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過去の記憶

「……仮に俺の考えが正解だとしても、暴くことの意味はないな」

『それはどうして?』

「解明したところで、俺の知識は役に立たない。それを調べても、先がない……というより、調べても地竜を倒すようなヒントにはなり得ない。そう思っただけだ」

『ああ、確かにそうかもしれない……が、もし君の考えていることが真実ならば、思うところはあるだろう? それが気にならないのかい?』

「……地底は、俺達が想像もしない形で繋がっているだろう。北部と東部……地底からすれば、あまり人間の区分けは意味がないかもしれない」


 エリアスはそこまで言うと、ロージスを見やる。


「だとしたら、お前の気配を漂わせているのだって、それほど奇特なことではないかもしれない」

『……やれやれ、もう少し揺さぶられるかな、と思っていたけど一切通用しないみたいだね』


 どこか残念そうに、ロージスは語った。


『わかったよ、今日のところはここまでしておく。けど、わかっているだろう? 僕の気配が漂っていた事実を踏まえれば、いずれ僕の足跡を辿ることになる』

「……お前は確か、魔物の王を自称していたな」


 エリアスは過去の記憶を呼び起こすように、ロージスへ告げる。


「北部にいる魔獣も自分の配下だと言いたいのか?」

『さあ、どうだろうね?』


 肩をすくめたロージス。それと共に意味深な笑みを浮かべる。


『でも、確実に言えるのはオルダーと呼ばれた魔獣には僕の力が宿っていた……それで、力関係はわかるだろう?』

「魔獣オルダーがお前を生み出した可能性もゼロじゃないが」

『なるほど、オルダーこそが母というわけか……冗談を言うにしても、もう少し面白いものにしなよ』


 ――途端、周囲の空気が変わるような声を発した。無論目の前のロージスはエリアスの幻覚であるため、現実に影響を及ぼすことはない。

 だが、そう感じるほどのプレッシャーを、エリアスはしかと感じ取る。


『たかが魔獣の分際が、僕の母だと? 君はそんなこと、これっぽっちも思っていないだろう?』

「……そこまで不快にできたのなら、今後これをネタにすればお前は出てこなくなるか?」

『ははは、さすがにそんな馬鹿なことにはならないさ……とはいえ、だ。あんな魔獣を脅威と見なしている北部のレベルが面白い。開拓の最前線に対し君はさらに強くなるためのヒントが得られると期待をしていただろう。けれど、実際はどうだ?』


 ロージスはなおも語る。


『実際は日々政治闘争を繰り返す愚かな場所だった。君の失望は大きかったのではないか?』

「そうでもないさ。これはこれで面白いし、何より人が多い場所だ……勉強になることも多い」

『けれど、武を極めるにはあまりに周りが弱いと思うよ? 僕と戦った君が全盛なら、今の君はどれほどの強さか――』

「残念だが」


 と、エリアスはロージスの言葉を止める。


「お前を斬った時が全盛じゃない……死線をくぐり抜け、ほんの一瞬だけど、武の極みが見えたかもしれない。だがそれは、その時に感じたものだ。今の俺は……まだ先があると理解できる」

『ずいぶんと、武を極めるという行為を高尚なものとして見ているねえ』

「お前がどう思おうが構わない……だが、武を極めるにはまだまだ先がある。例え北部がどういう状況であろうとも、人が多数集まるあの場所が、間違いなく俺を強くする何かがある場所だ。揺さぶりのつもりかもしれないが、俺には通用しないぞ」


 エリアスの発言にロージスは沈黙。だが、その表情は少しずつ笑みに変わっていく。


『そう、なら今日はここまでにしよう……だが、憶えておくといい。地竜とやらの力……その源泉を知れば、君はいずれ僕の幻影を追い掛けることになるだろう』

「……お前は俺の記憶が作り出した幻影だ。過去に俺と対峙したロージスじゃないし、その記憶なんてものは存在していない。であるなら、地竜云々なんてお前はなぜ理解しているんだ?」

『僕は確かに君が作り出したものだ。強烈な戦いの記憶によって生まれてしまった存在だと言って良い。だが同時に、君が無意識に感じ取った情報を、僕は理解できてしまう』


 ロージスはそう返答した後、胸に手を当てた。


『わかっているはずだ、僕がどういった存在なのかを……猿の形をした魔獣と戦った時、君は切り札を通して地底の中をほんの一瞬、知覚できたはずだ。そして、君の意識では気付かなかった事実がある。あの洞窟の奥にある地底……そう遠くない場所に、地竜はいた』


 ロージスは言う。エリアスはそれに黙し何も語らず――


『あの切り札を使うために、君は可能な限り身体強化も行った。それは感覚を鋭敏化させ、地竜の気配に触れた。それは君の記憶に残らなかったが、僕には明瞭に感じ取ることができた……これは警告だ。地竜はそう遠くない内に出現する。開拓を行う人間を喰らい尽くすため、仕掛けてくるだろう――』


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