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聖騎士の休日

 エリアス自身に特別な趣味などはない――のだが、時折一人で町に入り好きなように過ごす、というのが趣味と言えば趣味であった。とはいえやることは適度に歩いて適当なタイミングで食事をして、また町を見回る――買い物をする時もあれば、何もなくただひたすら歩くだけの時もある。

 今回、この町においてはどうか。フレンから言い渡された仕事を終え、自由に動き回れる状況となったわけだが、


「人が多すぎるなあ」


 大通りを眺めながらそんな感想を呟いた。どこを見ても人、人、人という状況下で、歩こうという気が段々と失せてくる。


「ま、宿を見つけてゆっくりするとかでもいいか……あるいは、そこそこ料理の美味い店とか探すか」


 ここで高い店、などと言えないところがエリアスの性格を表していた。聖騎士である以上は、それなりに給金もあり――というより、貴族と肩を並べる存在のはずだが、本人は一切そうした自覚がない。

 エリアスはひとまず宿をとり――これも、そうグレードが高いわけではない――町を見て回ることにする。北部最前線へ向かうための交易中心地。そのため多種多様な人がいて、店の種類も多種多様だった。


(東部にはこれほどの規模を持つ町はなかったな……)


 エリアスはそんな風に思いながら歩を進める。やがて雑貨屋を見つけて店内を見て回ったり、あるいは飲食店に入り食事をとったりする。

 エリアスにとっては、典型的な休暇の一日――とはいえ、基本的に仕事しかしていないため、こんな日は一年の内に数日あるかないか、といったレベルのもの。それでいいとエリアスは思っているが、


「砦にいる人達にもちゃんと休ませないと……いや、その辺りはノーク殿がちゃんとやっているか」


 エリアスはそう呟きつつ、食事を済ませて大通りを進む。


 ――武を極めるため、剣を振り続けるために休むことをしない、という面もある。それがエリアスにとって最大の目標であるし、それのためには休んでいられない、などと感じることもある。

 しかし、もう一つ理由があった。休むことで何も考えない時間が増えれば、憂鬱なことが起きる。とはいえ今のエリアスにとってそれは、もう慣れたことではあるのだが。


 この点についてはフレンにも話していない――墓まで持って行く気ではあった。


「今日も来るかな……」


 そしてそのことを歩きながら考える。こういう思考になるのが嫌であまり休みを取らないというのもあるが、今回はやることが多すぎてリフレッシュしようという目的。エリアス自身が望んだ以上、とにかく町を見て回る――そうすることで今は、他のことを忘れることができるから。

 エリアスは人通りに多い町中を歩き続ける。どこを見ても人、という状況は間違いなくルーンデル王国が繁栄し、さらに北部の開拓によって多くの人材や物資が集まっていることを意味していた。


「開拓……いつまで続くんだろうな」


 北部は資源が豊富であり、だからこそ魔物の領域を開拓している。もしルーンデル王国として望むような資源が手に入れば、開拓は終わるのか。


「……国は開拓に相当な金を注いでいるはずだ。開拓によって手に入る資源とペイできなかったら開拓は終了、ということになるんだろうけど」


 少なくとも、今はそんな状況になるとは考えにくい――エリアスは周囲を見る。多数の人が開拓のために往来し、もしかすると地竜などを討伐するために動員された人間や物資だってここにはあるはずだ。


「……まずは目先の戦いか」


 エリアスがいない今も、北部では地竜討伐のために着々と準備が進められているはずだった。そこには多数の騎士が動員され、政治闘争を含め様々な戦いが発生している。


「……もし地竜と戦うことになっても、なんて可能性を考慮し訓練は続けているが、さすがにないと思いたいな」


 呟いた時、エリアスは北部での戦いについて考えていることに気付き、一度思考を止めた。

 歩き続けても色々と考えてしまう、とエリアスは少し方針転換をする。町を見て回る間に発見した町の案内所の情報を頼りに、大通りから外れて路地へ。そこはポーションを購入した所と比べ道幅は広く、大通りと比べれば少ないにしろ様々な店が建ち並び、人通りもそれなりにあった。


 そこで見つけたのはオープンカフェ。せっかくだしここでお茶でも飲もう、と考えて店に立ち寄る。人が歩む様子を眺めつつ、エリアスは席についてお茶を注文した。

 それを待つ間に、ふと空を見上げる。綺麗な日差しと雲がほとんどない快晴。地面に太陽光が反射してまぶしいくらいだが、気温は汗ばむほどではなく、気を抜けば眠ってしまいそうなくらいポカポカしている。


 エリアスは疲労を感じているわけではなかったが、ずっと歩いていたためか少し睡魔が訪れた。けれど目が閉じきる前にお茶が運ばれてきて、ひとまずそれを一口飲む。

 少し眠気が晴れた――そんな風に思った時、エリアスの身に――それは起こった。


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