降りかかる仕事
ミシェナが砦にやってきて以降、フレンは情報収集を継続し、その一方でエリアスは鍛錬を続けながらも次の戦いに備え、自身もまた可能な限り情報収集を行う。
それと平行し、ジェミーが行う魔法の連携訓練の確認と、エリアスが持つ切り札の分析なども行う――
(やることが多くないか……?)
ある日、エリアスは心の中で呟いた。地竜という凶悪な敵が目前に迫ってくるかもしれないという状況から、エリアスは色々なことに手を出している。下手をすれば――いや、考えなくとも東部で戦っていた時よりも忙しい。
忙しいこと自体は慣れているし、現在の状況よりも遙かに危機的な状況が東部の戦いではあったので、それと比べれば疲労感は少ない。しかしふと考えてしまう。自分は後方支援の砦にいて、最初はゆっくりしようとか言っていなかっただろうか、と。
(もうなんか真逆の道を進んでいるんだが……)
「エリアスさん、どうしましたか?」
フレンに声を掛けられる。はっとなった時、自室でフレンから情報収集の報告を聞いているのに気付く。
「ああ、すまん……それで報告は?」
「地底の調査については継続しています。しかし、地底側の反応はありませんね」
「そっか……俺の懸念が取り越し苦労ならいいけど」
「……先ほどぼーっとしていたようですが、何かありましたか?」
「なんとなく思ったんだよ……忙しくないか? と」
「それはまあ、確かにそうですね」
と、フレンも最近の仕事を思い返し同意した。
「動き回っていますからね」
「東部で魔物討伐しているより忙しいよな、これ」
「ここ、後方支援の砦なんですけどね。ノーク殿がやる気になって以降、色々とみるべきところが多くなって忙しくなりました」
「……戦力アップというのは良い話ではあるんだが、明らかに仕事が集中しているな」
「そういえばエリアスさん、ゴーシュさんを受け入れる話はどうなりました?」
「ああ、それについてなんだけどもう少し時間が掛かるっぽい。主に東部側の問題で」
「何かありましたか?」
「少し魔物の出現頻度が上がっているらしい」
「……東部でも?」
フレンは目を細める。彼女が言いたいのは北部と東部――魔物の動きが連動しているのでは、という点だ。
「ああ、東部でもそう……地底は繋がっているし、北部も東部も関係ないかもしれないから、関連性はあるかもだが、現時点では不明だ」
「……そちらも調べましょうか」
「北部にいる俺達に東部の情勢を詳しく調べられるか?」
「わかりませんが、調べることができればいつゴーシュさんが来るかの予想は立てられますし」
「そうだな……ただ、優先すべきは地底の調査に関する情報だからな」
「わかっています。しかし東部から人を、というのは上手くいかないかもしれませんね」
「地竜との戦いには間に合わないかもしれない。それを前提に、話を進めていくべきだな」
「……ジェミーさん達に東部で使用していた魔法を教えていたようですが、地竜に通用するでしょうか?」
フレンが話を変える。それに対しエリアスは、
「そこは賭けだな……訓練しているとはいえ東部で使用する面々とは練度で大きな違いがある。実戦で使用するにしても、成功するかどうかも不明だ」
「経験を積まないといけませんが、肝心の経験を得る場所がない……」
「これは大型の魔物に対し使用する戦法だから、開拓最前線でもないこの砦だと、実戦なんてまあ無理だろうな……でも、だからといって無意味というわけじゃない。あの魔法は魔術師同士呼吸を合わせる良い訓練になる」
「応用すれば他の魔法……攻撃魔法にも転用できる、と」
「そうだ。むしろ今後はそっちがメインになるかな。単独では威力が高くないにしろ、五人ほどで魔法を使えば十分過ぎるほどの力になるし、危険度三くらいまでの魔物なら、打倒できるだろう」
「そういったことも見越していましたか」
「さすがに将来的に役立つだろう、と思っていないと提案はしないさ……ノーク殿も連携訓練については良いと評価している。当面はそこを伸ばしていく方向に進むだろう」
と、ここでエリアスはため息を吐く。
「それでまあ、ジェミー達の方は俺が面倒見なくてもいいだろう。ジェミーが率先してやっている俺の技に関する分析も後回しにしていいし、彼女達は当面俺がいなくても問題はない……他もまあ、つきっきりで俺が見る必要はないと思うんだが……」
「休みたいという顔をしていますね」
「色々と仕事をして疲労もちょっとずつ蓄積しているからな……この部屋で一日中寝るとかでもいいんだが、気分転換に外に出るとかもいいな」
「なら一つ提案があります」
思わぬフレンからの言葉。エリアスは眉をひそめ、
「何かあるのか?」
「エリアスさんが休暇を取ることはノーク殿も許すでしょう。せっかくですから、数日程度お休みになって頂ければ……それで、一つ頼みたいことが――」