがいなければ、勝てないような気がする」
「開拓最前線の騎士達は強いだろ? 魔力的にも猛者がウヨウヨいる……でも地竜は、それでも危険だと?」
「……国は、魔獣オルダーを討伐したことで、さらなる脅威を排除しようと考えた」
ミシェナは声がしたと思しき北側へ目を向けながら言う。
「でも、今回の地竜は……なんというか、根本的に違う気がする。魔獣オルダーが魔物の領域、その地上で闊歩していた存在なら、地竜は文字通り地の底で力を蓄え続けた存在。国だって、もしかするとここまでの強さだと想定はしていないんじゃないかな」
「……観測した魔力量だけで、聖騎士テルヴァも懸念するレベルってことか」
エリアスが言うとミシェナは苦々しい表情で首肯する。
「その魔力量、確認することはできるのか?」
「より詳しいデータは、聖騎士テルヴァに掛け合ってみないとわからないけど――」
彼女が言いかけた時、再び声が聞こえた。それは距離がずいぶんと近くなったことで咆哮であることが明瞭にわかるもの。そして声に乗って、魔力までビリビリと感じ取ることができた。
「……エリアスさん」
そこでフレンが声を発した。エリアスとしては何が言いたいのか即座に理解する。
「この声、威嚇だったのか」
声と共に魔力を発し、人間達を牽制している――
「俺達の砦ではこの魔力までは届かなかったが……最前線では鮮明に感じるな」
「確かに、まともに戦ったらヤバそうね」
発言したのはジェミー。威嚇とはいえ地竜の魔力を目の当たりにして、厳しい表情。
エリアスはそこで周囲を見る。威嚇の魔力――地竜が持つ力の一端ではあるが、それを肌で感じて周囲の騎士や勇者はどういう反応なのか。まずはそれを確認した。




